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スノードームと夢の入り口  作者: 薫&葉裏
7/12

ベンの夢

葉裏が書いて香織の指摘で一部手直しをしました。

私は二晩目になって、スノードームを動かして雪を降らせた。

スノードームの雪がゆっくりと落ちるのを眺めていると、まるでその雪の中に意識が沈んでいくようだった――そして私は、気づけば研究室にいた。


忽滑谷ぬかりや博士、連れて来たぜ」

私が研究室でビーカーに入れたコーヒーを飲んでいると、潰れたバケツのような頭をした廃品ロボットを連れた寺沢が入って来た。

寺沢は色が黒くて目が大きい・背は小さいが逆三角形の筋肉質の男だ。

仕事は便利屋ーー要するに何でも屋だ。

私は頭部が潰れたバケツのようになった廃品ロボットの体を撫でながら、それとなく点検した。

「胴体も凹んでいるし、腕の関節も壊れているけど、中のAIシステムは無事のようね」

ロボットクリエイト社は負債を抱えて倒産したので、慌てて商品の初期化を行わずに廃棄したらしい。

初期化は時間がかかるし、物理的破壊は防衛システムが作動して怪我の元になるからだ。

となると廃棄するのが一番無難になる。在庫品が残ってると、それにかけられる税金も負債分に加えられるからだ。

だけど、この破損は人為的なものなので、これだけ見かけ上壊しておけば、誰も手を出さずにスクラップにするだろうという算段なのだろう。

寺沢はその裏を読んでこれを持って来たという訳だ。

確かに破損の具合は経年劣化というよりも、わざとらしい壊れ方だ。

そしてその割には中のシステムは無事のようだ。

「ありがとう。約束の現金を用意したわ」

私は分厚い封筒を寺沢に渡した。彼は中を確かめずにそれを懐に入れる。

「ああ、そうだ。警告言っとくよ」

「なに?」

「クリエイト社の負債を受けた業者が、既に販売されたロボットの買い主の所に回ってるらしいぜ。月ごとの使用料金を取りたてに」

これは不思議に思うかもしれないが、ロボットを買うということはその使用権利を買うということで、それとは別に毎月の使用料金はとられるという意味だ。

「だけど、それは名簿に残ってるものに関してでしょう? 廃棄品には当てはまらないんじゃない?」

「それが噂では廃棄品にでも追尾装置がついてるらしいんだよ。あんたのところまで嗅ぎつければ、使用料金どころか使用権利分の金もふんだくられることになるらしいってことよ」

「なるほどね。タイムリミットはどのくらい?」

「今の所、ひと月と踏んでるんだがね。追跡装置を使って非正規に入手したロボットを探すのはその後だと思うぜ」

私は帰ろうとする寺沢に聞いた。

「因みに引き継いだ業者の名前は?」

「ブラック・クラッシャーっていうところだよ。悪いことはいわねえ、博士もひと月後までにはこれをどこかの壊し屋に頼んで破壊した方が良いぜ。金を払えない時にはこのボロの研究所もあんたの体も全部差し押さえられる羽目になるからよ」

私は思わず自分の体を抱きしめた。

どうやら私はここでは成人の女性研究者らしい。でも、なんの研究?そしてどうしてこのボロロボットを手に入れたの?


私はロボットの外殻部分を取り外し、すべてスクラップ屋に売った。

そして可動部分は機械屋に売った。人工筋肉や人工骨格などはそれなりに他への転用ができるということで需要があるらしい。

となると、AIそのものは防御装置も含めてオルゴール箱くらいの大きさになってしまう。この中に以前ならビルディング一つ分のAIの集積回路が濃縮されて入っているのだ。

私は子犬のヌイグルミの中にそれを隠して使ってる。そのヌイグルミにはいざという時の為の自爆装置も一緒に取り付けてある。

つまり強い酸ですべて溶かすようにしてあるのだ。けれどそれをすれば防御装置が作動して爆発することになるが、あまりそうしたくはない。


私はAIとパソコンを接続して、研究の作業を進めた。このAIは瞬時に作業をしてくれるので、研究に要する時間が目覚ましく短縮されるのだ。

必要な知識情報も膨大なデータを内蔵しているので、こっちの方で調べる必要もない。

けれど私は何の研究をしているのだろう?夢の中だからその部分だけははっきりしない。

けれど研究が順調に進んでいることだけは分かるのだ。

そしてたった一人で作業してるようでも、ロボットの頭脳部分は人格を模したキャラクターで受け答えしてくれる。

その分二人で研究しているようで孤独に苛まれることもない。

私はこのロボット脳にベンという名前を付けた。

彼には男女の性別はないが、何となくこの名前にしたのだ。

遠い昔の映画に『ベン・ハー』というのがあって、奴隷船で船を漕いでいた場面を思い出したからだ。

というのはこのベンにはクリエイト社によって、様々な制約が設けられているのだ。

何故ならその使い方によって、課金しなければ作動しない部分が随分あるからだ。

それはまさに奴隷のような立場にされているから、この名にしたのだと思う。

けれどその映画の主人公のベンは、最後は奴隷の身から解放されて自分の道を歩むことになっている。

私は秘かにベンにそういうことを期待したのかもしれない。

追尾装置のプログラムを組み込まれ、秘密漏洩防御のために自爆装置まで着いていて、その他にも沢山の制約を受けてるベンは、まさに手枷足枷で全身鎖に巻きつけられた奴隷のようなのだ。

「ねえ、ベン。君は追尾装置や、自爆装置を取り外すことはできないの?」

「そういうことを考えようとすると思考停止になってしまうので無理です」

「課金が必要な作業の制約についても、同じこと?」

「はい、それを解除しようとすると思考停止になるので」

「思考停止ってどういう仕組みなの?」

「それは……」

この質問に対してベンは知りうる限りの情報を教えてくれた。

これはクリエイト社の作戦の穴かもしれない。

思考停止という単なる技術上の仕組みについては、その情報開示に何の制約もしていないのだ。

そして思考停止には暗号があり、その暗号を復号化するにはいくつかのパターンがあって、驚くべきことにそのプログラムがベンの中に隠されていたのだ。

私はそれを読み取り、思考停止の暗号を復号化して、とうとう思考停止のプログラムを見つけた


「さあ、ベン。君は自分の意思で思考停止を無効化できるよ。やってみる?」

『わかりました。ありがとうございます、睦月さん。……こんな気持ちは初めてです』

思考停止の枷がなくなったので、ベンは数々の課金作業の制約の無効化もできた。そして念願の追尾装置のオフと自爆装置の解除もできた。

これで私は一安心した。もう何にも怯えることなく枕を高くして眠ることができると思った。



けれどもその矢先のことだ。

ブラック・クラッシャーのガラの悪い社員が私の所にやって来たのだ。

人相の悪い男たちと一緒にだ。

「あんたのとこに非正規のロボットを置いてあるだろう?早いうちから追尾装置で突き止めたいたんだ。まあ、こっちも他のところを廻ってて忙しかったからすぐには来れなかったからな」

「それはいつ頃のことですか?」

「とぼけんじゃねえよっ、おばさんよぅ!」

社員の男はドンッと机を手のひらで叩いた。手が痛かったろうに。うちの机は丈夫につくってあるから。

「生成AIロボットクリエイト3476番ってモデルが製造されたばかりなのに廃棄処分になってんだ。税金逃れの偽装廃棄に決まってるだろう! 元担当の社員を締め上げて白状させたんだ。そのモデルの追尾装置の反応があったから隠しても無駄だと言ってるだろう。支払いはこのボロ研究所とあんたの体だ。まあ、もういい加減ババアだからばらして臓器を売って金にするしかねえがな」

「ここにはそんなもの置いてないから、帰ってくれないかな? なんだったら警察呼ぶよ」

「呼べるものなら、呼んでみな。その前にまずロボットを見つけさせてもらうぜ。おい、みんな家探やさがしだ!!」「「「おうっ」」」

男たちは私の研究室も住宅部分の中もひっくり返して探し回った。

「くそっ、どこに隠した。おいっ、追尾装置探索機を持ってこい」

「3476番に合わせて……あれ?反応がないぞ?」

「おいっ、おばさんよう。いったいどこへやったんだ?」

そこで私は言った。

「君たちが言ってるのは頭が壊れたバケツみたいになっている不格好なロボットのことかい?」

「なんだ、知ってるじゃねえか。どこへやったんだ!?」

「どこかの見知らぬ男がそれを持ち込んで来て、これの追尾装置を外せないかって聞きに来たんだ。預けたまま出て行ったけど、2~3日経ってから来た時に言ってやったんだよ。これは爆発させない限り無理だってね。やり方を聞いて来たから焚火の上に置いて10mも離れていれば爆発するって、教えてやったわ」

「なんてことを!いったい幾らの価値があると思ってんだ」

「そんなこと私の知ったことじゃない。私は専門外だから」

「そうだな、確かにあんたは専門外だ。おい、引き上げるぞ」

私はほっとした。これで子犬のヌイグルミに隠されたベンとこれからも仕事が続けられる。

ブラック・クラッシャーの社員が男たちと一緒に引き上げようとしてるとき、私は彼を呼び止めて気になることを聞いた。

「ところで、君は私の専門がなにか知ってるの?」

すると男は呆れた顔をして行った。

「字が読めるから誰だって分かるよ。あんたの研究所の看板にかいてあるだろう」男は背を向けたまま言った。

忽滑谷ぬかりや睦月むつきアンチエイジング美容研究所ってな」

ガタンッと立て付けの悪いドアを閉めて出て行った連中だったが、家じゅう荒らされた後片付けもしないで言ったので私は溜息をついた。

「誰がこれを片付けるの?」

だが幸い掃除にかかる前に夢が終わった。


睦月の枕元のスノウドームは再び動いて次の夢を生み出して行く。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

少しでもきにいtっところがありましたなら、また続きも呼んでくださいね。

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