第三話:マインドフルネスなタヌキと、迫り来る黄金のTOB
【新キャラクター設定資料】
◆ 徳川 家康
キャラ: 『オーガニック志向のマインドフルネス・グル(指導者)』風。
豊臣メガバンクの最大提携先(実質的ナンバーツー)のトップ。ストレス社会の戦国を生き抜くため、極度の健康志向に行き着いた。オーガニックコットンの着物を羽織り、常にマイタンブラーで特製グリーンスムージー(青汁)を飲んでいる。
口癖: 「まあまあ、深呼吸して」「それは腸内環境に悪いですぞ」「チャクラが乱れておる」。
腹黒いタヌキオヤジだが、表面上はヨガのポーズを取りながら温厚に振る舞っている。
◆ 真田 幸村
キャラ: 『Z世代のプロeスポーツゲーマー / FPSの天才』風。
豊臣グループにヘッドハンティングされた若き天才ゲーマー武将。陣羽織の代わりに真っ赤なオーバーサイズのゲーミングパーカーを着こなし、首には高音質のノイズキャンセリング・ヘッドセットをかけている。
戦を完全に「FPS(一人称視点シューティング)ゲーム」として捉えており、手元のコントローラーでドローン型の小型火砲を操る。
口癖: 「GG」「エイム(的を絞る力)がガバガバっすよ」「おっさん達、ピング(通信速度)高すぎ」。
相模国・小田原。
北条グループの本社城郭を包囲する、豊臣メガバンクグループの特設キャンプ(本陣)では、今日も重低音のEDM雅楽が鳴り響いていた。
「あーっ! イライラするぜ! 小田原の連中、いつまで城に引きこもってんだ! タイム・イズ・マネーだぞ! ワシの黄金の時間をこれ以上ロスさせんな!」
純金のディレクターズチェアにふんぞり返る豊臣秀吉が、苛立ち紛れに金の扇子をへし折った。
「まあまあ秀吉殿。怒りは活性酸素を生み出し、お肌のターンオーバーを阻害しますぞ。さあ、一緒に深呼吸して、丹田に宇宙のエネルギーを感じるのです。スー、ハー……」
秀吉の隣で、ヨガの『立ち木のポーズ』を完璧にキメながら目を閉じているのは、徳川家康だ。
彼はマイタンブラーに入ったドロドロの特製グリーンスムージーをストローで啜りながら、極めて穏やかなオーラ(という名の腹黒さ)を放っている。
「家康、テメェのその青臭ぇ飲み物は見てるだけで気分が下がるんだよ!」
「これは無農薬のケールと明日葉をコールドプレスしたものです。戦陣のストレスは腸内フローラを破壊しますからな。……おや、幸村殿。また画面ばかり見て、ブルーライトは目に悪いですぞ」
「……あー、うるさいっすよ家康のおっさん。今、北条の防衛ラインにドローンで索敵かけてるとこなんで。話しかけないでくれます?」
陣幕の隅のゲーミングチェアに深く座り込んでいる真田幸村は、手元のコントローラーから一切目を離さずに答えた。赤いパーカーのフードを深く被り、指先だけが異常なスピードで動いている。
「ほら、北条のモブ兵士ども、エイムがガバガバすぎ。はいヘッドショット。……ていうか秀吉さん、北条の城落とすの、もう俺一人でGGっすよ?」
「幸村、テメェはゲーム感覚で戦すんじゃねぇ! これはウチのメガバンクの威信をかけた巨大プロジェクトなんだよ!」
秀吉が苛立ちを爆発させていると、アルコールの入った霧吹きで空間を除菌しながら、石田三成が進み出てきた。
「秀吉様、ストレスで血圧が上がっておりますよ。……それはさておき、黒田官兵衛殿から上がってきたデータによりますと、奥州の伊達政宗は、未だにこちらの参陣要求(TOB)を既読スルーしております」
「ああん? あの田舎のベンチャー野郎、ワシのDMを無視してんのか?」
秀吉の目が、スッと爬虫類のように細められた。
「伊達政宗……チャクラの乱れを感じる若者ですな。しかし、彼の会社が持つ奥州のマーケットは魅力的です。強引にでも、こちらのプラットフォームに乗せるべきかと」
家康がスムージーを啜りながら、ニコニコと笑う。
「ふん。生意気なガキには、大人の資本力ってやつを分からせてやらなきゃなんねぇな」
秀吉は、懐から純金で縁取られた最新の果たし状を取り出した。
「おい三成。伊達に最終通告のDMを送れ。『すぐに小田原のイベントに出席しろ。遅刻したら会社ごと更地にする。……それと、噂の美少女の妹は、ワシの専用アカウント(側室)として大坂に納品しろ』とな」
秀吉の口角が、いやらしく吊り上がる。
「あの極上のコレクションが手に入るなら、少しくらいの遅刻は多めに見てやるよ。イェーーーーア!!」
***
上方でそんな真っ黒なディールが交わされていることなど露知らず、奥州・伊達家のベンチャーオフィス(城内)は、今日も平和な空気に包まれていた。
「宗次郎、はい、あーんして」
「えっ、あ、いや……綺羅、さすがに皆の目がありますから……」
縁側で、神堂宗次郎は顔を真っ赤にして後ずさっていた。
彼の手には、修繕を頼まれた若手藩士のボロボロの木刀が握られている。そして目の前には、手作りのおはぎを箸でつまんで、宗次郎の口元にグイグイと押し付けてくる綺羅姫の姿があった。
「いいじゃないですか! いつも皆のために防御ばっかりして、自分のご飯は後回しにしてるんだから。ほら、口を開けないと、無理やりねじ込みますよ!」
「わ、分かりました。いただきます……うん、美味しいです」
宗次郎が観念しておはぎを頬張ると、綺羅はパァッと花が咲いたような笑顔を見せた。
ポカポカとした昼下がり。
誰かの居場所を奪うような戦いなど、ここには存在しない。宗次郎にとっては、この縁側で綺羅の笑顔を見ている時間こそが、何にも代えがたい「奇跡」だった。
(もし、私がただの石ころだったなら。……身分の違いも、戦国のしがらみも気にせず、ずっとこの手を取っていられるのに)
宗次郎がふと、そんな叶わぬ夢想に耽っていた、その時だった。
「……ッッッ、ヤバいヤバいヤバい!! 全員、至急第1会議室にアセンブル(集合)!!」
ドタドタドタッ!! と廊下を凄まじい足音を立てて走ってきたのは、伊達家の若きCEO、伊達政宗だった。
いつもはスタイリッシュに決めている彼だが、今は顔面を蒼白にし、手にした最新の密書(巻物)をワナワナと震わせている。
「お兄様? どうしたんですか、そんなに慌てて」
綺羅が首を傾げる。
「政宗様。廊下を走るのはコンプライアンス的にNGですよ。何か深刻なエラーでも発生しましたか?」
片倉小十郎が、そろばんを弾きながら冷静に現れた。その後ろからは「筋肉がしぼむような悪い知らせっすか!?」とプロテインを片手にした伊達成実も顔を出す。
「エラーなんてもんじゃねぇ! 豊臣メガバンクから、最終通告のDMが届いたんだよ!!」
政宗は、バンッ! と巻物を床に広げた。
「な、なんだって……!?」
小十郎が伊達メガネを押し上げ、巻物の内容を高速でスキャンする。
「『小田原のイベントに直ちに出席せよ。遅刻のペナルティとして、伊達グループは解体、あるいは吸収合併とする』……。マズイですね、政宗様。我々のスタートアップが、完全に目をつけられました」
「それだけじゃねぇんだよ! その下を読め、小十郎!」
政宗がギリッと歯を食いしばる。
小十郎の目が、巻物の最後の一行でピタリと止まった。
「……『ただし、妹である綺羅を豊臣の専用アカウント(側室)として納品すれば、ペナルティは免除してやる』……だと?」
ピキッ、と。
縁側の空気が、一瞬にして凍りついた。
「なっ……! 綺羅様を、あの成金オヤジのところにだと!?」
成実が持っていたプロテインの樽を握り潰す。
綺羅の顔から、スッと血の気が引いた。
「あたしが……秀吉の、側室に……?」
政治の道具。大企業に飲み込まれないための、ただの生贄(身代わり)。
自分が戦国の世の大名の娘に生まれた時点で、いつかこんな日が来るかもしれないと、頭の片隅では分かっていた。だが、いざその現実が突きつけられると、足の震えが止まらなかった。
「ふざけんじゃねぇ!!」
政宗が、レザージャケットの襟を荒々しく掴んだ。
「ウチの会社は、社員(家族)を売ってまで生き残るようなブラック企業じゃねぇ!! こんな理不尽なTOB、絶対に突っぱねてやる!!」
「お待ちください、政宗様! 感情論で動いては会社が潰れます! 豊臣の資本力と我々の戦力差のエビデンスは……!」
小十郎と政宗が激論を交わし始める中。
綺羅は、ふらつく足で一歩後ずさりし、そのまま床にへたり込みそうになった。
――その体を、大きな手が、背中からそっと支えた。
「……宗次郎」
綺羅が見上げると、そこには、いつものポカポカとした笑顔の神堂宗次郎がいた。
しかし。
彼のその細められた瞳の奥には、綺羅だけが知っている、そして誰も見たことのない、氷のように冷たく、すべてを撃ち抜く『夜叉』の光が、ほんの一瞬だけ瞬いていた。
「……綺羅。大丈夫です」
宗次郎は、誰にも聞こえないほどの小さな声で、しかし絶対に揺らぐことのない決意を込めて囁いた。
「誰かの居場所を奪い、あなたを身代わりにするような理不尽な世界なら。……私が、すべて撃ち落としますから」
穏やかな剣術指南役の背中にある、分厚い布袋。
その中で、絡繰大盾刀『玄武』と、16丁の火縄銃が、主の怒りに呼応するように、カチャリと冷たい鉄の音を立てた気がした。




