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破滅予定の悪役王女ですが、なぜかヒロインポジションになりました~女神の愛し子の称号で破滅エンドを回避します~  作者: 雪野みゆ


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7.

 朝議の後、セレーネは国王と連れ立って回廊を歩いていた。今日の昼食は国王と父子水入らずで食べることになっているので、一緒に食堂へ移動しているのだ。ちなみにフローラも誘ってはみたらしいが、用事があるようで断られたとのことだった。あまりフローラと顔を合わせたくはないセレーネとしてはありがたいのだが、国王は残念だと思っているのかもしれない。

 フローラとは晩餐会以外で食事を共にすることはあまりない。国王とセレーネはいつも遅くまで執務に追われているので、夕食の時間が違うのだ。


「セレーネ、あの法案はなかなかに面白いな。もう少し詳細にまとめてみてはくれないだろうか?」


 今朝の朝議でセレーネが提出した法案を国王が気に入ったようだ。


「はい! 午後から早速ローラントとまとめてみます」


 ローラントと相談をしながら、まとめた法案だ。さらに詳細に詰めるのであれば、彼にいろいろ意見を聞いた方がいいだろうとセレーネは考える。


「ローラントはよくやってくれているようだな」


「はい。優秀な補佐官です。陛下に推薦していただけて良かったですわ」


「推薦か。まあ、そうだな。ところでセレーネはローラントをどう思う?」


 意味ありげに問う国王の意図が分からず、セレーネは首を傾げる。


「どうとは? 先ほども申し上げたとおり、優秀ですよ」


「いや。そういう意味ではなくてな。まあ、今はまだその話は良いか」


 曖昧な国王の言葉にますます訳が分からないセレーネだが、彼女がその真意を知るのは、まだ先の話だ。


◇◇◇

 王族の食事は豪華だ。何せ朝から魚や肉をふんだんに使った料理が出てくる。だが、セレーネが特に好きなものは米だ。主食にパンか米のどちらかが選べるのだが、前世の記憶が戻ってからというものセレーネは毎食米を選んでいる。


(何が感動するかってこの国には米があることよね。さすが日本人が書いた小説の世界だわ。グッジョブ! 作者)


 リンドベルム王国は資源が豊富な国だが、農業も盛んであり、特に穀物は小麦よりも米の生産が主流だ。文化は西洋風ではあるが、やはり一部は日本らしい一面もある。


「セレーネは米が好きだったか? 前はそれほど食べなかったであろう」


 美味しそうに米を頬張るセレーネを見て、国王がそんな疑問を投げかけてくる。

 記憶が戻る前のセレーネは少食だった。ヴィンセントに良く見られたいと思う気持ちから、体型を気にしてあまり食べなかったのだ。


「お米は大好きですわ。だって美味しいですもの」


 給仕に米のおかわりを頼む。セレーネは太らない体質だ。いくらでも食べられる。


(あんなクズ男のために米を食べないなんてあり得ないわ。副菜やメインのおかずも美味しいし、しっかり食べないと!)


「そうか。其方が健康でいることが何よりだ。それほど米が好きであれば、一度アンカーレ地方に視察へ行ってみるか?」


 アンカーレ地方というのは、リンドベルム王国の南にある穀倉地帯のことだ。昔から穀物の収穫量が他の地域より大きく上回る地方で、王家の直轄地となっている。非常時の備蓄米も一部こちらに保管されているのだ。


「ぜひ行ってみたいです!」


 この時期であればたわわに実った米を見ることができる。黄金の稲穂が「おいでおいで」とセレーネを誘っている構図が頭に浮かんだ。


「あい分かった。今年は豊作だそうだ。せっかくの機会だ。余の名代として、しっかり見てきてほしい」


「承知いたしました」


「はい! 喜んで!」という心の中の言葉は飲みこんだが、思わずセレーネはにやりとしそうになってしまい、咄嗟にナプキンで口元を隠す。


(獲れたての米! 上手くすると新米のおにぎりが食べられるかしら? うふふ。楽しみ!)


 セレーネ自身は上手く隠したつもりだが、向かいに座る国王はしっかりにやけ顔を見てしまった。しかし、敢えて気づかないふりをする。娘が嬉しそうな顔をしたのを見たのは、久しぶりだったからだ。


☆☆☆

 午後から執務室に戻ると、ローラントはすでに午後からの執務の準備をしていた。


「ローラント、聞いて! お父様の名代としてアンカーレ地方へ視察に行けることになったわ。貴方も同行してね」


「畏まりました。出発はいつでしょうか?」


「一週間後よ。支度に時間がかかりそうであれば、休みを取っても構わないわ」


 出発が一週間後であれば休みを取るまでもないが、米の収穫に立ち会えるかもしれないと思ったセレーネは心が躍っていた。正確には収穫した新米を味わいたいというのが本音だが……。


「特に休みは必要ございません。ところで殿下は嬉しそうですね。視察がそれほど楽しみなのですか?」


「もちろん楽しみよ。だって新米でおにぎ……新米が見られるのよ」


 あまりにも楽しみでつい「新米でおにぎりが食べられるかも」と口走りそうになったので、慌てて言い直す。


「ちょうど収穫している様子が見られるかもしれませんね」


「そうね。お米の収穫を実際に見るのは初めてだわ」


 前世は都会生まれの都会育ちだったために、テレビでしか米の収穫の様子を見たことがない。普段当たり前に食べていた米がどういう風に収穫されているのか興味がある。国王の言葉どおりしっかり視察をするつもりだ。


「今年は豊作になりそうだとの報告があがっておりましたね」


 アンカーレ地方は王家直轄地なので、こじんまりとした離宮がある。毎年、国王が視察の際に滞在しているので、セレーネも離宮に滞在することになるだろう。


「穀物が豊作なのは良いことだわ」


 豊作であれば、国民にも十分に米が行き渡るはずだ。いざ飢饉に陥った時の蓄えもできる。


 視察が今から楽しみなセレーネの意識はすでに一週間後に飛んでいた。

ここまでお読みいただきありがとうございました。


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