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第七話 砂漠の秘宝を見つけ出せ

「時子さんからの連絡はまだありませんか?」

 後部座席から身を乗り出し、わたしは運転中の早見さんに尋ねた。

「ええ。私たちが出発した直後に連絡が途絶えてから、一度もございません」

 早見さんの車に乗ってからしばらく経ち、そろそろわたしたちは涼子さんの捕まっている建物の近くにまで来ていた。

「おそらくは敵と交戦中かと。相手によっては私たちも加勢した方がよろしいでしょうね」

「相手によっては、ですか?」

「はい。私たちの目的はあくまで涼子様の救出ですから。もし時子様ひとりで相手の足止めができるようでしたら、その隙に私たちは涼子様の救出に向かうべきです」

 ハンドルを握る早見さんは落ち着いた声で言った。

「時子様も同じことを言うでしょう。時子様は元エリート軍人でして、並の相手ならばまず負けはありません。相手が能力者だとしてもです」

「じゃあもし相手が手に負えないくらいの能力者だったら、私たちも加勢しましょう」

「そうですね……おや」

「どうかしましたか?」

「前方に誰かが居ます。敵かもしれません」

 フロントガラスから前を見ると、山道の真ん中で日傘を差した女が仁王立ちにこちらを見ていた。

「あ?」

 後部座席から覗き込んだドロシーが、女を見て妙な顔をした。

「どうかしたの、ドロシーちゃん」

「あのおさげ、見たことある」

「おさげ?」

 女は確かにセミロングの髪を三つ編みにし、胸元に二本垂らしていた。

「え、知り合いなの?」

「街で一回会ったことあるだけ。なんか涼子のこといろいろ聞いてきたから覚えてる」

「敵の二人組の片方と見るのが妥当でしょうね。もしかしたら無関係の一般人かもしれませんが、いずれにせよこのままでは通れません。そこを退くように言ってみます。お二人とも、警戒しておいてください」

 早見さんが車を女の前で停める。

「お二人は車の中にいてください。万が一攻撃されてもすぐに車を出られるように備えて」

 小声で言う早見さんにわたしたちは頷き、シートベルトの留め具に手をかけた。

 早見さんは車の窓から顔を出し、女に話しかけた。

「失礼。道を開けていただけませんか。この先に行きたいのですが」

「あら、礼儀正しい方。あなたが早見さん?」

「おや。失礼ですが、以前お会いしたことが?」

「いいえ」

 彼女は口元を隠しながらくすくすと笑った。

「……あのおさげ、前会ったときもあんな感じだった。なんかうさんくさいんだよね」

「ね。どこまで知ってるんだろう」

 わたしとドロシーが後部座席で小声で話していると、車が少しだけ揺れたような気がした。二人で顔を見合わせ、今のが自分だけの勘違いでないことを確かめ合う。

「わかるわ。涼子姉を助けに来たんでしょう? だからここにいる。そういう人がこの道を通る」

「……人違いだと言っても、信じてもらえなさそうですね」

「だって、違わないでしょう?」

 彼女はかけていた丸メガネを外して懐にしまった。

「メイドの方は、なかなか骨のある護衛みたいだけど。あなたはどうかしら?」

 その一言で、わたしたち全員が確信する。

 ——敵!

「つかまって!」

 早見さんがアクセルを踏み込み、林に車体を半分突っ込みながら女の横を強引に走り抜けた。

「あら。強引な男は嫌いじゃないわよ」

 女がゆっくりと立ち上がって振り向き、片手をひらひらと振った。

「堕とし甲斐があって」

 次の瞬間、下から強烈な衝撃を受けたわたしたちの車は宙を舞っていた。

「二人ともつかまってください!」

 わたしはとっさに車のシートに触れた。空中で車が静止し、いきなり止まった衝撃で投げ出されそうになるのをこらえる。

「痛っ! なんなのあいつ! ムカつく!」

「すぐに能力を解除します! 車から脱出しましょう、このままだと絶好の的です!」

「飛び降りましょう! 二人とも私に続いて!」

 シートベルトを素早く外し、全員がドアから飛び降りる。

 自然落下を始めた車を、轟音と共に地面から噴き上がった巨大な水柱が飲み込んだ。

「水!?」

「逃げましょう! 別宅の方に向かいます、走って!」

 着地した早見さんは銃を抜き、女の足元に向かって何発か打ち込んで威嚇しながら走り出した。わたしも能力で空中を駆け出し、早見さんを追う。

 木の枝や葉を腐らせながら柔らかくして着地の衝撃を和らげたドロシーはじたばたしながら枯葉に埋まっていた下半身を引き抜くと、わたしたちに続いて走り出した。

「あら、逃げるの?」

 森に逃げ込んだわたしたちの行く手を遮るように、地面から太い水柱が何本も噴き上がった。

 間欠泉のような勢いの水流にたじろぎ、わたしたちはその場で足止めされてしまう。

「希! あいつもう殺した方が手っ取り早くない!?」

「ダメだよドロシーちゃん! 殺すのはやり過ぎ!」

 わたしは空中を走り抜けて一旦木の上に隠れ、あらかじめ早見さんに渡されていたインカムをオンにした。

 確かにわたしとドロシーの能力を組み合わせれば、相手を殺すのは容易い。

 わたしが相手に触れて、ドロシーが相手に触れる。それだけ。

 たったそれだけで、簡単に、人が殺せる。

 でも、わたしはもうドロシーに、そんなことのために能力を使って欲しくなかった。

 わたしたちの身が今危険にさらされているのはわかっている。

 だけどわたしは、他の誰がどうだろうとこのわたしだけは、ドロシーにこれ以上殺人のための生物兵器のような生き方はさせられない。させてはいけないのだ。

 わたしたちは何のために籠を出た。

 自由のため。

 “自由”とは。

 少なくとも、人を殺さないことを選べることだ。

「わたしが相手に触って能力で拘束します。相手の能力の全貌がまだ見えませんから、様子を見つつ、なんとか二人で隙をつくれませんか?」

「りょーかい!」

「承知しました」

 落ち着きを取り戻したわたしはインカムを通じて二人に言う。

「相手の能力はおそらく水を操ることですが、詳細が不明です。射程距離がかなり長そうなので、わたしとドロシーみたいな触れて発動するタイプの能力は相性が悪いです」

 水の柱は地面から噴き出した後は雨のように降り注ぎ、地面を水浸しにしていく。

「早見さん、相手の位置が木の近くになったら、そこから動かないよう狙撃して足止めできませんか? わたしがその木のところまで隠れて空中を移動して、上から相手に飛びかかって能力で拘束します」

「わかりました。やってみましょう」

「ね? 希頭良いでしょ?」

 ドロシーがなぜか自慢げに早見さんに言ったのが、インカムを通じて聞こえた。

「一七三六年、英国で制定されたアンチ・ウィッチクラフト法は、およそ二百年もの間、魔女が存在することを禁じた」

 女が芝居掛かった口調で妙なことを言い始めた。わたしは身を隠している木々の間から女を盗み見て、耳を澄ませる。

「もっとも、誰も自分がそうだと言わなかっただけで、魔女はずっといたんだけどね」

 地面にできたいくつもの水溜まりの水が、渦を巻いて女の足元に集まり始めたのが見える。やはり周りの水を動かしている。

「一九五一年、法律が廃止され、魔女たちは隠れる必要がなくなった。わかるかしら? 現代にも魔女はいる。夏に囚われ、夏に呪われ、そして夏に愛された日輪の女王!」

 集まった水が高速で回転しながら女を囲み、胸元くらいの高さまで竜巻のように持ち上がった。

「希逃げて! なんか来る!」

 勘の鋭いドロシーが何かを察した様子で言うと、わたしの方に走りながら近くの木を手当たり次第触っていった。触れられた部分が一瞬で腐り落ち、自重に耐えきれなくなった木々は根本から折れ、わたしたちと女の間に丸太の壁となって積み上がる。

「てめえらに資格はねぇんだよ! 女王の側に居る資格は! 水燿すいようの魔女たるこの遠目塚しほり以外にはなァ!」

 しほりの名乗った女が感情的に叫ぶと同時に、周りで渦巻いていた水が一気に範囲を広げた。

「ドロシーちゃん! こっち!」

 わたしは近くまで来ていたドロシーの手を取り、急いで持ち上げて樹上へと避難させる。

 土も、木も、すべてを巻き込みながら、渦巻く水流は濁流となって地面を削り、その回転半径を凶悪に広げていく。

 濁流はドロシーのなぎ倒した木々の壁にぶつかってやや勢いを削がれたのか、わたしたちの登っていた木はなんとか衝撃に持ち堪えた。

「早見さん! 無事ですか!?」

 姿の見えない早見さんにインカムを通して呼びかけると、小さく「ええ、なんとか……」という声が返ってきた。

「あんのクソおさげ! 触れさえすれば一発なのに!」

 木につかまりながらドロシーが悪態をつく。

「やっぱり私たちの能力じゃ相性が悪過ぎるね。拘束しようにもそもそも近づけないし」

 わたしは必死で思考を巡らせるが、有効な策はなかなか思い浮かばない。

 木々の間に隠れて近づくはずだったが、さっきのような範囲攻撃が相手ではうかつに近づくこともできなかった。

「そういえばそこの金髪、あなた、以前噴水の前で会った子供じゃない?」

 樹上に隠れたドロシーに向かってしほりは笑みを浮かべて呼びかけた。

 なんとなく、人を小馬鹿にするような笑みだと思った。

「あなたも能力者だったのね。うまく防いだじゃないの」

 濁流の竜巻は勢いを失い、意思のないただの水となって辺りを水浸しにしながら飛散した。

「あの時出会ったあなたが、まさか涼子姉の関係者だったなんてねえ。想像もしなかったわ」

 しほりが日傘を再び広げると、周りの地面から何本も水柱が噴き出した。高く噴き上がった水流は細かい水滴となって雨のように降り注ぎ、しほりの日傘を濡らす。

「子供じゃねーよ! あたしはドロシー」

 女の物言いに苛立ったのか、樹上からドロシーが言い返した。

「ドロシー? あら、あら、あら! そうなの。へえぇ、“ドロシー”! 面白い名前ねえ!」

 何が面白いのか、しほりはけらけらと笑っていた。

「なるほど、そういうことだったのね。街でこの子に出会ったことが、すでに罠。そうなんでしょう、涼子姉」

 涼子姉というのは涼子さんのことだろうか。妹? もしくは知り合いか。だとしたら誘拐した目的はなんのだろう。

「はあ? おねーさんさあ、なにわけわかんないこと言ってんの?」

 ドロシーは樹上から飛び降りてしほりと対峙した。

「待ってドロシーちゃん! やみくもに戦って勝てる相手じゃないよ!」

 ドロシーは自分の能力に圧倒的な自信を持っており、幼さもあって挑発に弱い。冷静に状況を見れていないかもしれない。

「あなたと私が出会った時点で、涼子姉は私がこの街に来ていると気づいていたのね。本来なら枯れているはずの噴水から水が湧いていたんだもの、涼子姉ならきっと真っ先に私を連想してくれるはずだわ。ああ、だからあんなに大人しかったのね。その上誘拐されやすいように夜一人で出歩いたりして! 悔しいわね、相変わらず食えない人だわ。どこまでが涼子姉の思惑通りなの?」

 しほりはわたしたちではなく、まるで涼子さんに向けて話しているかのようだった。

「希様、敵がドロシー様と話している間に、拘束しに近づいてください。話が終わって敵が動きそうになったら私が狙撃して注意を惹きます」

 早見さんの声がインカムから聞こえた。

「ふたりがかりで時間を稼ぎます。今がチャンスです。直接水流に狙われたらドロシー様は耐えられないでしょう。間に合わないと判断したら即、ドロシー様にお逃げになるよう言ってください」

「わかりました。危険ですが、今はそれでいきましょう。ドロシーちゃん、うまいこと言って時間を稼いで! 無理はしないでね!」

 ドロシーはわたしの声に応えて後ろに回した手で小さく親指を立ててみせた。

「ね、あなたと私は偶然出会ったの? それとも涼子姉が差し向けた罠だったの? どっち?」

「どっちだと思う? 教えてあげない」

 ドロシーは適当にハッタリをかましていた。それでいい。思ったより冷静になってくれたようだ。わたしはこの隙に木々の葉に隠れながら、樹上を移動して女に近づいていく。

「ね、ギリシャ語で罠って意味でしょう、ドロスって」

「へー。おねーさん物知りじゃん。でもさ、だったら何?」

「あなたは獲物がかかるのを待つ罠。きっと捕まったら終わりなんでしょう? その能力。ね、もっとよく見せて。涼子姉の飼ってる罠がどんなものか、この私が品定めしてあげる」

「あのさあ、アナタさっきから涼子姉、涼子姉って言ってますけど」

 ドロシーの口調がいやに丁寧に変わった。まずい。これは相手を煽る時のドロシーの癖だ。今相手を下手に刺激するのは危険だとわたしが言おうとすると、ドロシーは言い放った。

「そんなに“涼子姉”が好きなら、誘拐とかせずに、普通に遊びに来たら良かったんじゃないの?」

 ひどくもっともだった。

 本当にその通りだと思った。

「くっ……こ、子供にはわからない、あれやこれやがあるのよ。大人にはね」

 え、なんかめちゃくちゃ動揺してる。

 この人もしかして本当に遊びに来たいだけだったの?

 涼子さんとずいぶん親しいみたいだけど、いくらなんでも誘拐って、好意の伝え方が不器用すぎない?

「い、いいわ。あなたたちを片付けてから、ゆっくり涼子姉とはお話しするから。覚悟なさい」

 なんだか急にこれまでの余裕のある謎めいた大人って雰囲気が崩れたな。

 とはいえ女の能力が強力なのに変わりはない。気を抜かず、ここで拘束してしまわないと、追われたら厄介だ。

「だからさあ、別にあたしらと戦わなくても、涼子を解放して屋敷に遊びに来なって。きっと歓迎してくれるから」

「なに勝手に涼子姉のこと呼び捨てにしてるの? あなた涼子姉とどういう関係なの?」

「いや、あたしはただの通りすがりといいますか」

 ドロシーちゃんいい調子だよ。思っていたよりずっと相手を動揺させて時間を稼いでくれている。

 わたしはついにしほりの近くの樹上まで来ると、飛びかかる隙を伺う。

「……わかった、わかったわ。あなたの目。戦う理由がはっきりしないのね?」

「そういうわけじゃないんだけど……」

 今だ!

 しほりが完全にこちらに背を向けた瞬間、わたしは樹上から飛びかかった。

 完璧なタイミング。

 ——そのはずだった。

「希!」

 次の瞬間、下から噴き上がった水流がわたしを飲み込んだ。

「戦う理由を与えてあげる」

「キッサマァァァァアアアァァアア!!」

 ドロシーが絶叫し、周囲の草木がドロシーを中心にすさまじい速さで枯れ果てた。そのままドロシーは獣のような勢いでしほりの方へ駆け出す。

「いけない!」

 早見さんの声がし、しほりに向かって発砲した。すぐさましほりは銃弾の来た方向に向かって地面から水流を迸らせる。

 わたしはといえば、地面から噴き出した水の柱に飲まれ、空中でもがいていた。

 息が、できない。

 しほりはこちらを見もしなかった。背後からの攻撃にどうやって気づいた?

 わからない。何も考えられない。

 なんとか空気のある方に出ようとするが、水流は形を変えながらわたしを捕らえて離さなかった。

 だめだ、息が、もう——。

 意識が途切れかけたその時、かすかに何かの音が鳴り響いた。

 唐突にわたしは水から解放され、空中を転がる。

「げほッ、がほッ! な、なに!?」

 水はわたしを捕えるという意思を失ったかのように地面へと染み込んでいく。

 水柱の真ん中あたりが、何かに吹き飛ばされたようだった。

 一体何が起こった。ドロシーの能力ではこんなことはできないはず。

「ドロシーちゃん!」

 ドロシーがしほりに向かって走りだしたのを思い出したわたしは、咳き込みながらもドロシーを止めに空中を走る。

 ドロシーこそ水流に飲まれたら終わりだ。彼女の能力ではただの水は何も変わらない。

 しほりがドロシーに片手を向けると、それに応えて地面から鉄砲水が飛び出す。

 せめてわたしが間に入って能力で衝撃を殺せれば……!

「間に合って!」

 わたしは必死で手を伸ばし。

 ただ、叫んだだけだった。


 ——間に合わない。


 車のクラクションが鳴った。

 鉄砲水はドロシーを飲み込む直前で何かに横殴りにされたかのように軌道を逸らされ、横の地面を抉った。

「希様! 敵を!」

 突然の出来事に混乱し、呆然としていたわたしの耳に早見さんの声が飛び込んでくる。

 わたしはハッとして再び駆け出す。

「もう一人居るわね? 能力者が!」

 しほりはわたしでもドロシーでもなく、銃弾の飛んでくる林の方を透かし見るようにぎょろりと眼球を動かした。

 まさか……早見さんが、能力者!?

 再び車のクラクションが聞こえると、危険を察知したしほりは素早く地面に手をついた。しほりを囲んで守るようにして地面から勢い良く水流が噴出して壁をつくった瞬間、透明な何かがぶつかった衝撃で水が飛び散る。

「いいわ! やっと戦いが成立しそうじゃない!」

 水の壁に空いた穴からしほりの好戦的な声が響く。

 しほりは差していた傘を上空に放り投げ、片手でわたしを、片手で林の方を指差し、地面から鉄砲水を放った。

 再び車のクラクションがどこからともなく聞こえ、わたしたちに当たる前に水流を蹴散らす。

 おそらくは早見さんの能力であろうそれに守られながら、わたしとドロシーは走り続け、しほりに肉薄する。

「希大丈夫!?」

「平気! ドロシーちゃん、敵を足止めして!」

「任せろ!」

 ドロシーが素早くかがんで地面に手をつくと、しほりの片足が地面に沈んだ。地中に根を張る植物を腐らせ、地面を柔らかくしたらしい。

「いるじゃないの! 骨のある護衛が!」

 しほりは先ほど放り投げた傘をキャッチすると、くるりと回して逆さにし、沈んでいない方の片足で内側に乗った。しほりの足元から巨大な水柱が噴き出し、傘でそれを受けたしほりはそのまま水に乗って急上昇した。

 わたしたちの触れるあと一歩のところでその場から離脱されてしまった。

 遠距離で水による攻撃をするだけかと思ったら、水に乗ることで機動力も得るなんて。そんな使い方もできるのか。

 地面から何本も巨大な水柱が上がる。しほりは勝負を決めに来たのか、手当たり次第に水流で地面を抉って辺り一帯を破壊し始めた。

「どうして初めから使わなかったのかしらねえ!? それを!」

 返事をするかのように、車のクラクションが鳴った。

 高速でぶつかる何かに弾き飛ばされ、しほりは水柱の上から投げ出された。

「……本当なら、もう二度と、見たくないからですよ」

 早見さんが小さく言ったのが、インカムから聞こえた。

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