03 魔力測定属性検査
ほっこり学園ラブコメ。
「みなの者、おはようなのじゃ」
ロリィターニア先生が教壇に立って挨拶をする。正確には椅子の上に立って挨拶をする。
ひとりの生徒がニヤニヤ笑ってつぶやいた。
「うわぁ、ちっこい。ガキじゃねえか」
すると何もない空間から杖が現れてゴツンと頭を殴った。
「わらわは地獄耳なのじゃ。よけいなことを言う輩には容赦はせん。覚えておくがよい」
「パワハラだ! 暴力反対!」
「教室ではわらわが正義じゃ。学園規則にもそう書かれておる。文句があるなら国に訴え出るがよい。100%相手にしてもらえぬじゃろうがな」
「ぐう……」
「よいか、魔法という暴力装置を扱う以上、常に生死の危険が伴うのじゃ。生半可な覚悟しかないのなら領地に帰ってママのオッパイでも吸っておるがよい」
ロリィターニア先生は教室内を見渡して告げる。
「今から30秒ほど猶予をやろう。覚悟のない者は教室から去れ」
30秒後……。
「さて、授業を始めるのじゃ」
魔法を扱えない者は貴族に非ず……その言葉通り退出した者はひとりもいなかった。
* * *
「自分自身の魔力量と属性を把握するところから魔法は始まる。この中に魔力測定と属性検査を受けてないものはおるか?」
スカーレットはおずおずと挙手した。測定と検査はお金がかかるため貧乏男爵家には支払うお金が無かったのである。
「ふむ、三人か。では放課後学内礼拝堂に集合じゃ。測定と検査を同時に行うぞい」
「はい」
こうして王立魔法学園入学初日の授業が始まった。
「魔力量には個人差がある。偏差値50を基準に上は100から下は0まで様々じゃ。属性には7つの基本属性があり、火、水、風、土、光、闇、聖じゃ。その他には空間属性が存在する。マジックバッグやテレポートに必須の属性じゃな。更に未確認ながら時間属性なるものの存在も予測されておる。時間遡行という夢の魔法をいつか誰かが使えるようになるやも知れぬ。このように、魔力や属性には夢が溢れておるのじゃ」
「先生質問いいか?」
「うむ、おぬしは?」
「フィリオン・ダイシークだ。先生の魔力量と属性はどれくらいなんだ?」
「わらわの魔力偏差値は149.5じゃ」
「ええええええっ!」
教室内がざわめく。149.5という偏差値はおそらく人が持ちうる魔力の最大値だ。
「属性はもちろん全属性。全ての魔法を使いこなせなければ大魔女とは呼ばれぬからのう」
「思い出した……神聖ロリコニア王国の史上最強の大魔女ロリィターニアって先生のことだったのか!」
「ほほっ。よく知っておるではないか。おぬしには+1ポイント付けて進ぜよう」
「齢100を超えるロリババアとも呼ばれていて……」
「むっ! 減点。-5ポイントじゃな」
「うわあああぁっ! オレはまた余計なことを口走ってしまった」
フィリオン・ダイシークは頭を抱えて机に突っ伏した。
* * *
放課後スカーレットは二人の生徒とともに学内礼拝堂を訪れた。
「おう、来たか。さっそく始めるのじゃ」
礼拝堂の女神像の前の祭壇には二つ魔道具が置かれてある。
最初に検査を受けるのはイエローブロンドの美少女だ。
「ロリーナ・リオスバルトです。よろしくお願いいたします」
「うむ。伯爵家の養女じゃな。どんな結果が出るか見ものじゃのう。右手を赤い魔道具に、左手を青い魔道具に乗せるのじゃ」
言われた通りロリーナは両手を魔道具に乗せた。
「魔力偏差値は19.99……。属性は無し……。魔力はあるが属性は無いとは珍しいのう。むむ……。これは……」
ロリィターニア先生は眉間に皺を寄せて魔道具を見つめる。
「そなた、スキル持ちじゃな?」
「はい、スキル持ちです。それから魔力コントロールが得意です」
「なるほど納得じゃ。精緻な魔力コントロールは大雑把な攻撃魔法に勝ると言われておる。そなたなかなか面白いのう」
「先生、スキルとは何ですの?」
もうひとりの蒼い髪の生徒が質問した。
「スキルというのは魔力の有無に関係なく発動できる特殊能力のことじゃよ」
「なっ! そんなのアリですの?」
「アリなのじゃよ。そこが魔法界隈の面白いところじゃな。さて次はそなたかのう?」
「ジョアン・ヴァーリィ・ハインリーネですわ」
「ハインリーネは侯爵家であろう? 測定と検査はせなんだったのか?」
「測定不能だったのですわ」
「それはまた……」
ロリィターニア先生はくっくっと肩を揺らした。
「わらわの作った魔道具に測定できぬものはない。さあ手を乗せるがよい」
ジョアンが魔道具に手を乗せると眩しいほどの光が迸った。
「おおっ! これはっ!」
ロリィターニア先生の目がらんらんと輝く。
「魔力偏差値は109.99、属性は炎……いや煉獄じゃ!」
「煉獄? そんな属性がありますの?」
「一般にはまだ知られておらぬが炎の上位属性じゃよ。そなたの煉獄魔法は竜のブレスにも匹敵するであろう」
「まあっ!」
「そういえば、ハインリーネ侯爵家には竜の血が流れておるのじゃったな。おそらく先祖返りなのじゃろう」
ジョアンは嬉しそうに祭壇から降りてきた。入れ替わりでスカーレットが祭壇に上る。
「スカーレット・ディセンバーです、よろしくお願いします」
「ディセンバー? 記憶にないのう……」
「うう……、貧乏男爵家ですみません」
「気にすることは無い。魔法に貴賤は関係ないからのう。さあ手を乗せるのじゃ」
魔道具に手をのせると白く淡い光に包まれた。
「うむ。魔力偏差値は99.99、属性は聖、そして空間じゃな。そなたは聖女に匹敵、いやそれ以上の潜在能力を持っておる。今年の新入生は粒ぞろいじゃのう」
「ありがとうございました!」
測定検査を終え三人の学生たちは礼拝堂を出て寮に向かった。
* * *
廊下を歩いていると、前方から見覚えのある殿方がやってきた。
「やあ」
「ごきげんよう、パーマー様」
スカーレットが挨拶を返し他の二人も膝を折り曲げて挨拶を返す。
パーマーの隣には浮かない表情のクラスメート、フィリオン・ダイシークがいた。
「お二人はお知り合いですか?」
「ああ、先ほど廊下の角で知り合ったのだ」
「王子殿下にぶつかっちまってよ、平身低頭謝ってたらなぜかサロンに誘われちまって……」
「君たちも一緒に来るかい。初めての授業の様子をぜひ聞かせてほしいな」
「はい喜んで」
こうして三人の少女と一人の少年が王子殿下と一緒にサロンを訪れる運びとなった。
アーヴェ王立魔法貴族学園です。ほっこり学園ではありませんよ。