表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/19

外伝「狐の生まれた日」第6話

「あれほど弱った涼子様は、初めて見ました」

 壁にもたれかかり、茶を飲んでいた早見がぽつりと言った。

「ああ、早見は初めてでしたか」

 椅子に腰掛け、夜中だというのに早見に焼かせた大振りなチキンステーキを頬張る時子が答えた。

「涼子さまは時々、あの夢を見るのです。それも何度も、同じ夢を。その夢を見た時は、ひどくうなされておいでですから、もしわたくしより先に早見が気づいたら、起こして差し上げなさい」

「わかりました。しかし、同じ夢を何度も、ですか?」

「ええ。なんでも、誰もいなくなったひまわり畑の中で、自分ひとりが何百年も生き続けている、とかいう剣呑な内容だそうで」

 早見の眉間にわずかに皺が寄った。

「それは……確かに涼子様なら、有り得る未来、なのでしょうか。しかし何度も、というのは気になりますね」

「早見、貴方が気にすることではありません。夢は夢です」

 大きな肉塊を綺麗に食べ終えた時子は、ナプキンで口元を拭いながら言った。

「“未来予知”などという能力は、さすがの涼子さまにもありませんよ。ですから、あれはただの夢です。職務を全うしなさい、早見。我々の任務は、涼子さまを不安にさせないこと。いいですね?」

「……そうでした。わかりました」

「よろしい。お代わりです、早見」

「まだ召し上がるのですか?」

「ええ。代謝が良いので」

 早見は肩をすくめると、台所の方へと向かって行った。

 ひとりになった時子は、早見に淹れさせた紅茶を口に含むと、目を閉じた。

 高木涼子。

 時子が生涯の主人と定めた、唯一の存在。

 高木涼子は、出会った当時から、とても強い人だった。

 それまでひとりでやってきたという自負も、制御しきれない能力を前向きに受け入れようと努力する姿勢も、どれも、強かで自立した個を感じた。

 だからこそ、どこか危なっかしくも。

 放っておけなくなってしまったのだ。

 この人は本当にひとりなんだ、と、わかってしまったから。

 時子はしばし目を閉じ、開くと、小さく呟いた。

「我ながら人の良いことです」


 終

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ