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08 模擬戦を合コンと勘違いしている君たちはどう生きるか?

ほっこり学園ラブコメ。

「みなのもの、みがわり君は付けたかのう?」


「はーい」


「説明するまでもないじゃろうが、みがわり君はおぬしらの代わりにダメージを受け、みがわり君のダメージが一定量に達した時点でそやつは死亡扱いとなる。なにか質問は?」


「はい!」


「何じゃ? 言うてみるがよい」


「他にいいネーミングはなかったのかよ? ネーミングセンス無さすぎだろ」


 何もない空間から杖が現れ、フィリオンの頭を殴る。


「いてっ! って、あれ? 痛くねえ」


「そういうことじゃ。みがわり君は物理も魔法もダメージを肩代わりしてくれる優れもののアイテムなのじゃ」




 訓練場でスカーレットたちは六人の男子たちと対峙した。


「まずは自己紹介と行こうじゃねえか。俺は爆裂魔術師リッチー・ボーレイン!」


 リッチーを皮切りにに男子たちは次々と名乗りを上げた。


「小生は幽玄なる魔法使いジェイムズ・ディオニスである」


「ワシは暴虐魔導士グラハム・ビラットじゃあ!」


「おいらはアイサレンダーことジョブ・リターナーだい!」


「余は光速の魔法師マイケル・カーシェンなり」


「某は魔術の仙人ウリヨン・ローデスでござる」


 六人の男子たちは一糸乱れずビシッとポーズを決めた。


「「「「「「我ら『ダイヤモンドストリーム』!」」」」」」


(きっとこの日のために練習をしたのね)




 そんな彼らに突っ込みを入れるのはもちろんフィリオン。


「覚えられねえよ!」


 他のメンバーも激しく同意する。


「ですわよねえ」「ひとりだけ既に負けちゃってる方がいますし」「ネーミングがあまりにも杜撰すぎますわ」「処置無しでしゅ」


 ジョアンが高飛車に言い返す。


「私たち『ブレス・アウェイ』が返り討ちにして差し上げますわ!」


 するとフィリオンが驚いて振り返った。


「いつのまにグループ名決まったんだ?」


「昨夜女子寮でパジャマパーティーを開催しましたの。その時に決定したのですわ」


「そんな大事な話ならオレも呼んでくれよぉ!」


「呼べるわけないでしょ!」


 ジョアンとフィリオンの掛け合いを見た『ダイヤモンドストリーム』はギリギリと歯ぎしりをする。


「くっそう! イチャイチャしやがって、許せねえ!」


「男の嫉妬は宇宙(コスモ)より深し、拭えぬ恐怖と戦慄を貴様らの心に刻みつけてやるのである!」


 ロリィターニア先生が『ダイヤモンドストリーム』の面々に質問する。


「ちなみにおぬしらのお目当ての女子は誰なのじゃ?」


「「「「「「えっ!?」」」」」」


 頬を赤く染めもじもじする『ダイヤモンドストリーム』。


「ほれほれ、恥ずかしがらずに言うてみい。もしかしたらワンチャンありやもしれぬぞ」


 ワンチャンありと聞いて『ダイヤモンドストリーム』の表情が輝きを増す。


「俺はロリーナと一緒のパーティーになれれば幸せだなぁーと……わくわく」


 リッチーを皮切りに秘めたる想いを語り始めた。


「小生もロリーナ殿に惚れているのである……うほっ!」


「ワシは真紅の髪のスカーレットが好きじゃあっ! 言っちまっただ……」


「おいらはコーリス・ウィニーにゾッコンなのさ……アイサレンダー!」


「余はアントネッラ殿に恋をしてしまったなり……デートしたいなり」


「某もロリーナ嬢が好みでござる……可憐でござる」


 入学以来、片思いを続けて来た彼らだったがいつしか思いは募り、見ているだけでよかったはずなのに満足できなくなってしまった己がいた。ワンチャンアリと聞かされ欲望は更に膨らみ、チャンスに賭ける意気込みは生半可なものではなかった。


 うんうんとロリィターニア先生は頷き、六人の男子たちはドキドキそわそわ、ダイヤモンドの様に瞳をキラキラ輝かせて女子たちを見つめていた。


「青春じゃのう。して『ブレス・アウェイ』の返答やいかに?」


 全集中で女子たちの答えを待つ『ダイヤモンドストリーム』、その気迫は凄まじく周囲を圧倒的した。


 ロリーナ、スカーレット、コーリス・ウィニー、アントネッラの四人は顔を見合わせ、声を揃えて返答する。


「「「「ごめんなさいっ!」」」」


 ガアアアアァァァァーーーーン!!!


 その瞬間『ダイヤモンドストリーム』からキラキラが失われた。


 膝をついて両手で地面を叩き、絶望の涙を流しながらこの無慈悲な世界に神は存在しないのかと天を仰いだ。




 嘆く男子たちに軽蔑の視線を向けたジョアンは更に追い打ちをかける。


「アーヴェ王立魔法貴族学園をマッチングアプリか何かと勘違いしているのではなくってっ!!」

 

 フィリオンが再び驚いて振り返る。


「おまえキレてねえか?」


「キレてないですわ。私をキレさせたらたいしたものですわよ」


「でもさ、こめかみに血管が浮き出てんぞ」


「キレてないって言ってるでしょ!」


「うへえっ、こえーーっ!」


 ロリィターニア先生の声が訓練場に響き渡る。


「これより模擬戦を開始するぞい!」



 * * *



「悲しみを乗り越えて、絶望を怒りに変えて、俺たちは何度でも立ち上がる! 先手必勝、食らえ渾身の爆裂魔法……え!?」


「隙だらけですわよ、ドラゴンブレス!」


「散開するなり!」


「逃がしませんわ!」


 グオオオオォォォォーーーーッッ!


 ドラゴンブレスが訓練場を薙ぎ払う。


「「「「「「うわあああぁぁぁーーっ!」」」」」」


「勝負あり! 勝者『ブレス・アウェイ』」


 ロリィターニア先生のジャッジが下り、男子たちのあまりの無策ぶりにジョアンは唖然とする。


「あんたたちシールドくらい張りなさいよ! 勝負にならないでしょうが!」


「そんな姑息な真似が出来るかあ!」


 リッチーを皮切りに六人の男子たちは吠えたてる。


「小生たちは攻撃に100パーセントリソース(コスモ)を費やしているのである!」


「攻撃は男子の嗜みじゃあ!」


「おいらはいつだってアイサレンダーさ!」


「防御は女子に任せるなり!」


「求む守護天使でござる!」


「やれやれだわ」


 ジョアンは肩を竦め、フィリオンはがっくりと肩を落とす。


「出番ナシかよぉ……作戦も何もあったもんじゃねえなあ」


「次があるでしゅよ」


 コーリス・ウィニーはフィリオンの手を握って慰める。戦い終わってほっこりムードのところに緊迫した声が響く。


「まだ終わってないわ! 油断しないで!」


「え!?」


 スカーレットに続いてロリーナも警告を発する。


「来ます、上」


「『ホーリーアブソリュートプロテクション』」


 二人の聖魔法使いが絶対防壁を頭上に展開する。


 次の瞬間、凄まじい光の波動がシールドにぶち当たる。


 光が治まり上空を見るとそこにいたのは……。


「あらら、防がれてしまいましたわ」


「レジェンダ・ジュリアンヌ・リーガン!」


 上級生が訓練場に乱入してきた。


「ロリィターニア先生?」


『ブレス・アウェイ』は先生の方を見るが、


「これもまた経験じゃ」


 の一言で試合続行が決まった。



 * * *



「上、下、左、右、B、A」


 あらゆる方向から飛んでくる攻撃魔法に対してロリーナの指示に従いシールドを張るが、精緻な魔力コントロールに基づいた攻撃は、まるでレジェンダが複数人いるかのような錯覚に陥る。


「怪我をしても文句言わないで下さいまし。ドラゴンブレス!」


 ジョアンが放ったドラゴンブレスはレジェンダの手前でふっと消滅した。


「ブレスが消えた!?」


「空間魔法で別の場所に飛ばしたのよ!」


「どんだけ属性持ってんだよ!」


 ドラゴンブレスは防がれ、アントネッラとフィリオンの攻撃ではダメージを与えられない。


「そろそろ幕引きですわね」


 上空から見下ろすレジェンダの氷のような微笑。


「『星の終焉(ステラ・フィナーレ)』」


 光の雨が降り注ぐ。


「まるで星のシャワーみたい」「きれいでしゅ」


 見た目はうっとりするほど美しいが、その威力は半端なかった。


「「シールド全開!」」


 星のシャワーがシールドに激突し光が炸裂する。


「おほほほほっ! いつまで耐えられるかしら?」


 上空から高笑いするレジェンダ。


 光の雨一発ごとにシールドに費やす魔力がゴリゴリと削られていく。


「もう無理いいいぃーーっ!」




「わたくしのスキルで」


 スキルを発動しようとするロリーナを制止する鋭い声。


「使うでない!」


「ロリィターニア先生」


「今はその時ではない」




 みがわり君のダメージが一定量に達すると同時に、訓練場の全ての魔法は消滅した。


 ペタリと『ブレス・アウェイ』の一同は座り込む。


「実戦なら跡形もなく消し飛んでいたわ……」


「上級生ひとりに手も足も出ないなんて……」


「まだまだ鍛錬が足りないでしゅ」


「くやしいですわっ! こうなったらサロンでケーキのやけ食いですわ!」



 この後サロンに行って皆でケーキを食べた。もちろん『ダイヤモンドストリーム』の奢りで。



ほっこりさん「『ダイヤモンドストリーム』はこの先どう生きる☆こり?」

ATM男子として、ですかねえ。

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