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破滅予定の悪役王女ですが、なぜかヒロインポジションになりました~女神の愛し子の称号で破滅エンドを回避します~  作者: 雪野みゆ


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9.

 翌日、早めに朝食を済ませたセレーネはローラントとともに穀倉へ視察に向かった。馬車の中で昨夜から考えていたことをローラントに伝えることにする。


「ねえ、ローラント。専属侍女は私が直接任命してもいいのよね?」


「ようやく専属侍女を置く気になられましたか? どなたか候補者がいらっしゃるのですか?」


 いつまで経っても専属の侍女を置かないセレーネを心配していたローラントは、ほっと息を吐く。

 専属侍女を置かない理由がセレーネにはある。実は初めて王宮に来た頃には専属侍女が何人かいたのだ。だが、度重なるフローラの嫌がらせによって、皆セレーネの専属を外れていった。

 フローラは「異母姉に虐められている可哀そうな異母妹」という巧みな演技をして、侍女たちにセレーネがいかにひどい人間か吹聴していた。だが、セレーネの専属侍女たちは彼女の人となりを知っているため、信用しなかったのだ。それがフローラの怒りを買い、侍女たちに嫌がらせを始めた。初めは嫌がらせを受けても侍女たちはセレーネの前で気丈に振舞っていたが、長く続くわけがない。疲弊した彼女たちは自ら専属を外れた。

 自分の専属ということで悲しむ者がいることに、セレーネは心が痛んだ。それ以降、専属の侍女は置かず、自分でできることはこなし、手伝いが必要な時だけ手の空いている侍女に頼むことにした。


「ええ。ちょっと気になる子がいるの」


「差し支えなければ、候補者を教えていただけますか? 身上調査をさせていただきます」


「身元はしっかりしているから必要ないと思うけれど、ミレーヌ・アルムグレンよ」


「昨日、殿下のご伝言を伝えに来た侍女ですか? アルムグレンと申しますともしや?」


「そうよ。彼女はアルムグレン伯爵家の令嬢よ」


「離宮に仕える侍女ですしアルムグレン伯爵家のご令嬢でしたら、身上調査は必要ないかもしれませんが、万が一ということもございます。念の為、再調査をさせていただきます」


 離宮に侍女として仕える際に身上調査は入念にされているが、仮にも王太女の専属侍女候補だ。念には念を入れて再調査をする必要がある。


「身上調査はローラントに任せるわ。再調査が終わったら報告してちょうだい。その後、問題がなければミレーヌを専属侍女として迎えるわ」


「かしこまりました」



 穀倉は簡単に説明すると、穀物を保管する倉庫のことだ。広がる平野に木造の建物がぽつぽつと並んでいる。地面から少し浮いた形のいわゆる「高床式」という建物だ。風通しが良く、ネズミなどの小動物が入り込めない構造になっている。

 セレーネは遺跡の写真でしか高床式倉庫を見たことがないが、この世界はヨーロッパ風の世界観なので、建物の様式は西洋風の外観だった。


「あれが穀倉なの? わりと小さな建物なのね」


「穀物の容量の基準が決まっているのです。小さく見えますが、穀物をそこそこ保管できますよ」


「でも、あれだけの規模で緊急時に足りるのかしら?」


 確かにいくつかの穀倉があるが、リンドベルム王国全体の国民の消費量が賄えるのか、セレーネは心配になる。


「穀倉はここだけではございません。アンカーレ地方の各所に点在しております」


「そうなの」


 同じような規模の穀倉がアンカーレ地方の各所に設置されている。災害は滅多にないが、非常時に備えて広い範囲に分散させているのだと、ローラントは説明してくれた。


「中をご覧になられますか?」


「ええ。もちろんよ」


 穀倉の中に入ると、ひんやりとした空気が流れており、しっかり温度管理がされているようだった。しかし、電気などの技術はない世界だ。どうやって中の温度を調節しているのかセレーネは疑問に思った。


「温度管理はどうやっているのかしら?」


「温度や湿度を適度に保つ魔法がかけられているのです。穀倉の周りには虫や小動物除けの魔法陣も設置されていますよ」


(へえ。さすが魔法がある世界ね。便利だわ)


 米は木製の密閉容器に保存されている。湿気や酸化などは米の敵だ。密閉容器を使うことが長期保存をするうえでは必要不可欠とのことだった。一応、容器にも米を良質な状態で保つ魔法がかけられているらしい。


「ローラントもこういった魔法が使えるの?」


「使ったことはございませんが、たぶんできるかと……」


 ローラントは当代一の魔法使いだ。大抵の魔法は使えるだろうとセレーネは予想していた。


「いいわね。私はショボい魔法しか使えないから、羨ましいわ」


「ショボくはないでしょう。殿下は魔力量が無尽蔵ですし、魔力切れを起こさない体質ですよね? 私はそちらの方が羨ましいです」


 セレーネは生活に役立つ魔法しか使えないのでショボいと言われているが、実は魔力量が桁違いに多く魔力切れを起こしたことがない。


「それしか取り柄がないのよ。ローラントのようにいろいろな魔法が使えると良いのだけれど……」


「そのうち使える魔法が増えるかもしれないですし、そう気落ちすることもないですよ」


 新たな属性の魔法に目覚めることはままある。だが、練習すればできるというものではない。ある日、突然使えるようになったというケースが多いのだ。


「期待せずに使えるようになるのを待っているわ。さあ、次は収穫の様子を視察するのよね? 行きましょう、ローラント」


 しかし、穀倉を出た途端に激しい雨が降り始め、急遽セレーネたちは離宮に戻ることになった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。


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