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かみのかみ  作者: 八花月
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005

 これは完全に意想外の結果であった。僕はオーナーのマンガ好きなどを考慮に入れ、貴重な古いマンガ本が所蔵されているのではないかと思っていたのだ。


 もちろんそれだけが行動の動機というわけでもなく、単純な好奇心も大きかった。ただ、少しだけ興奮が萎んでいったのも事実だ。


 僕は近くの和綴じ本の一つを手に取ってみた。


 ちょっと力を入れると何かのはずみで崩れてしまいそうに感じる。本、紙を構成している物質がほろほろと解けてしまいそうだ。


 表紙の字は崩し字で読めない。中もご同様で内容はさっぱりわからなかった。


 しかし日本語なのにここまで読めないとは……日本語? なのか? 本当に。


 僕は不意に、背中に冷たい電流が走ったように感じた。


 この形……形は、一つで何かを表しているように思える。いや、まあ、漢字であればそういうものなのだが、一つ一つが何かの名前でそれを延々と並べているように見えたのだ。


 かといって、目録のようなものとも思えず……。


 あ、そうか。僕は一人で合点がいった。これはおそらく署名のようなものではないか。


 ちょうど、あの連判状のように契約者たちの名前をこのように書き記したのであろう。


 誰のどのような契約かはまるで見当もつかないが。


 僕は他の物も手に取って中を検めてみた。


 どれもだいたい似たようなものだ。得体の知れぬ文字が、奇怪な虫達の行進のように書き連ねてある。


「ん?」


 頁を繰る手が止まる。唐突に文字ののたくりが停止し、頁はいっぱいに絵が描かれるようになった。


『これは……契約に関係があるのか?』 


 古書にはおぞましい怪物たちの図が四方八方に書き散らされている。大きいのもあれば小さいのもあった。


 人間の身体、動物、魚虫等、身体をつぎはぎしたようなもの。


 見たこともない、奇怪な不定形の物の怪。何頁も何頁も、止むことなく薄青い古紙にぬばたまの暗黒で塗りこめられている。


 読み進めていると、異様な迫力と、眩暈を引き起こすような描画者の念が僕の脳髄に迫って来た。


 これ以上はちょっと。今はいい。僕は本を閉じ、そっと平積みの棚に戻した。


 ……強いて思い出そうとしたわけではないのだが、まだ瞼の裏におぞましい影が焼き付いている。


 僕は頭を振ってどんよりした重い空気を払いやった。


 インパクトは非常に強いのだが、しかしお世辞にも写実的とはいえない絵である。


 デフォルメが効いていて……そう、ちょうどマンガのような印象だ。


 いつくらいに描かれたものなのだろう?


 恐怖の故の自然な精神の防衛反応なのか、僕の思考はちょうど明後日の方に向きかけていた。

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