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スノードームと夢の入り口  作者: 薫&葉裏
9/12

夜の闇の糸

薫が提案したテーマとrあらすじを葉裏が少し改造?して物語風に仕上げました。

逆さまだったスノードームがまたゆっくり動いて新しい雪を降らせた。

新しい雪と新しい夢の始まりだ。



私は道に迷った旅人だった。

山小屋のような小さな家の木戸を叩いた時はもう日が暮れて辺りは闇にのまれていた。

「おや、若い娘さんじゃないか、いったいこんな夜更けにどうなすった?」

出て来たのは腰が曲がったお婆さんだった。

「すみません。旅の者ですが道に迷ってしまいました。今晩一晩お宿を貸して頂けないでしょうか?」

「まあまあ、それは大変じゃったろう。ささ、中に入って炉端のそばにお寄りなされ」

炉端に近寄ると薪が焚かれてあって、炉鍵からは芋粥を煮ている鍋が下げられていた。

「ちょうど、芋粥を多めに煮たから食べると良いよ」

親切にお婆さんは椀に芋粥をよそってくれて、木の小枝を削った箸を添えて出してくれた。

外は寒かったので、冷えた体に温かい芋粥はお腹に染み渡った。

疲れもあったのか、私は借りた毛布を被って炉端で横になってすぐに眠った。

なにかカラコロカラコロと音がするので、ふと目を覚ますと、お婆さんが糸車を廻しているようだ。

蝋燭の僅かな灯りを頼りに糸を紡いでいるようなのだが、紡いでいる糸が良く見えない。

いや出来上がって行く糸はよく見える。夜の闇のような真っ黒な糸だ。

見えないのは糸になる前の素材の繊維だ。

お婆さんの左手の中にあるのは何か暗い陰のようなもので、それはこの小屋の中全体を包む夜の闇と繋がっているような感じがする。

そして夜の闇全体が波打ってお婆さんの左手に吸い寄せられて行くような幻覚が見えた。

お婆さんは右手で糸車を廻し、左手の指先で手の中に掴んだ夜の闇の塊を引き延ばし紡いでは撚りをかけ、紡いでは撚りをかけることを繰り返していた。

「起きていたのかい娘さん?」

お婆さんは背中を向けて糸車を廻しながら私に言った。

まるで背中に目があるように。

「儂が紡いでいるのは夜の闇の綿じゃよ。夜中の闇の綿がもっとも丈夫な糸を作るのに適しているからねえ。気にしないで眠っとくれ」

夜の闇の綿? そんなもので作る黒い糸って何に使うんだろう?

夜の闇で作った糸は夜の強い力があるから丈夫な糸になるのか?

でも分からない。

夜の強い力ってなんだろう?

闇の力……まさか呪いの力とかではないだろうな。

いつの間にかまた眠って朝になった。

今私は夢の中で寝たり醒めたりしていたようだ。

起きてから小屋の近くの湧き水で顔を洗い、朝食までご馳走になった私は、宿代の代わりに薪割を手伝うことにした。お婆さんが振り下ろしたまさかりの上から大きな金づちで叩くと、まさかりがめり込んで薪が割れる。

そんな二人三脚の形で薪割を終えて、後は道を教えて貰って山を下りることにした。

「これは少し持って行きなさい。夜中に紡いだ糸だよ」

お婆さんは『夜の闇の糸』を糸巻きに少しだけ巻いたものを私に持たせてくれた。

「これは何に使うんですか?」

お婆さんは笑って隙間だらけの歯を見せて言った。

「普通の糸として使えば良いよ。丈夫だからなかなか切れないよ」

それから街へ降りる道がすぐ分かって、私は無事に家に戻れた。


「ねえ、睦月ぃ、黒糸持ってない? 蒼井君の学生服のボタン取れかかってるんだよ」

親友の詩織が私に言って来た。ちょうど私はあの夜の闇の糸を持っていたので、それを貸してやった。

でも蒼井君は女子に人気があるけれど、特定の女子と付き合うようなタイプではない。

私は詩織が蒼井君に遊ばれているような気がしているのだが、それを言えば彼女は機嫌を悪くしそうで言えないでいる。

「おい、忽滑谷ぬかりやさん、その糸少しくれよ」

今度はオカルトオタクの佐藤君が私から夜の闇の糸を10cmほど貰って行った。

「なにに使うのそれ?」

私が聞くとちょっと恥ずかしそうにそれを5円玉に結んでから言った。

「ダウジング占いだよ。当たりそうだからよ。お前の糸」

「えっ? この糸がどうして?」

「お前の糸はただの黒糸じゃないだろ? 光を吸収するから、まるで闇を細く引き伸ばして作ったみたいだ。その糸で詩織の奴が蒼井のボタンを縫ってから奇蹟が起きたんだ」

「なに、奇蹟って?」

「あの調子ものの蒼井が詩織に夢中になっているんだ。わき目も振らずに」

「……」

「つまりこの糸には強い呪力があるってことだよ。試してみようか?」

佐藤君は五十音のひらがなを並べた表の上に5円玉を糸で吊るして、大袈裟な口ぶりで言った。

「忽滑谷さんの好きな男子はこのクラスにいる。はいかいいえで答えよ」

私は怒って止めようとした。ところがいつの間にか集まった男子たちが私をブロックして、佐藤君の馬鹿な占いをつづけさせた。

佐藤君の声が聞こえる。

「そ・れ・を・き・き・た・け・れ・ば・い・の・ち・を・よ・こ・せ……」

その場にいた男子たちが騒然となる。

そして私の夢はそこで終わる。あの糸はなんだったんだ?


雪が降り終わったスノードームは、少し躊躇っていたが、またゆっくりひっくり返って、次の夢が始まるまでの間動かずに待ち続けた。

睦月の寝息が静かに続いていた。 次の夢はいつ始まるのだろう?

ここまで読んで下さってありがとうございました。もし今後も読み続けて下さるなら、薫も葉裏も大変うれしいです。

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