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プロローグ

久しぶりの投稿となります。

よろしくお願いいたします。

 雷に打たれたようなではなく、文字どおり雷に打たれたショックで、恐ろしいほどたくさんの記憶が一気にセレーネの脳内に流れ込んできた。


「あれ? ここって『エステルの戴冠』の世界じゃない?」


 そんな言葉を呟いた後、セレーネは気を失った。


☆☆☆

 セレーネが気を失う少し前に時間は遡る。


「……ヴィンセント。これはいったい……どういうことなの?」


 婚約者であるヴィンセントのもとに訪れたセレーネは衝撃を受けた。なぜなら彼はセレーネの異母妹であるフローラを膝の上に乗せ、「愛しているよ、フローラ」と囁いていたからだ。


「セレーネ殿下!?」


 ヴィンセントは慌ててフローラを膝の上から降ろそうとしたが、フローラがそれを止める。そして、堂々とヴィンセントの胸に頭を預けて甘えるような仕草をすると、にやりと口端をあげた。


「お姉様、こういうことですの。ヴィンセントとの婚約を破棄してくださらない?」


 婚約者の裏切りを目の当たりにしたセレーネは、震える体を両腕で抱きしめきっと二人を睨む。


「いつから……いつからなの? 貴方たちはいつの間にこんな仲に……」


 絞り出すように問いかけるセレーネにフローラは嘲るような笑みを向ける。


「いつから? 幼い頃からずっとですわ。ヴィンセントは元々わたくしの婚約者になるはずでしたの。突然正妃の娘である貴女が現れなければね」


 セレーネはリンドベルム王国の第一王女で正妃の娘である。対してフローラは側妃の娘で第二王女だ。しかし正妃の娘でありながら、セレーネは十四歳まで市井で育った。


「卑しい市井の育ちのくせに、正妃の娘というだけでヴィンセントの婚約者の座は貴女に盗られてしまった」


 理由ありではあるのだが、王女でありながら市井で育ったセレーネをフローラはことある事に見下していた。

 セレーネが十六歳の時にヴィンセントとの婚約が結ばれた後、セレーネに対するフローラの当たりはさらにきつくなったのである。


「ヴィンセント! 貴方もそうなの?」


 堪らず婚約者にも問いかけると、ヴィンセントはセレーネを一瞥(いちべつ)し、ため息をつきながら前髪をかきあげる。


「そうですよ。僕はフローラと結婚するものだとばかり思っていた。王命でなければ誰が市井育ちの王女なんかと婚約するものですか」


「そんな……」


 知らない。こんなヴィンセントは知らない。初めて出会った時から彼はいつだってセレーネに対して優しかった。いつだって青空のような瞳はセレーネを優しく見つめてくれていたのに……。


「そうだ。セレーネ殿下から婚約を破棄していただけませんか? 国王陛下は貴女に甘い。きっと婚約破棄を認めてくださるはずだ」


 良いことを思いついたというような顔をしてセレーネに笑いかけるヴィンセントだが、その表情には優しさのかけらも見られない。


 ヴィンセントの言うとおり、国王はセレーネに甘い。長年市井で育ち苦労をさせたとセレーネをとことん甘やかしている。ヴィンセントとの婚約を破棄したいと願えば、きっと叶えてくれるだろう。


 だが、政略で結ばれた婚約とはいえ、セレーネはヴィンセントのことが好きなのだ。婚約破棄してくれと言われても、簡単に諦めることはできない。


「それは……できません」


 婚約破棄はできないと言うセレーネにフローラが鼻で笑う。


「バカなお姉様。愛されていないのに婚約破棄をしないなんて。でもそうね。どうしてもヴィンセントのそばにいたいのであれば、側妃になるのはどうかしら?」


「なっ!?」


 突拍子もないフローラの提案にセレーネは言葉に詰まる。


「僕の妻になる人は君一人だけでいい。愛しているフローラ」


 フローラの髪に口づけを落としながら愛の言葉を囁くヴィンセントは、最早セレーネへの裏切りを隠すつもりもないらしい。


「ふふっ。そう? でもお姉様を側妃に迎えれば、面倒な執務を全て押しつけられるのに?」


「それはいい考えだね。でも愛しているのはフローラだけだから、形だけの側妃になるな。それでもよろしいですか? セレーネ殿下」


 セレーネへ向けられる二人の眼差しは侮蔑(ぶべつ)に満ちている。耐えられずセレーネは部屋から飛び出した。


 気づけばセレーネは王宮の中庭にいた。ここには四阿(あずまや)があり、いつもヴィンセントとお茶会をしていたお気に入りの場所だ。


「ひどい……ひどいわ」


 四阿に設置されているテーブルに倒れ込むように突っ伏すと、セレーネは声を上げて泣いた。

 大好きな婚約者はよりにもよって異母妹を愛しているという。しかも幼い頃から二人は想いあっていたというのだ。


「形だけの側妃なんていやよ!」


 二人は両想いだ。セレーネが婚約破棄をすれば、ヴィンセントはフローラに婚約を申し込むだろう。だが、仮にセレーネを側妃にとヴィンセントが望んだとしても、国王は決して許さないはずだ。


「貴女にヴィンセントは渡さないわ、フローラ」


 セレーネは立ち上がり、ふらつく足取りで四阿を出ると、国王の執務室へ向かおうとする。こうして泣いている間にも、ヴィンセントがセレーネとの婚約破棄を国王に願い出てしまうかもしれないのだ。先手を打っておかなければならない。


「婚約破棄なんて絶対にしない!」


 しかし、四阿を出て王宮の回廊に辿り着く寸前、突如雷鳴がしたかと思えば、一筋の閃光がセレーネを貫いた。

あと一話投稿します。

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