Xデイの前夜に
この夢は薫と葉裏が内容について検討した結果、こういう形になりました。
睦月はスノードームを両手で包むように持って顔を近づけた。
ねえ、お前はたくさんの夢を見せてくれるかもしれないけど、私が本当に見たい夢は見せてくれないんだよね。
私は以前に、お前を手に入れる前、ある夢をみたんだよ。
私はそこではモノトーンの世界に迷い込んでいた。
そしてそこではないどこかへ行きたくてフラフラと歩いているうちにたどり着いたのは駅だったんだよ。
白黒の妙な世界では、ただ色がないだけでなく、人々の生気も失っていた。
『電車は?』って私が尋ねると皆は一斉にある場所指さしたんだ、力なくね。
それはね、大きな壁時計だったんだけど、秒針が止まっていて11時59分で止まってるんだ。
「12時に電車はやって来て5分後の12時5分に出発するんだけど」
そう言ったのは小さな女の子だった。
「でもね、時計が12時になってくれないと、電車は来ないの」
そう言うと項垂れてすーーっと私から離れて行った。
「どこ行きの電車なの、それは?」
私はその女の子の遠ざかる背中に向かって言った。
女の子は私を振り返って目をぱちくりさせた。
「えええっ、お姉さんは知らないの?この駅の名前は希望駅だよ、だから当然次の駅は幸福駅じゃない。そして、終点は……」
でも最後まで私は聞くことが出来なかった。
女の子の父親が無理やり引っ張って行ったからだ。
そして私の方を見て怒鳴った。
「あんたがなんとかするんだ! お陰で俺たちは動きも取れずに迷惑してるんだ」
ええっ、私のせい?
どうして私がなんとかしなきゃいけないの?
私は腹が立って、駅を飛び出た。
私のせいじゃないのに!
私のせいじゃないのに!
私がここに来た時はすでに街の色はモノトーンで、駅の時計は止まってたのよ!
私の訳がないじゃないっっ。
すると郵便配達員のバイクが近づいて来て、私に手紙を差し出した。
「忽滑谷睦月さんですね?お手紙です」
はあ? 私はその封筒の差出人を見た。
『幸福町の横山郁美より』って書いてある。
横山さんは小学6年生のとき転校して行った私の親友だった子だ。
でもその前に私が一方的に喧嘩を売って絶交しちゃった子だ。
どうしてそうしたのか分からない。
私が悪かったくせに私は謝って仲直りしなかった。
そうしたら転校していなくなった子だ。
どこに行ったのか分からなかったけど、そうか、幸福町に引っ越していたのか。
私は封筒の上端をびりびりと破いて、中の折りたたんだ便箋を引っ張り出して広げた。
『むつきちゃん、元気?私は幸福駅から電車に乗るよ。そうしたらまた会えるね。希望駅のある町は色がつけば時間が動くよ』
えっ、色がつけば時間が動く?
だーーかーーらーーー、その色がつかないから困ってるじゃん!
私が地べたをドンドン踏んづけて怒ってると、向こうの方から陽気な話し声が聞こえて来た。
「あらここが希望の町なの?」
「「街なの?」」
「どうして色がついてないの?」
「「ついてないの?」」
見ると白黒の風景に中で三人の色のついた女の子が歩いて来る。
しかも背丈が30cmくらいしかない。
1人は緑の髪に緑色のワンピース。
1人は赤い髪に赤いワンピース。
1人は黄色い髪に黄色のワンピース。
そして手に持ってる手鏡や脚に履いてる靴までも服の色に合わせている。
「あら、色のない人が私たちを見てるわ」
「「見てるわ」」
そう言うとその子たちは私に向かって手鏡を向けてそこから緑、赤、黄色の光線を浴びせて来た。
すると私の体が色付きになった!
今度は三色の妖精たちは鏡を街に向けて照らし始めた。
「「「じゃあ、町全体も色をつけましょう」」」
うわあ、待って。街に色がついたら駅の時計が動き出してしまう。
私は急いで駅に向かって走った。
電車が来て、発車してしまう。
そこで私は夢からさめたのよ。
その続きを見る必要があるの。
だから、あなたは私にあと何千も何万も夢を見せる力があると思うけど、その力を全部使って、今晩あの夢の続きを見せてちょうだい!お願いっ。
睦月は瞼に力を込めて目を強く閉じ、額をスノードームに引っ付けて念じた。
絶対続きを見せて、時間がないの!
そして睦月は枕元に逆さにスノードームを置くと、布団の中に入った。
次回が最終話になります。どうか最後まで読んで頂ければ幸いです。




