風の御柱祭(かぜのみはしらさい)
この夢は前の夢と時間は違いますが、どうやら同じ場所の夢のようです。
けれど『私』の立ち位置が少し違うようで。
葉裏→薫→葉裏の順で加筆して行きました。
私は多くの人々の波にもまれながら歩いていた。
皆殆どの人が浮き立っていた。
殆どの人が着飾って……
空は澄み渡り、天を映す湖面のように青く広がっていた。風が踊り、陽光が石畳にきらめく頃、村は祝祭のざわめきに包まれていた。
それは「風の御柱祭」と呼ばれる、年に一度の大祭。
大地に春を呼ぶ風の女神を讃えるこの日は、老いも若きも、男も女も、鮮やかな刺繍の施された民族衣装に身を包み、通りに繰り出す。
家々の窓辺には花飾り、香草の束が吊るされ、楽の音と笑い声が空を満たす。村の中央通りでは、祭礼の行列が、まるで夢の中のように緩やかに、しかし荘厳に進みはじめていた。
先頭を行くのは、上半身をあらわにした屈強な若者たち。
片手で高く掲げるのは、五メートルの御柱旗――重さ三十キロ、風を孕めば倍の重さにもなるという、大旗だ。白地に金糸で編まれた風の紋章が、空を切るようにしてたなびくたび、人々は思わず息を呑む。
続いて現れるのは、長い絹布を弧を描くように翻す踊り子たち。
薄紅、青、金……舞う布の波が風を誘い、踊り手の髪が宙を泳ぐ。
そのあとを行くのは、巨大な動く人形――一体は炎を宿す悪魔、もう一体は剣をかざす女神の戦士。その二体を大勢の男たちが担ぎ、囃子がそれを導いていく。
見物の群れのなかに、私もいた。
まぶしさと喧騒の狭間、ふと、一羽の鳥が視界をかすめた。
黒い尾羽。翡翠のように輝く翼。その鳥は、どこからともなく飛来し、見物客の間をするりと抜けて消えた。
「……?」
見間違いだろうかと目をこすった刹那だった。
わめき声。肉片を咥えた野良犬が、群衆をかき分けて祭列に飛び込んできたのだ。
それを追う男の怒声。そして犬は、悪意も無邪気も混じった一跳びで――旗持ちの男の膝に激突した。
「うぐっ!」
男はよろめき、大旗を手放した。
その瞬間、三十キロの柱は地面に激突し、石畳に鈍い音を響かせる。そして旗は、風に煽られながら斜めに倒れていく……群衆の方へ。
「きゃああああ!」
大人たちの悲鳴が、空を裂いた。
だが、そのときだった。
斜めに傾いた旗を、むんずと掴む小さな手があった。
それは、私と同じ年頃――いや、もしかするともっと幼い――ひとりの少女。
刺繍も飾りもない、簡素な白い衣をまとったその少女は、風になぶられる旗を、その細腕でしっかりと支えていた。
地面に倒れ込んだ旗持ちの男が、思わず呆然と見上げる。
誰もが逃げ腰で、誰ひとり手を貸さなかった中で――その少女だけが、まっすぐに柱を立て直し、両手でそれを男に差し出した。
男がそれを受け取り、ようやく体勢を戻した時には、少女の姿はもう群衆の中に消えていた。
どよめきが静まり返る。
誰かが、空を指さした。
その先に、あの鳥がいた。
群衆の中からふわりと舞い上がり、青空のなかをひときわ高く翔ける影。
「アエリュナ様だ……!」
「風の女神が……来ていたんだ!」
人々は口々に叫ぶ。まるで神話の一節のように。
祭列は再び進み始めたが、あの瞬間――風の中で旗を支えた少女の姿だけが、私の胸の奥に焼きついて離れなかった。
私は目覚めて体を起こした。もう東の空は明るくなっていた。
ふと枕元を見ると、スノードームの位置がずれていたような気がする。
私はあくびをこらえながらゆっくりと立ち上がった。
今日も学校があり、私のXデイが近づいているのだ。
ここまで読んでくださいまして、ありがとうございました。
ほんの少しでも気に入ったところがありましたら、また続きを読んでくださいね。