第四話:老舗のプライドと、消えない綻び
【新キャラクター設定資料】
◆ 北条 氏政
キャラ: 『老舗旅館の頑固な大女将 / 伝統守護の保守派』風。
北条グループの会長。秀吉の成金主義が大嫌いで、関東の伝統と格式(小田原城という名のブランド)を守ることに固執している。常に着物を着崩さず、お茶を点てながら「関東の流儀」を説く。
口癖: 「伝統が足りませんな」「豊臣のやり方は下品ですわ」「小田原の壁(ブランド力)は崩せません」。
◆ 風魔 小太郎
キャラ: 『闇の便利屋 / ダークウェブのハッカー忍者』風。
北条家に仕える風魔忍者の首領。全身黒ずくめで、サイバーパンク風のマスクとゴーグルを着用。情報収集と撹乱(DDoS攻撃)が得意。
口癖: 「タスク完了」「システムの脆弱性を検知」「ダークウェブに流しますか?」。
豊臣メガバンクグループのEDM雅楽が鳴り響く包囲網の、さらに内側。
北条グループの本社城郭、小田原城内は、外の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
「……秀吉殿のやり方は、相変わらず下品ですわね。タイム・イズ・マネー? 伝統は、黄金なんかじゃ買えやしませんのに」
天守閣の一室で、一糸乱れぬ所作でお茶を点てているのは、北条グループ会長、北条氏政だ。
彼女(?)は、関東の老舗ブランドを守り続ける顽固な大女将のように、着物を凛と着こなし、秀吉のTOB(敵対的買収・参陣要求)を「成金の道楽」と切り捨てて、優雅に籠城という名の「営業継続」を決め込んでいる。
「会長。豊臣陣営の通信(雅楽)にDDoS攻撃(撹乱)を仕掛けましたが、徳川家康のファイアウォール(精神防御)が厚く、効果は限定的です」
部屋の暗がりから、サイバーパンク風のゴーグルを光らせた風魔小太郎が、ヌッと姿を現した。
「小太郎。焦りは禁物ですわ。豊臣の雅楽など、我が小田原の壁(ブランド力)の前では、ただの雑音。システムの脆弱性を検知(粗探し)するより、まずはこの美味しいお茶を点てることに集中しなさい」
「……了解。タスクを変更、お茶の温度管理に入ります」
小太郎は、大女将のマイペースっぷりに、静かにゴーグルの光を明滅させた。
北条家には、四代にわたって築き上げてきた、関東の伝統という名の絶対的な「プライド」がある。
秀吉の金のネックレスも、三成のコンプライアンスも、この老舗の格式を崩すことはできない。彼らは、この静寂の中で、黄金の怪物が自滅するのを、静かに待ち構えていた。
***
一方、その頃。奥州・伊達家のオフィス(第1会議室)は、蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。
「政宗様! データが出ました! 豊臣メガバンクの資本力(戦力)と我々伊達グループのキャッシュフロー(兵力)の差は……1対1000! この理不尽なTOBを突っぱねれば、我々のスタートアップは開始3秒で更地になります! エビデンス(証拠)は明白です!」
片倉小十郎が、そろばんを凄まじいスピードで弾きながら、顔面を蒼白にして叫んだ。
「ゴチャゴチャうるせぇ! 小十郎、テメェはデータばっかり見てるから、大胸筋が育たないんだ! 筋肉は裏切らない! 豊臣の成金オヤジなど、ウチの全社員(藩士)のバルクアップ(筋肥大)で粉砕してくれるわぁぁッ!」
伊達成実が、持っていたプロテインの樽を握り潰し、筋肉をピクピクさせながら怒鳴り散らす。
「成実は黙ってろ! ……マズイ、マズイぞ、小十郎。ウチの会社は、社員(家族)を売ってまで生き残るようなブラック企業じゃねぇ。だが……会社が潰れれば、綺羅も含めて全員路頭に迷う」
伊達政宗は、レザージャケットの襟を荒々しく掴み、ギリッと歯を食いしばった。
CEOとしての責任と、妹への愛情。
政宗の「イノベーション(革新)」の炎が、豊臣という巨大な黄金の濁流を前に、消えかかっていた。
――その時。
「……あたしが、行きます」
会議室のふすまが静かに開き、綺羅姫が足を踏み入れた。
桜色の小袖を袴にたくし込み、芯が強く凛とした美少女。薫のようなお転婆娘だ。
「綺羅!? お前、なんでここに……!」
「お兄様。あたしが秀吉のところに行けば、伊達の会社(領国)は守られるんでしょう? 誰も血を流さずに、ウィンウィンの関係になれるんでしょう?」
「ば、バカ野郎! お前を身代わりにして生き残るなんて、俺はウィンウィンだなんて認めねぇ!!」
「あたし……。宗次郎に会えて、本当に嬉しいんです。だから……ずっと、宗次郎のそばにいたいって、いつも思うんです」
綺羅は、ふと、会議室の隅で静かに木刀の手入れをしていた神堂宗次郎に、視線を向けた。
ポカポカとした春の陽だまりのような笑顔。一切の攻撃型を持たず、相手の力をいなして、誰も血を流さずに戦いを終わらせる、一番優しくて強い剣術『夢想静水流』。
(……でも。誰かの居場所を奪ったり、傷つけたりして生きるくらいならば……あたしは、道端の石ころにでもなれたならいいなって、いつも思うんです)
绮羅の胸の奥が、痛いくらいに締め付けられた。
消えない悲しみも、かつての戦の綻びも、あたしの犠牲で、それでよかったねと笑える気がした……だからこそ、あたしは、伊達の会社を守るための『犠牲』の力になる。
「绮羅! お前、なに勝手なこと言ってんだ! お前の気持ちは……宗次郎の気持ちはどうなるんだよ!!」
政宗が、涙目で叫んだ。
「……あたしの気持ちなんて、どうでもいいんです。伊達の会社が、お兄様が、宗次郎が、幸せでいてくれるなら。あたしは、黄金の身代わり(側室)にでも、石ころにでもなってやる」
綺羅は、振り返り、宗次郎を真っ直ぐに見つめた。
その瞳には、かつての薫のような、芯の強い決意と、深い、深い悲しみが、同居していた。
「宗次郎。あたしに会えて嬉しいって、いつか言堂々と呼べる日が来ればいいのに……ありがとう。あたし、あなたの名前を、いつか堂々と呼べる日が来るのを……信じてるから」
綺羅は、そう言い残すと、振り返り、会議室から足早に去っていった。
桜色の小袖が、夕暮れのオフィスに、切ない綻びを残して。
***
その夜。伊達家の道場。
「……綺羅。あなたは、本当に……バカみたいに優しい人ね」
宗次郎は、一人、道場の隅で、愛刀『玄武』の手入れをしていた。
通常の刀の三倍の厚みを持つ峰。その刀身には、誰も見たことのない特殊な絡繰が仕込まれている。一切の攻撃型を持たず、相手の斬撃を水のように受け流し、無力化することのみに特化した絶対防御の剣術。
消えない悲しみも、かつての戦の綻びも、この小さな手と笑顔があれば、それでよかったねと笑える気がした……だからこそ、私は、道端の石ころにでもなれたならいいなって、いつも思うんです。
「……でも。誰かの居場所を奪い、あなたを身代わりにするような理不尽な世界なら」
宗次郎は、玄武の刀身を、静かに鞘に納めた。
そして。
彼のその細められた瞳の奥には、綺羅だけが知っている、そして誰も見たことのない、氷のように冷たく、すべてを撃ち抜く『夜叉』の光が、ほんの一瞬だけ瞬いていた。
「……私が、すべて撃ち落としますから」
宗次郎は、道場の暗がりから、分厚い布袋を取り出した。
その中で、16丁の火縄銃と短筒が、主の怒りに呼応するように、カチャリと冷たい鉄の音を立てた。
消えない悲しみも、かつての戦の綻びも、この小さな手と笑顔があれば、それでよかったねと笑える気がした……二人の確かなぬくもりの上に、戦国の過酷な嵐が、もうすぐそこまで迫っていた。




