ep6 ほとんどを思い出した!?
「よく生きていてくれた。ロニー君」
あれから俺達は、橋を経由し、無事にアードラント王国に入国する事ができた。
さすがに、橋の前に控えていた兵による身体検査……別の惑星由来の寄生虫との戦争中なので当たり前だが……とにかくそれを受ける事になったものの、異常なしと診断され、俺はこうしてルシエ様の父であるエルベ陛下に謁見していた。
場所は王城じゃない。
もう既に、戦争の直前……俺の生まれた国を潰さんと進軍しかけていたところであったため、陛下はとっくに城外に出ていた。
ちなみにルシエ様の母や姉はこの場にいない。
どうやら国民と共に城内に避難しているらしい。
それからルシエ様とモンジロウは、兵士に呼ばれたためここにはいない。
ついでに言わせてもらえれば。
陛下はこれから、俺の生まれた国を潰す予定であるため……俺を普通に君付けで呼んでいる。
今までは、普通に貴族としての呼称で呼ばれるか様付けであったから……とても新鮮な気持ちになった。
しかしだからと言って、陛下は俺を下に見ていない。
彼はあくまでも、俺を難民として、護るべき存在の一人と見なして……偉ぶる素振りなど一切見せずに向き合ってくれている。
「ウチの諜報部隊が持ち帰った情報によれば、君がいた国は九割以上あの寄生虫共に制圧されていたが、それでも普通の人間がまだいるから、ルシエ達を斥候も兼ね向かわせたのだが……君も無事で良かった。そうそう。ルシエ達は君の他にも、君のいた国の民を十四人も救出した。他は、もう…………」
陛下の言いたい事は、すぐに察した。
おそらく、もう…………あの国にマトモな人間はいないのだと。
ついでに言えば、最後まで俺に非常識な事をしでかしたレニーや、そのレニーの味方しかしなかった連中もが、あの寄生虫共の宿主になったのだと。
だがしかし、同時に……疑問も残る。
そんな状況の中で、なぜ俺は寄生されなかったのかと。
「さて、ワケが分からん事だらけだろうから順を追って説明しようか。ユミール、彼に説明してあげなさい」
「ハッ」
陛下の指示で一人の女性が現れる。
軍服を着ている金髪碧眼の女性だ。
彼女――ユミールは手に持った書類を読みながら俺に説明する。
「十四年前、我が軍が開発した最新の魔力レーダーが、高高度――空の彼方に未知の魔力波長を持つ存在がいるのを感知しました」
魔力とは、この世に存在する全てが持つエネルギーである。
しかしそれを、俺達現代人はうまい具合に利用できない。
大昔――10000年以上前にこの世に存在した超古代文明人は、彼らが遺した壁画に書かれた古代文字によると、うまい具合に体内で練り込み、特定の自然現象を意図的に発生させたりできる魔法が使えたらしいが……その利用する技術が長い年月の中でほとんど失伝してしまったため、使えないのだ。
けれど俺達現代人はその代わり、なんとか伝えられた技術を基に、その魔力を感知する……つまり、超古代文明人が言うところの感知魔法を再現する魔道具を開発する事に成功した。
そして、その魔道具の一つである魔力レーダーが……空の彼方にいた、何者かの気配を感知したのならば。
「まさか、それが……今回の敵??」
というか、十四年前?
俺とその家族が大規模流星群を見に行った年じゃ…………ッ!?!?
すると、その時だった。
俺の脳裏を再び……何かが過る。
「そしてその未知の魔力波長のある存在は……軌道計算によればこの惑星から遠く離れた別の銀河の方から飛来した事が判明しました」
そう言うなり、ユミールは見ていた書類を俺に見せた。
そこには今回の敵――この惑星の外からやってきた悍ましい寄生虫の放つ魔力波長の波形のデータや、その寄生虫がやってきた方向、さらには推定落下地点までも記されていて…………そしてその推定落下地点は。
俺が生まれた国の…………大規模流星群を見た辺りだった。
「そしてこの存在の正体を探るため、私を始めとするアードラント王国の諜報部隊はあなたの国へと観光という形で入国し調査を始めました。すると驚くべき事に、あなたの兄を中心におかしな出来事が起こっている事を突き止めました」
そして、その事実を知らされた直後。
俺の脳裏を、またしても何かが過った。
※
それは、俺がルシエ様と別れた後の場面。
レニーと両親、そして使用人と共に流星群を見ていた場面。
流星群が見えて、俺を含めた多くの人が歓声を上げる。
多くの人が集まりその場がすし詰め状態にされていたため、不快に思ったりしたけれど、その時は……貴重な流星群を見れて俺は満足していた。
おそらくレニーと両親、そして使用人もそうだっただろう。
だけどそんな喜びは…………ある瞬間から、困惑に変わった。
流星群が降り出して、二分くらい経った頃だろうか。
その流星群の内のいくつかが、地上へと落下しているのを俺は見た。
すると、俺と同じくそれが見えたのか。
一部の人達も、なんだか凄く慌て出して。
そして逃げようとしたものの、すし詰め状態だから逃げられず。
いやそれ以前に、それが見えていない人が多かったのでほとんどの人が動けず。
そしてその、いくつかの内の一つ…………凄い小さな流星がレニーの額へと突き刺さり、その額にそのまま吸い込まれるように入り込んだのを俺は見た。
そう、突き刺さったのだ。
けれど奇妙な事に、レニーの額から血は出ず。
それどころか、空高くから墜ちて威力が上がっているハズなのに、そんな小さな流星を受けてもレニーは、驚いた表情をしながらも平然としていて。
その直後。
俺は悪夢を見た。
レニーが口をガバッと開けた。
いったいレニーが何をしているのか。
流星が突き刺さった事もありワケが分からず俺は…………ついでに言えば、周囲の人が何も言わないから何も言えなくて。
一瞬遅れて、そのレニーの口から、何か――まるで、虫の口のようなモノが飛び出したのに気付いて…………。
その口は、紫色の霧のようなモノを噴出した。
俺の記憶は、そこで途切れる。
そして次に目を開けた時……俺を待っていたのは、流星群がその額を貫く前とは明らかに性格が変わった……より正確に言えば、俺の大切なモノを奪うような性格となったレニーだった。
※
思い出した瞬間、俺は愕然とした。
なぜ今まで、こんな重要な情報を……レニーが全ての始まりであった事を忘れていたのか、まったく理解できない。
「そして、そのあなたの兄を監視していて撮ったのがこの写真です」
現実に戻ってきた俺に、ユミールは数枚の写真を見せた。
そしてその写真に写るモノを見て……俺は驚愕のあまり腰を抜かして、その場に座ってしまった。
「…………ん…………だ、これ……………………?」
それらに写っていたのは、レニー……そして多くの女性。
令嬢だけではない。
写真によっては、服装からして明らかに……平民や聖職者、さらには王族の女性と思われる人物も写っている。
そしてそれらの女性は、レニーの口から現れた第二の口……虫の口のようなモノから垂れる何かを懸命に舐めていた。
さらに言えば、その女性達…………よく見れば、俺のかつての婚約者達や俺以外の令息の婚約者も含まれるその女性達は全員――。
――腹と胸部の三ヶ所を、同じくらい大きく膨らませていた。
吐くよりも先に、腰を抜かすほどの衝撃を覚える写真だ。
けれど、だからと言って吐き気を覚えないワケではない。
俺は思わず、その場で口を押さえた。
すると兵士の一人が、俺に桶を渡してきたので…………俺は遠慮なく吐いた。
同時に俺は、ほとんどの線が頭の中で一本に繋がったのを感じた。
相手が寄生虫ならば。
おそらく、その宿主たるレニーが侍らせている女性達は……そんなヤツの同種を増殖させるための存在だろう。
そして、その女性の腹と胸部が同じくらい膨らんでいるのは。
その、レニーに寄生した存在の卵……しかも三つが体内にあるからだろう。