ep3 来た理由が物騒だった!?
「元気にしていましたか? というか……改めて自己紹介をした方がいいでしょうか?」
俺がひとしきり泣いて、落ち着きを取り戻し、体を離した時。
俺を抱き締め返してくれた彼女は……笑顔を浮かべつつ俺に訊ねた。
と同時に、俺は……彼女の名前を知っているような。
というか、ついさっき聞いたような気がしたが……女性の名前を間違えてしまうという失態を犯してはいけないため改めて「教えてくださると助かります」と告げ……………………そこで待ったをかけた。
「あぁすみません。俺から名乗るべきですね。俺の名前はロニー。ロレンツァ王国の――」
「もうそのような仰々しい自己紹介は不要です」
しかし、俺の自己紹介は……真剣な顔をした彼女によって止められた。
いったいなんで、そんな事を……しかも真剣な表情で彼女が言うのか、俺は一瞬分からず、頭上に疑問符をいくつも浮かべた。
「なぜなら私は――この国を消しに来たのだから」
すると、その直後。
目の前の女性はトンデモない事を告げた。
その衝撃的過ぎる発言の意味が、頭の中で繋がらない。
ついでに言えば、あり得なさ過ぎるから……レニーの言動以上に混乱する。
「分かっています。順を追って説明した方がいいですよね」
すると目の前の女性は、そんな俺の心情を察したのか。
一度深呼吸をして、俺に対してカーテシーを決めつつ告げた。
「改めて自己紹介しますね。私の名前はルシエ=アードラント。この国の隣にあるアードラント王国の第二王女です」
「あ、アードラントの……第二王女!?」
その自己紹介を聞いた瞬間、俺は目を丸くした。
アードラントといえば、この国と同じくらいの面積の国家ではあるものの、この国よりも多くの国と親交を深めており、その影響で今一番国際化が進んでいる……なんてある雑誌で言われている国だ。
「ちなみに、こちらは私の護衛のモンジロウ。東方の国の剣士です」
「…………以後、よろしく」
「え、あ、はい……よろし、く……」
続いて王女殿下の護衛が紹介され、俺は反射的に挨拶を……したのだが。
なんというか、このモンジロウという男。
名前からして、そして俺達とはタイプが違う服や、少々反り曲がった刀剣という特殊な武器を身に着けているところからして、確かに東方の国の出身者であろう。
それはいい。
別に、いいんだ。
だけど、その彼の視線……物凄く鋭いッッッッ!?!?!?
というか声!!
なんか怒気が含まれてるような感じだったぞ!!?
怖くて思わずどもってしまったじゃないか。
というかこの人どちらかと言うと護衛というより殺し屋では!?
「そ、それで……え、王女殿下が…………この国を消しに来た???? そ、それはいったいどういう……ッ!? ま、まさかこの国に戦争を仕掛けに!?」
「そうだとも言えるし、そうではないとも言えます」
しかし今はそんな事で怖がっている場合ではない。
それよりも、俺が小さい頃にも出会っていた王女殿下が、この国を消そうとしている……その真意を聞かなければ。
しかし返されたのは、ワケが分からない台詞。
そして、またしても混乱した俺を見た彼女――ルシエ様は、改めて真剣な表情をしながら、今度は俺にこう言った。
「実はこの国の、国民のほとんどがもう純粋な人間ではないのです」
※
――機は熟した。
男は確信した。
自分の周りに集まる多くの男女を眺めながら。
男は、幼少時から既に計画を進めていた。
より正確に言えば、あの夜――大規模な流星群を眺めていた時から。
最初は、なぜ自分にこの能力が備わったのか、まるで分らなかったが……しかし今はそんな自分の能力の全てを、そして自分の存在理由を理解し。
そして、全てを統べれる地位を手に入れていた。
だがしかし、だからと言って全てがうまくいったワケではない。
(それにしても、なぜロニーには効果が薄かった????)
男――レニーはふと、思う。
しかしすぐに、そんな事を考えている場合ではないと考え直す。
(そうだ、俺は…………この惑星を支配しなければいけない)
己に課せられた、その使命が脳裏を過ったために。
そして続けてレニーは、自分の周りに集まった者達の一部へと向けて、まず最初に“とある指示”を出した。
「それじゃあ、まず初めに命じる…………喰らい尽くせ」
※
「い、いったいどういう……?」
ルシエ様の言った事はこれまたワケが分からない内容だった。
純粋な人間がこの国には、いない……? じゃあいったい何がいると……?
「はい。実はこの国には――」
「ッッッッ!? ルシエ様、それからレニー様、すぐにこの場を離れましょう」
そして、ついにこの国の現状が語られる……と思われたその時だった。
モンジロウが急に、さらに視線を鋭くしながら周囲を見回し、俺達にそう言ってきた。
「ッ!? まさか、もう相手は動いたのですか?」
「いえ、方向こそ違います……ですが時間の問題です。急ぎましょう」
「仕方ありません」
モンジロウの……俺にはサッパリ分からない言葉を聞くなり、ルシエ様はすぐに俺の手を掴んだ。
「私達と共にアードラント王国まで来てください。すぐにここを離れなければいけません」
「え、急にそんな…………………………わ、分かりました」
一体全体、何が起こっているのか未だに分からない。
しかし、かつて俺を助けてくれた王女殿下……おそらくあの時は、お忍びで流星群を見に来たであろう彼女が、再び手を握ってきたのだ。
さらに言えば、真剣な顔をしているのだ。
何度も言うように事情は知らない。
だけど彼女のその行動だけで、どれだけ大変な事がこの国で起きているのか……それを嫌でも理解した。
「あなたを……いえ、あなたを始めとする、今までこの国から脱出させた者達も、失うワケにはいきません」
俺が応じるや否や、ルシエ様は小声でそう言った。
俺に向けられた言葉なのか、それとも自分に向けられた言葉なのか。
それは分からない。
だけど、その言葉を聞くなり……亡命者の存在を知るなり……俺は、それだけ重大な出来事がこの国で起きているのだと、改めて理解した……次の瞬間だった。
浮遊感が、俺を襲った。
いったい何が俺の身に起きたのか。
またしてもワケが分からず困惑した……その瞬間。
俺はルシエ様にお姫様抱っこをされていた。
しかもそのまま彼女は……なんとモンジロウと並走した!?!?!?
連続して、理解不能な出来事が起きて。
俺の頭はもう、パンクする寸前にまで追い込まれていた。
ま、まさかルシエ様が……男を抱きかかえられるほどの剛力だったとは!!
「言い忘れてましたが」
すると、俺の困惑を察したのか。
モンジロウがルシエ様と並走しながら告げた。
「ルシエ様は俺の上官でもあるアードラント王国の戦士長の一人です」
「…………なんだって……?」
な、なるほど。
それなりの実力者なのか。
そして、そうなるためにこなした訓練などを考えると……男一人を軽々とお姫様だっこするくらい楽しょ――。
しかし、その事を考えている暇はもうなかった。
俺達が来た方向から……無数の“何か”がやってきたからだ。