表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

二、深緑の瞳と琥珀の瞳

夕方、アイリーンは重い足を引きずって厩舎きゅうしゃへと向かっていた。その訳は先日ある旅人が借馬しゃくばしていった灰馬楼かいばろうの所有馬テクスが怪我をして帰ってきたからだ。朝笑顔で見送ったあのテクスが、、と思うと胸が痛くなるアイリーン。

彼女が応急処置として基本教養の一環で齧った程度の治療魔法をかけたが少し痛みが残っているようだ。

「馬にとって足の怪我は生死に関わるんだよね。」

怪我そのものが生死に関わる訳ではなく、足が使えなった場合の治療法がないのだ。動くこともままならず、痛み続ける足を放置することも出来ない。そうなれば天へと見送るほかない。


***


厩舎の木の扉を押して左右に五つずつ並ぶ馬房を見渡してからテクスの馬房の前に立つアイリーン。馬房内の床に敷かれた藁の上に横たわるテクスを鑑定魔法で見る限り怪我は治っているようだが無理に回復させ過ぎたのか周りの筋肉が少し痛む様子だ。

アイリーンが中へ入ってテクスの首を撫でる。焦げ茶色の毛並みはよくとブラッシングしていたおかげか触り心地がいい。彼女の手が首から耳元へ移動するとテクスの目が細められる。

「テクス。早く良くなるといいね。」

アイリーンの言葉に答えるようにテクスが鼻を鳴らす。気の済むまでテクスを撫でまわし仕上げに怪我をしていた足に治療魔法をかけて厩舎を後にする。

彼女の生活のほとんどは厩舎の前にあり大通りに面している三階建ての建物と厩舎で完結している。建物の一階部分は馬屋の受付兼馬具販売、二階部分は倉庫と談話室、そして三階部分がアイリーンの私生活空間だ。

アイリーンは三階へと続く階段を二階まで登り談話室のソファーに腰を掛ける。ソファーの前にあるローテーブルの上には瑠璃色の封筒に入った手紙が置かれている。アイリーンはその手紙を見ながらひじ掛けに体重を傾ける。


青色の封筒に紫陽花(アジサイ)と交差する二本の剣の封蝋(ふうろう)

ーーーセレナーデ家からの手紙だ。ーーー


今朝、新聞の配達と一緒に郵便受けに入れられていた。アイリーンは手紙に目をやりながらため息をつく。


「居場所、、、いや、住所まで突き止められているとは、、さすが伯父様。」


セレナーデ家ーーーー。この家門はアイリーンの伯父、父の兄が当主を務めている中位貴族の家門だ。家を出ただけで縁が切れたとはアイリーン自身も思ってもいなかったが、当主直々に手紙を送ってくるとは予想だにしていなかった。


ーーー拝啓アイリーン

そちらは元気にやっているかい。私たち家族はついこの間隣国への視察を終えて領地に戻ったよ。たわいもない話を書きたいところなんだが、単刀直入に用件を言うよ。アイリーン家へ戻っておいで、話はそれからするよ。

                                   ーーーハイロ・セレナーデ


短いけれど、伯父様の言いたいことは何となくわかる気がする。単刀直入に綴られた帰省の願い。いや、命令に近いだろう。忙しいはずの領主が直筆の手紙を出すこと自体珍しい。しかも、家出して連絡を四年も絶っていた分家の娘に対してとは、、余程のことがあったようだ手紙にも書けない程とは、とアイリーンは思う。

再びため息をついて「どうしたものか。」と頭を抱える。

ソファーに体重をかけ体を沈める。深く息を吐いて目を閉じると、階段を上がっていく足音が聞こえる。


「アリィー、ルイがそっちに行ったから捕まえてくれるか。」

ドアの下、一階から聞こえてくるその声と同時に談話室の扉が勢いよく開かれ、栗色のふわっとした巻き毛の男児が入ってくる。

悩み事で重たい体を起こし捕まえる体勢に入る。

「よしっ、捕まえたっ。」

まだ三歳のルイの体は力を入れなくても持ち上がるほど軽い。脇に手を入れて持ち上げると大きく見開かれた新緑の瞳を目が合う。

「もう、ままずるいよ。」

口をとがらせながらいうルイに「階段では歩きましょうって言ったの覚えてる?」と優しく聞けば、ばつの悪そうな顔で「いっかいはさむいもん。」と言ってくる。

最近よく話すようになったルイ。まだ、舌足らずではあるが以前と比べると話す頻度も語彙も多くなった。

ルイをゆっくりソファーの上に座らせ毛布をかけてやるアイリーン。そのすぐ後に開けたままにしてあった扉から息を上げた男性が入ってくる。

「アリィありがと。寒いからって走っていくから驚いてさ。」

そういいながら扉を閉める栗色に琥珀色の瞳の男性はライエル・レイトン。アイリーンが家を出る前まで婚約者だった男だ。現在は籍をベルナの町はずれの教会で入れ夫婦として暮らしている。彼は商家の次男で本来なら長男である兄の補佐役として家に残るべきだが、町の喫茶店でアイリーンと出会い度重なる偶然の交流からアイリーンに好意を抱き、猛アプローチの末に交際を始めた。人好きのする笑みを浮かべ優しそうな男だが当初は両家の両親共々から反対されていた婚約をもぎ取った頭と口のまわる男でもある。

「その手紙はどうした。青の封筒に封蝋の模様……」

明らかに動揺しているライエルに「ルイを寝かせてきて。」と言って背中を押す。一人になったアイリーンは「子供に聞かせる話ではないよね。」と思う。

二人の息子であるルイの身分はアイリーンがライエルと結婚したことで平民になったため同じく平民だ。今後、貴族の泥沼の争いに巻き込まれることはあってはならないとアイリーンは思う。


ルイを寝かせたライエルが戻ってきてからソファーに隣り合わせで座る二人は今後について話し合うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ