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05 魔力コントロール……スカーレットはコスモを感じるか?

ほっこり学園ラブコメ。

 二十歳過ぎの若い先生が教室に入ってきた。先生は生徒たちを見渡してほうっとため息をつく。


「さすが貴族の子供たちです。見た目だけは美の化身が地上に舞い降りてきたかのようですね。けれどそれだけでは真の貴族とは言えません。美しく華麗に魔法を使いこなしてこそ貴族なのです」


 見た目の美しさは当たり前、真の貴族の価値は魔法の熟練度によって決まる。


「魔力コントロール担当のディアボリカ・ブラッドフィールドです。みなさんが真の貴族になるためのお手伝いをいたします。ではさっそく魔力コントロールの練習をしましょう」


 ブラッドフィールド先生は教壇の上に両手を差し出した。


「まず手のひらを重ね合わせ、間隔をだんだん開いていきます。開いた空間に魔力を流し右から左へ、左から右へと移動させます。その間ロスを限りなくゼロに近づけるよう心がけて下さい」


 生徒たちは早速やってみるが、手のひらを離れた魔力のほとんどが霧散する。


「体外に放出した魔力をコントロール下に置き、必要とあらば体内に取り込む。この魔力循環がロスなく行えるようになると探知魔法が効率よく使えるようになり魔物討伐時の生存率が格段に跳ね上がります。また遠隔魔法を使う際の必須の技能と言えるでしょう」


 ブラッドフィールド先生は両手の間に全くロスのない魔力を自在に流す。


「コントロールの定まらない魔法ほど危険なものはありません。魔力コントロールを怠るものは魔力コントロールに泣くことになります。焦らずじっくりと確実にコントロールを身に着けましょう」


 先生は二人の生徒の魔力コントロールに目を瞠る。 


「二人ともとても精緻なコントロールです。名前は?」


「ロリーナ・リオスバルトです。魔力コントロールは得意です」


「アントネッラ・ヴァターリアです。アモルフィス王国からの留学生です。私も魔力コントロールは得意です」


 ブラッドフィールド先生が頷いた。


「なるほど、ヴァターリア家は魔力が豊富な家系で有名ですね。豊富な魔力を扱う為の基本が叩き込まれています」


 先生はチェックしたりアドバイスをしたりするために生徒たちの間を回る。


「そこのあなた、名前は?」


「ジョアン・ヴァーリィ・ハインリーネですわ」


「膨大な魔力を感じますけれど無駄が多すぎます。失った魔力はすぐには回復しませんよ」


「私細々したことは苦手ですのに……」


「それからそこのあなた、なかなかいい線いってますよ」


「オレはフィリオン・ダイシーク。属性魔法は全て使えるぜ。一番得意なのは錬成魔法だ」


「ふむ。あなたは器用そうですから錬成には向いていそうですね」


 そして赤毛の学生の前で立ち止まる。


 彼女の手から放たれた魔力は戻ってくる気配が全くない。


(魔力を放出するだけでせいいっぱいだわ)


「あなたがスカーレットさんね?」


「ひゃい……」


「ロリィターニア先生がおっしゃっていました。未来の聖女候補がいると」


「へ?」


「いくら才能があっても磨かなければ宝の持ち腐れですよ。日々の鍛錬を怠らないように」


「ひゃ……わかりまひた」



 * * *



 放課後、誰もいなくなった教室でもくもくと魔力コントロールの練習をする。


「くっ、難しいわ」


「苦戦しているようですね」


 生徒会役員のアーチャーが教室に入ってきた。


「なかなか上手くいかなくて……」


「最初は誰だってそうですよ。コツさえ掴めばあっという間です」


 アーチャーは彼女の後ろから両手を回す。


「僕が君の魔力をコントロールしますから、魔力の流れだけに集中して下さい」


「は……はい!」


「魔力を委ねて……それでいいです」


 他人に魔力を制御されることで驚くほど鮮明に魔力の流れが感じられる。


「素直な魔力ですね。純粋で美しい、それでいて鮮烈です」


「褒めすぎですよぉ」


「まるで君の髪の色の様だ」


 横を見ると眼鏡の奥のキリリとしたヘーゼルアイがすぐ近くにあった。


(なんて綺麗な色なのかしら。瞳孔に近い部分がライトブラウン、その周りがライトグリーン、引き込まれてしまいそう)


 どれくらいの間そうしていただろうか。いつのまにか両手の間をスムーズに魔力が行き交うようになっていた。


「できたっ! できましたよ、アーチャー様!」


「上出来です」


「ありがとうございます!」


「君の努力の賜物ですよ。僕は人を見る目はある方だと自負しています。君は間違いなく伸びますよ」


 アーチャーは指で軽く赤毛に触れ、


「さて、生徒会役員の仕事があるので行きますね」


 そう言って教室から出て行った。


「はあ……。美形だわあ」


 頬をほんのり赤く染めてしみじみとつぶやいた。



 * * *



 入学して一カ月が経つ頃には、見違えるほど魔力コントロールが上達した。


 上級生たちが時々やってきて鍛錬に付き合ってくれる。


 おかげで魔法の鍛錬が楽しくてたまらない。


「聖女誕生の瞬間に遭遇というのもあながち間違いではないな」


 とパーマーが感心して見つめる。


「私の目に狂いはありません」とアーチャー。


「魔力偏差値99.99は伊達じゃねえな」とエルドリッチ。


「YOUは才能あるYO!」とティモシー。


「もうっ、みなさん大袈裟ですよぉ! でも嬉しいですぅ」


(やさしくて素敵な先輩たち。先輩たちに出会えてよかったぁ)




 彼女は聖魔法と空間魔法を次々に習得していく。


(考えるのではなく、感じるのだわ。魔法はイメージの世界だもの)


 単一魔法が終われば複合魔法があり、その先には極大魔法が待っている。魔法使いへの階段を一段ずつ上っていく。


(イメージするのよ。大いなる流れの中を悠々と泳ぐ自分自身の姿を)


 大気中にあふれる魔素、魔素の塊が魔力、魔力には流れがありけっして一カ所にとどまらない。小さな流れは大きな流れと合流し魔力の潮流はあまねく世界へ広がっていく。魔力の潮流に身を委ね世界を俯瞰する。この潮流はいつしか宇宙へさえ届くだろう。


(感じるわ、宇宙(コスモ)をあたしの手の上に)


 小さな自信の積み重ねはやがて大きな確信へと変化する。



 * * *



 ロリィターニア先生は学生たちの成長に目を細める。


「魔法は鍛錬を裏切らん、鍛錬も魔法を裏切ってはならん」


 学生たちはその言葉を噛みしめる。


「魔力コントロールの先に何があるか分かるか?」


 ロリィターニア先生の質問に学生たちは首をひねる。


「見よ!」


 先生は無言で次々と魔法を発動させる。


「無詠唱魔法だと!?」


 学生たちは畏敬と羨望の眼差しを先生に向ける。


「魔法は詠唱が必須ではない。イメージをより鮮明にするために詠唱が必要なだけであって、イメージさえ確立していれば無詠唱でも発動できるのじゃ」


 その日以降、学生たちはより熱心に魔力コントロールに取り組んだのは言うまでもない。


 スカーレットも例外ではなく、ジョアン、ロリーナ、フィリオン、アントネッラと一緒に鍛錬を続ける。仲間たちの存在がより成長を加速させた。


(前世では考えられなかったなぁ……上級生やクラスメートとのつながりなんて)


 前世……思い出の中の学校は苦痛と絶望に満ちていた。彼女はブルブルと頭を振って雑念を払う。


(魔力の流れに身をまかせて。ここはアリーチェ・プレザンス・リデルと呼ばれる遥かなるアザー・ワールド。あたしたちの生きる世界)


紹介します。ナビゲーターのほっこりさんです。

ほっこりさん「ぼくちんほっこり☆こり。ほっこり学園の補足や解説を担当する☆こり。よろしく☆こり」

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