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09 ダンジョンデートでほっこり

ほっこりさん「ダンジョンでデートとはけしからん☆こり!」

アタマカタイですよ。ほっこりしましょ。

「やあ」


 ダンジョンの入り口に到着すると上級生の中にパーマー王子の姿があった。


「パーマー様! どうしてここに?」


「もちろん、君たち『ブレス・アウェイ』の引率のためだよ」


 赤毛の少女の表情がパッと輝き、パーマーは目を細めて微笑む。


 それを見たジョアンとアントネッラがひそひそと会話を交わす。


「あらまあそういうことでしたのね」


「隅に置けませんわねえ」


 フィリオンは顔に(ハテナ)マークを浮かべ、ロリーナとコーリス・ウィニーはほっこり微笑んでいる。


「ゴホン!」と咳ばらいをし、パーマーは『ブレス・アウェイ』のメンバーに周知する。


「ウェルカムダンジョンの難易度は高くはない、けれど油断は禁物だ。緊張感を持って確実に攻略しよう」


「はい!」


 上級生に引率されてそれぞれのパーティーがダンジョンに潜っていく。




 ウェルカムダンジョンは全十階層の地下ダンジョン。各階層に巣食うのは魔物と呼ばれる異形のモンスター。階層が深くなるほど魔物の脅威度は増していく。


 四時間後、『ブレス・アウェイ』は最終階層のボス部屋の前に辿り着いた。


「けっこう楽勝だったな」とフィリオン。


「まだラスボスが残っていますわ」とアントネッラ。


「あたちたちならきっと大丈夫でしゅ」とコーリス・ウィニー。


「デート気分もここまでですわよ、スカーレット」とジョアン。


「え? なんであたし?」


「お前ずっとほっこりしてただろ。丸わかりだったぞ」


「フィリオンに言われるなんて最悪だわあ」


「ほっこりしっかりいきましょう」とロリーナ。


「さあ、最後の戦いだ」


 パーマーがラスボスの扉を開けると、そこは巨大な広場だった。


「え?」


 ラスボスの部屋にいたのはボスモンスターではなく、一年生全てのパーティーだった。


 背後で扉が閉じる音が聞こえた。


 バタン!


 広場は逃げ場のない完全な密室になった。


「もしかしてパーティー同士で戦えってことなのかしら?」


 首を傾げてパーマーに問いかける。


「いや。他の引率者たちに事情を聞いて来る。君たちは臨戦態勢のまま待機」


「はい」




 上級生たちが集まって情報交換をしている間、一年生たちはキョロキョロと不安げに周囲を警戒する。


「やっぱりバトルロイヤルかしらねえ」

「みがわり君もいないのにバトルロイヤルなんかしたら大けがしちまうんじゃね?」

「だよなあ」

「もしかして大規模ボス戦かしら」

「もしもの時には上級生が護って下さるから心配いらないわ」

「先輩たちの実力は半端ねーもんなあ」


 ざわついた空気の中で、探知を継続していたロリーナの目が驚きで大きく見開かれる。


「膨大な魔力の奔流を感知しました!」


「どこ?」


「祭壇の上です!」


 広場の一画にある祭壇に皆は目を凝らす。


「確かに祭壇だわ。でもなんでここに祭壇が?」


「人身御供の祭壇だったりして」


「やだぁーっ、脅かさないでよぉ!」


「リアクションが覚醒前夜に戻ってますわよ。ほっこりし過ぎですわ」


「ええぇーっ!」


 そんな会話を交わしている最中に異変は起きた。


 ズバッ!


 炸裂音とともに空間が歪み、バチバチと音をたてながら裂け目は広がっていく。祭壇の上の空間の裂け目は全長5メートルにも達した。


 学生たちは息を呑む。


「あれは……アストラル・ゲート!?」


「アストラル・ゲート? なんですのそれ?」


「ここではないどこか、アザー・ワールドへと通じるゲートよ!」


 複雑な魔法陣と長い詠唱を必要とする極めて難易度の高い魔法で、扱えるのは大賢者と呼ばれる一部の魔法使いのみと言われてきた。


「アザー・ワールドの誰かがゲートを開いたんだわ。そうとしか考えられない」


「いったい何のために?」


 ゲートの中からゆらゆらと人の姿をした巨大な黒いモノが現れる。身長は優に3メートルを超えていた。


「背中に翼が生えてますね。翼人でしょうか」


 アントネッラが指摘したように翼人らしき生物が確認できたものの、その姿を視認しようとしても黒い霞が邪魔をしてできなかった。


 名前も形も定かではない存在。その存在がゲートから一歩踏み出たとたん、凄まじい圧力が襲い掛かった。


「なっ……!」


 圧倒的な畏怖の念が押し寄せてくる。ひれ伏せ、隷属せよ、従わぬ者には無慈悲な天罰が下るだろう。


 学生たちは一様に上級生も一年生も例外なく硬直して動けなくなった。


(なにこれ……何らかの強制力が働いてるみたいに指一本動かせない)


 迫り来る翼人たちを学生たちは恐怖に怯えながらただ見ているだけしかできなかった。


(動け、動けええぇぇーーーーっ!)


 どうあがいても硬直した体は動かない。


(体が動かないなら、魔力を動かすしかないわ)


『魔法は詠唱が必須ではない。イメージをより鮮明にするために詠唱が必要なだけであって、イメージさえ確立していれば無詠唱でも発動できるのじゃ』


 ロリィターニア先生の教えを思い出し、スカーレットは魔力コントロールに全神経を集中する。


(神聖なる加護を我らに、ディヴィーナ・プロテツィオーネ!)


 聖魔法が発動し学生たちの硬直が解かれる。しかし翼人は既に手を伸ばせば学生を掴める距離まで近づいていた。


「シールドを張ってぇーーっ!!」


 その叫び声に反応して学生たちはパーティー毎に素早くシールドを展開する。


 シールドに阻まれて学生たちを掴めず翼人は地団駄を踏んだ。


 パーマーたち上級生たちの緊迫した指示が飛び交う。


「全てのパーティーはシールドを張りつつ速やかに攻撃に移行せよ!」


 上級生と一年生が攻撃魔法を放つが、翼人を取り巻く黒い霞に触れたとたん霧散する。翼人は攻撃など全く意に介さずに学生たちの間を練り歩く。


 そんな中、ひとりの学生が翼人に捕まり火だるまになった。


「ぎゃあああああああああっ!!」


 炎で炙られ全身からポタポタと血と油を滴らせて絶命した学生を翼人は口もとに運んだ。


 バリバリィ! モグモグゥ!


 荒々しい咀嚼音が聞こえてくる。


「くっ、食ってやがる!」


 祭壇に開いた空間の裂け目からは、更に二人目、三人目の翼人が這い出して来た。翼人たちは逃げ惑う学生たちを刈り取る様に掴み取り火炙りにした上で食らいつく。誰にも止められない、誰も逃れられない。安全地帯と言える場所はこの密閉された広場のどこにも存在しなかった。


「ゲートを塞がなければいくらでも這い出して来るぞ!」


「ドラゴンブレスを叩き込みますわ!」


「やれるのか?」


 フィリオンが問いかける。


「やれるのか、ではなく、やるのですわ! 私の全魔力を注ぎます。あとはよろしく!」


 ジョアンは杖をかざして詠唱を始める。


「煌めく炎よ、古の龍よ、真実の力を示し、漆黒の闇を打ち破り、光輝く未来への道を切り拓く力を我に授けよ。龍の息吹よ、我が前に立ちはだかる敵を焼き尽くせ!」


 杖の先端が限りなく輝きを増す。


「魔力偏差値109.99、学園屈指の魔力量を誇る私の最大奥義を食らいあそばせ! イグニス・ドラゴンブレス!」


 ジョアン渾身のドラゴンブレスがアストラル・ゲートに吸い込まれる。眩い光に包まれたゲートは、次の瞬間音をたてて砕け散った。


「やった!」


「まだよ!」


 三人の翼人は相変わらず学生たちをわし掴みにしてバリバリと咀嚼していた。


 戦意を喪失した学生や泣き叫ぶ学生が大勢いる中で上級生たちは果敢に攻撃魔法を撃ち続けるものの、効果は微々たるものだった。


 全滅! 不吉な予感が脳裏をよぎる。たった三人の翼人に新入生と引率の上級生が全滅させられる。


 その時、ロリーナが翼人たちに向かって歩きだす。


「スキルを使います!」


『ブレス・アウェイ』のメンバーは不安と期待を込めた眼差しをロリーナに向ける。


「ロリィターニア先生に止められてたけど……いいの?」


「これ以上放置すると被害が拡大してしまいます。使うなら今しかありません」


「わかったわ。その間あたしは学生たちを学園にテレポートさせる準備をする!」


「お願いします」


 そう言うとロリーナは目を閉じて呪文(インカンテーション)を口にした。



 * * *



「『エグゾシズム(祓魔)』」


 ブリッジ体勢で四つ足になったロリーナは翼人たちの方へ真直ぐに歩いていく。のしのしと歩く異様なその姿にフィリオンの口がアングリと開かれる。


 彼女に気づいた翼人は攻撃魔法を放つが、それらは全て黒い霞となって霧散する。


「絶対魔法無効領域を展開しているのか!」


 翼人の下へ辿り着いたロリーナがその体に触れると、翼人の体全体が黒い霞となって爆散した。


「触れたものを虚無に還す魔法……とんでもねえな!」


 後ずさる二人の翼人に向かって彼女は口から緑色の液体を吹きかける。


 緑色の液体を浴びた翼人の体がジュワーッと音を立てて溶け、翼人たちはもんどりうってのたうち回る。


「あれも……スキルなのか」


「フィリオン、解説してる暇があったら学生たちを一か所に集めてちょうだい!」


「まさか、この人数を!?」


「やるしかないのよ!」


 ロリーナが翼人たちを黒い霞に分解したその一方で、祭壇の上では再びアストラル・ゲートが開きつつあった。


「後続が来ますわよ!」


「ロリーナを呼び戻して!」


「オレが行く!」


 フィリオンは走ってロリーナのところへ。彼女は反射的に緑色の液体をフィリオンにぶちまける。ローブと皮膚が溶けるがフィリオンはおかまいなしに近づいていく。


「だいじょうぶだ、ロリーナ。学園に帰るぞ」


 スキルを解除したロリーナはパタリと倒れその場から動けなくなった。


「スキルの反動か……」


 上級生、一年生、全てのパーティーがスカーレットの周りに集まり、最後にロリーナを抱えたフィリオンが加わった。


「全員揃いましたわ!」


 スカーレットはありったけの魔力を注いでテレポートを発動する。


「『グランド・リープ!』」



 * * *



 あたしの知っている物語(シナリオ)とは違う。


『スカーレット・アンド・アザー・ワールド・ストーリーズ』では、ウェルカムダンジョンで人が死んだり、ロリーナがスキルを発動したりなんてなかった。


 物語全体を通じて、死を匂わせる描写はあっても、直接的な死の描写は無いはずなのに……。


 何かが違う。


 ここは本当に物語の世界なのか。全く別の似て非なる世界ではないのか。だとしたら、約束された幸福は永遠に訪れないのではないか。


 疑問をいくら投げかけても、答えが返ってくることはなかった。


王子様とダンジョンデートでほっこり。

ほっこりさん「ほっこり詐欺☆こり」

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