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第117話 婚約破棄騒動の結末

「僕は以前から、リパモンティ子爵令嬢から相談を受けていたんだ」

 伯爵家を告発するとのたまったジョバンニ・グラッビ伯爵令息が、リパモンチッチの名前を出した。これは騙されている予感。

 ちなみにモンキーサマンサ令嬢本人は、パーティーに参加していない。留置所で取り調べ中なのだ。まだ事件は公表されていないから、子爵家が捜査されているのは知らないのかな。

 失笑する姿がチラホラあるので、情報通はお見通しらしい。治安維持部隊や聖騎士が動いたとだけは噂になっているから、真相はともかく大きな問題があったのは知れ渡っているよ。


「……サマンサ様の状況をご存じありませんの?」

「知っているさ。リパモンティ子爵家が、君の母であるチェントリオーネ伯爵夫人に過剰な貢ぎ物を要求されて困り果てていると!」

 子爵夫人は勝手にプレゼントして、それで他の家に威張ってたのよね。よくまあ堂々と虚言を吐けるもんだ。そもそもスケープゴートにするために、仲良くしてたっぽい。

 騙す方も騙す方だが、確かめもせずに信じるコイツも悪いわね。

 モンキーサマンサと付き合いのある人は彼女の人柄を知っているので、ありえねーわと呆れている。


「要求はしていませんわよ」

「相手が強迫に感じているんだ。それに母親の違う妹が聖女で、ねたんで虐めているそうだな!」

「「え???」」

 お姉さんとラウラが顔を見合わせた。一緒にパーティーに参加するくらいには、仲良しさんだぞ。衣装だって薄紫色で揃えているのだ。おかしなデマが飛んだ。観衆には真偽が分からないので、ザワザワとしている。

 ていうか、すぐ隣にいるのに何言ってんの? ラウラと面識がないにしても、見知らぬ令嬢が近くにいたらアレって疑問に思わないかな? 思わないんだな、アホだから。

 これが婚約者だったとは、お姉さんに同情するわ。婚約破棄で縁が切れて、万々歳だね!


「さらに贋作を売って、それをリパモンティ家の仕業にしようとしたらしいな!!!」

 今度は完全にえん罪だわ。仕業なんだよオイ。リパモンチッチはこのアホを仲間に引き入れて、どうするつもりだったやら。

「……シメオンさん、これは何の遊びなの? 貴族の優雅な推理ごっこ?」

「……タイミングからして、彼らの予定ではチェントリオーネ伯爵の自白と同時期に告発をさせ、大衆の目をそちらに向ける予定だったのではないか。さらに信憑性を高めて同情を買い、国外脱出の協力者でも得ようとしたか」

 軍師シメオンの見解がべられた。なるほど、新聞報道だけよりも婚約者の告発がある方が、ぐんと真実味が湧いてくる。

 しかし、既に頓挫とんざしている計画を進めてしまうとは。愚かよのう。


「……お姉さんは私に、とても良くしてくださっています。言いがかりはやめてください、今回の件は自治国から正式に抗議させていただきます!!!」

 珍しくラウラが怒鳴ったわ。ラウラは自分よりも、仲のいい人を貶された方が怒るから。

 話を信じそうになっていた一部の人が、ラウラの否定で静かになった。抗議されたくないもんね。多数の聖女を擁するプレパナロス自治国は、国土は小さくとも影響力は強いのだ。

「え、いや、その、僕は聖女様を心配して……」

「聖女様を心配して……我が家のパーティーで婚約破棄を、わざわざするのかしら?」

 カツカツとヒールの音がホールに響く。青い髪が背中で揺れている。主催しているロザーティ侯爵家のご令嬢、ダニエラの瞳が燃え上がっていた。


「ロザーティ侯爵令嬢、僕はみんなに真実を知ってもらおうと……」

「虚言の真実だなんて、おかしなことをおっしゃるのね! お前、我が家のパーティーを台無しにして、のうのうと暮らせると思うんじゃないわよ……?」

 閉じた扇子でジョバンニの顎を捕える。ジョバンニはダニエラの怒りに、ただただうろたえていた。顔色が白くなって震えている。

「も、申し訳ない! 場所を移して、テレーザと話を」

「婚約を破棄なさるのでしょう、異存はありません。話も一文字もありません」

 キッパリと拒否するお姉さん。ジョバンニのすがるような眼差しを、お姉さんは睨み返した。


「そんな、テレーザ……」

「あら、婚約破棄をしたならテレーザさんとお前はもう他人ですわよ。名前で呼ぶなんて、図々しい! 私の友達を傷つけた報いを受けさせるから、覚悟をしておくことね。この男をつまみ出しなさい!!!」

「待ってください、本当に悪気はなかったんです! テレーザ、取りなしてくれ! テレーザ!!!」

 ダニエラの命令で、侯爵家の兵が動く。ジョバンニ・グラッビは両側から挟まれて腕を捕まれ、叫びながら引き摺られるように退場した。

 グッバイ、永遠に。


 みんな困惑の表情でザワザワとして、パーティーの雰囲気は最悪になっちまった。

 私はパンパンと大きく拍手をした。

「ほほほほほ、なかなか面白い見世物でしたわ~。さすが侯爵家、毅然とした対応で素晴らしいですわ~」

 淑女らしく雰囲気を変えるべし。気遣いのシャロンちゃんよ。

「誰も怪我をしたわけでもないし、結果オーライよね」

「婚約破棄の現場なんて、普通は見られないしな! 得したと思おう」

「結局、贋作ってなんの話だったのかしら?」

 噂話が前向きなものに変わりつつある。そんな時。ホールの中央に、黒い小さな塊が飛び込んだ。カウボーイハットを被ったそれは、猫。


「やあ、静かなダンスパーティーだね。ボクの踊りで盛り上げてあげるよ! さあ、音楽スタート!」

 カウボーイハットをクイッと上げて、楽団に肉球を向ける。

 ケットシー紳士のアークだ。置いてきたのに、いつの間に紛れ込んだのやら。

 不穏な空気を明るい音楽で叩き、アークがくるりと回って片手を胸に当て、もう片手を水平に上げてお辞儀をする。アークダンスの始まりだ。

 人々は喜んで手拍子をし、足を動かして一緒に踊る。

 アークに主役を奪われてしまった! ぐうぅ、猫強いな。踊るアークに、一匹の白猫が二本足で歩いて近寄る。首には水色のリボンをしていた。


「ステキな紳士様ね」

「君も踊ろう!」

 ハイタッチをして二匹が踊る。尻尾をゆらゆら、スキップに似たステップでヒゲが跳ねる。

「マーガレット、話せたの!??」

 ダニエラ・ロザーティ侯爵令嬢の飼い猫だった。ケットシーだと知らなかったみたい、猫が喋って驚いてるわ。

「話せるわよ、ケットシーだもの。あなたがいつもテレーザさんを心配して、手紙を書いては棄てているのも知ってるわよ」

「や、やめてちょうだい! そんなんじゃないわよ!!!」

 ダニエラは顔を赤くして、そっぽを向いてしまった。恥ずかしがり屋だなあ。


 周囲もほんわかとした雰囲気になり、猫につられてなのか、ペアになってダンスのステップを踏む。

 私は猫の踊りを横目に、テーブルに並んだ料理の全種類制覇を目指す。ラウラは聖女様だと囲まれて、口々に話しかけられて困っていた。ヴァルフレードとシメオンが対処しているよ。

「……山ざる。あなた、ラウラさんのシャペロン役で参加しているんでしょう。一人で食べていないで、ラウラさんを助けなさい」

「お姉さん、食べものが目の前にあるのに食べないのは、お腹がいっぱいの人だけですよ。それとラウラは聖女ですから、囲まれるのは慣れてます。みなさまの信仰が女神ブリージダ様に届きますように。ブルスケッタとトマトって最高の組み合わせですね、私は生ハムも好きです」


「……はあ、あなたに期待しても無駄ね」

 こめかみに指を当て、ため息を吐くお姉さん。ラウラは困りつつも、一人一人丁寧に対応しているよ。

「金銭の発生しない期待には、応える義務がないんです」

 わあいお肉お肉。美味しいなあ。パーティーって本当に最高よね。

 ダニエラの怒りをの当たりにしたからか、ジョバンニ・グラッビの話題に触れる人はおらず、まるで何事もなかったように盛況のうちにパーティーの幕は閉じた。

 ジョバンニは治安維持部隊に引き渡され、取り調べを受けている。


 ジョバンニの両親であるグラッビ伯爵夫妻は、パーティーの参加者から息子の所業を知らされ、すぐにロザーティ侯爵家へ謝罪をしに訪れたとか。

 子供がアホだと親も大変ね。

 聖騎士ヴァルフレードからは、神聖証明印を偽造した職人を取り逃がしたとの報告が舞い込んだ。

 聖騎士がアホだと聖女も大変ね、はぁ~!

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