第129話 お宝探索
ケットシーのノラとネコマタの客引き勝負は、ネコマタの勝ち。私は売り上げが良くて、とっても幸せよ。
「ネコマタさん、いつでもうちにバイトに来てね」
「私は高いわよ」
「訂正します。また客を連れて買いものに来てね!」
猫価格では雇えないようだ。ネコマタは何年も修行して人に化けられるようになるものだからね、その分お高いのかも。今回はバイト代を請求されることもなく、ネコマタは勝利の余韻に浸って帰っていった。
「がんばったのににゃあ……」
「ネコマタさんは僕に商品について、しっかり質問していたんだよ。ノラももっと商品に詳しくなって、上手に宣伝できるようにならないとね」
「わかった。店員の道は険しいのね」
バートに諭され、納得したみたい。ノラがお勧め上手になったら最強だな。頑張ってもらいたいわね。
儲かったのでいつもより多くお駄賃を渡し、二匹が帰った後は豪華にステーキを食べに行った。へへへ、このまま売り上げが伸びていきますように。
前日の賑やかさが嘘のように、翌日は店内がとても静か。客入りが良かったからか、女神像には小銭やお菓子が多く置かれていた。小銭は回収、お菓子はちょっとずつ食べる。ブリージダ様の信徒で良かった!
本日も私のおやつを、ありがとうございます。女神様に感謝を捧げます。
紙に包まれた一粒のチョコレートを食べていると、パカラツパカパカと蹄の音が聞こえた。続いて扉が開く。
覚えたわよ、ケンタウロスね。予想通りの半人半馬が姿を見せる。
「新しく仕入れたものはあるか?」
「琥珀製品とか小さい絵とか、ボチボチあるわよ」
昨日のうちに半分以上も売れちゃったんだけどね。ケンタウロスは琥珀製品を見ると、全て手に取った。
「素晴らしい! 全部買うよ」
「おありがとうございまする~!!!」
全部だって、全部だって! ケンタウロスが琥珀が好きだとは知らなかったわ。持ちにくいだろうから、袋はサービスよ。持ちきれないなんて置いて行かれても困るからね。
計算している間、ケンタウロスがそういえば、と思い出したように問いかけてきた。
「広場で騒いでいたが……何かあったのか?」
「隣のシェラルシエ王国で大きい地震があって、支援物資を集めてるのよ。ところが隣国とは以前戦争していたから、反対派も集まってるの」
「地震か、それは大変だな。こちらからも医師を一人派遣しよう。ここに来るように言っておく、今日中には来られるはずだ」
「ここに来られても困るんだけど」
お店に来てどうするつもりだ。私は隣国だから隣にある国だ、くらいの知識しかないぞ。この近辺の地理なんぞ全く知らん。
ケンタウロスは代金を支払うと、よろしくといって去っていった。
よろしくされても困るんだってば。
その後はなかなか客が入らず、お昼にパンをかじってお茶を飲んだ。仕入れを考えないとなあ。
「こんちはー」
「ちわー」
スラムの緑髪の兄妹だわ。買いものはしないけど、たまに遊びに来るのよね。
「おーう、儲かりまっか?」
「儲かんないよ」
ぼちぼちでんな~と返ってこない。仕方ないか、スラムの子供だもんなあ。
「売れてんの? あ、商品少ないね」
二人は店内を見回し、スラムの人たちが製作したものを数えていた。足りないって、先生に伝えてくれるのかな。
「いやあ昨日さ、猫がお客の呼び込みやってくれてね。いい売り上げだったわよ」
「猫にやらせるの? おねえちゃん……」
妹が呆れた表情をする。猫だからこそ売り上げが良かったんだと思うぞ。
「売れれば正義が商売よ。お茶飲む? 出がらしくらいなら淹れたるで」
「姉ちゃんらしいなあ。出がらしはいいよ、うまくないもん。それよりさ、これからオレたち高級住宅街のゴミ置場に、イスを探しにいくんだ。使ってんのが壊れたから。姉ちゃんも行くか?」
「行く行く!」
お宝探し! わあい、楽しみ。商品になるのがあるといいな。
私はさっさとお店を閉めて、緑髪ズの後ろを歩いた。スラムの子供なので、服は薄汚れて破れているところもある。時々嫌な視線を向けるのもいるわ。
高級住宅街に近づくと通行人が減り、代わりに個人所有の馬車が通りすぎる。門の前を掃くのは使用人だ。門番が立つ家は、それだけお金が余ってるのよね。チョキチョキと庭木の手入れをする軽快な刃物の音が聞こえる。
結局シメオンの家がどこか教えてもらえないんだよなあ。この辺りにあるのかしら。
「ここだよ」
考えごとをしているうちに、目的のゴミ置場に到着した。高級住宅街の外れにあり、高い塀に囲まれて内部は見えない。何か燃やす太い煙から、焦げた匂いがしていた。
男の子は慣れた手付きで黒い門を横に引き、重そうにしながら開けた。
「おー、今日は女性連れか」
「オレはイスをもらいにきたんだ。使えるの、ある?」
声をかけてきたのが、ここの管理人かな? 作業着で軍手をはめて、タオルを首にかけていた。
「あるよ、あの辺りに。なんでも一脚壊れたから一式買い直すって、四脚出してきたぞ。持ってったのがいるけど、一脚なら残ってる」
「やったあ!」
子供たちは目当ての椅子が手に入り、大喜びだ。
まだ使える机、扉の壊れたタンス、ベッドまで捨ててある。なんでもあるなあ。ただ、大きいのは持って帰れないのよね。
まず布類にしよう。カーテンやカーペットは重いから、服とかテーブルクロスとかあるかなあ。
木の屋根と低い囲いがある場所に、布は無造作に重ねられていた。地面にそのまま放置してある。上から取ればいいやね。
「おねえちゃん、服を持っていくの?」
「ドレスとかばっかりだから、服はあんまり売れそうにないわよね。なるべく地味なのと、ショールとかそういう布を探して再利用したいわ」
「わたしも探す~。手触りがいいし、キレイな布だよねえ。こんな布で作った服を着たいなあ。お母さん、作ってくれるかしら」
布を広げて眺めている。可愛いオレンジ色で、サラサラとした柔らかい生地のストールだ。
「持ってってみれば? 私の分もよろしく、他のお宝を探してくるわ」
「任せて!」
布は確保できたぞ。私は壊れた家具のエリアに向かった。タンスの取っ手までカッチョいいな。
さすがにタンスは持てないので、扉を開けて裏側を見た。取っ手はネジを通して、このカバーみたいなので裏から止めてあるのね。外せる外せる。取っ手を外していただき、小さな引き出しを一つだけ引き抜き、そこに入れる。
タンスの中身は空になっていた。ここの人が確認済みかぁ。
次に解体中のエリアで、箱にまとめてある釘からまだ使えそうなのを選んで引き出しに入れた。
「危ないから近寄らないで。解体作業の邪魔はしないでくれよ」
「ほいよい」
作業員に注意されたので、少し離れる。今は棚をバラしている最中よ。
先に解体した棚の、棚板を何枚かもらおう。家具が欲しい時は、台車どころか荷馬車が必要だなあ。
まだ持てるので、そのままで売れそうなものを探す。絵まで捨ててあるじゃん。
「あの絵もいらないの?」
「ああ、いいヤツは先に美術商が買い取ってるからな。価値がないって判断された絵だよ」
「ほったら、もらうわ」
安くたって元手が無料なら利益になる。額に入った絵を、そのままもらった。三枚でもかさばるな。人の手って以外と持てないのよね……。片手に棚板を抱え、もう片手に絵画。引き出しが持てん。
困っていたら男の子がやってきて、戦利品の椅子の、座る部分に置いた。
「運んでやるよ」
「サンキュー、助かったわ」
「こっちもたくさん選んだよ~!」
妹も満面の笑みで布をたくさん抱えていた。うひょう本当にお宝の山!
模様替えがあると、壊れていない家具まで捨てられるそうだ。たまに覗かないといけないな。
「じゃ、おっちゃん。ありがと、またな!」
「おうよ、こっちも減ると楽だからな。またおいで」
ほっくほくの気分で家へ帰る。さすがに重いので、途中で休憩を挟みながら。荷物持ちか、運ぶ道具が必要だわ。
やっとお店に着いたら、お店の前に誰か立ち、中の様子を覗いている。騎士が数人、それからあれは……。
「おやシャロン、お帰りですか? その子供だちと荷物は?」
ぎゃあああ! 出た妖怪、じゃなくて、ヨアキム様が……!!!
覗いていたのは猫好き聖騎士エルナンドだわ、案内してきたのか……!
「姉ちゃん知り合い?」
男の子が見上げる。知りたくない知り合いです。
「プレパナロス自治国の七聖人、ヨアキム様よ……」
「え、すげええ! 聖人様だって!」
「シャロン、ヨアキム様がお話があるそうだ。早く開けろ」
エルナンドめ、ヨアキム様の威光で威張りおって。言われなくても開けるわ、荷物持てよコラ。
「分かってるわよ。荷物はお店の中に置いて」
「はーい」
手が塞がっているので、いったん棚板と絵画を地面に置いた。鍵を開けたらまず子供たちが荷物を店に置き、女神様像の前にあるお菓子を駄賃として二人に分けてる。喜んで帰ったあと、私の荷物も運び入れ、ヨアキム様がゆっくりと足を踏み入れた。
ううううぐぐ、悪い予感しかしない……。女神様女神様、タダ働きになりませんように。




