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スノードームと夢の入り口  作者: 薫&葉裏
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プロローグ ――それは夢の続きを探すために

プロローグは薫が書いたものに葉裏が書き足しました。二人の共著の第二作目です。今回はオムニバス方式で書く積りです。

パタンと閉じた数学の教科書の裏側の氏名欄に油性マジックで書いた字がかすれ気味になっていた。

3年A組 忽滑谷 睦月

読み方は『なめりや むつき』。

そういえば今まで苗字を正しく読んでくれた先生はいなかったなって思う。

私は机から離れてもたもたとパジャマに着替える。


中学三年の冬。

受験を控えた私は、眠ることが少しだけ怖かった。


眠ってしまえば、次の朝が来る。

朝が来れば、カレンダーの赤い丸印が近づく。

試験日。結果。未来。

そんな言葉に追われるうち、私はいつしか眠ることにさえ忌避感を覚えていたのだ。

裁定が下される日に向かって何かが背中を突くように。

はやく寝ろ。それだけはやく明日が来る。

明日がくればまたその明日。

そして明日の明日の明日……

その先にはあの日が待っている。

私に判決を下す、あの日が。


そうやって正体の分からぬ恐れに震えながら

無理やり眠った、あの夜だった。

でも――あの夜、ひとつの夢だけが私の心に残った。


それは、なぜか懐かしくて、どこまでも不思議な夢だった。

だけれど夢は途中で終わった。

目が覚めてしまったのだ。

もう一度見たいと願っても、それきり夢は現れてくれなかった。

というか、私自身あまり夢を見ない人間だから。

あの夢の続きを見ることは海辺で一粒の砂を見つけるようなもの。


その日、私は母と一緒に商店街のフリーマーケットにいた。


午後の日差しがすこし傾きかけた頃、

私はとある露店の片隅に、小さなガラスのスノードームを見つけた。


手のひらにすっぽり収まるサイズ。

中には雪だるまと、尖った帽子の樅ノ木が立っている。

なにかそれは私に語り掛けてくるようだった。

次の瞬間私は幻聴を聞いたのだ。


『あなたに幾千もの夢を届けよう』


幻聴はそれだけだった。

はっとしてもう一度そのスノードームを目を凝らして見た私。


「気になるのかい?」

それを売っていた者が声をかけてきた。

古びたマフラーを巻いた小さな老婆だ。


私は思わずうなずいた。


「それね……中の雪は、どこでも降らせていいってわけじゃないんだよ。静かな場所で、心を落ち着けてから――そっと、ひっくり返すんだよ」


老婆の声は、まるで風の音のようにかすれていた。



夜。

私は部屋の灯りを消し、ベッドに潜り込んだ。

そして、机の上に置かれたスノードームを手に取る。


ゆっくり、ゆっくりと――ひっくり返す。

キラキラと舞い上がった白い粒子が、まるで世界の音を飲み込むように広がっていく。


気がつけば私は、まぶたを閉じていた。

そして夢の世界に吸い込まれて行く。

色々な小さな音が混じり合って、耳の穴を通って、

頭の中をグルグルと螺旋状に回り始める。

夢の始まりの予感だ。

そうか……このスノードームは私に夢を見させる不思議な力を持っているのか?


次話から夢の形をとった短編になります。短編を繋ぎ合わせたオムニバスにする積りですが、うまく行くかどうか全くわかりません。

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