後日談
ラメス国での舞踏会から戻ったエリスとミリスは、それぞれの城で過ごしていました。
エリスは舞踏会以来、ずっと腹を立てていました。
「まったく、私を利用しようとするなんて、とんだ王子だねぇ!」
「エリス様は美しいですから、王子が妻にするという嘘をついたのもわかる気がします」
鏡は淡々と感想を述べます。
「鏡よ、お前は王子の味方をするのかい?」
「いいえ。私は事実を述べただけでございます」
「ふんっ。王子といい、お前といい私の機嫌を損ねるのがうまいものだね」
「ありがとうございます」
「ほめていないよ。あんまり無駄口たたくと粉々にするからね」
エリスがハンマーをちらつかせたので、鏡は黙ることにしました。
「そういえば、あの憎たらしい王子とあの娘はどうなったんだろうねぇ。鏡よ、その2人をうつしな」
エリスは不敵な笑みを浮かべながら鏡をのぞきます。
そこに映っていたのは、アース王子とシャロンが微笑みあっている場面でした。
「はい。そのお2人でしたら、あの後ご結婚されたそうです」
「なに? あの2人は毒で死んだんじゃないのかい!」
「どうやら仮死状態だったらしく、命に別状はなかったようです」
鏡の答えにエリスは歯ぎしりをしました。
「おのれ……私より幸せになるなんて許さないよ! しかし、なぜ2人は死ななかった?」
エリスは考えを巡らせます。そして気づきました。
「ミリスの奴、依頼された品をかえたね。だから2人は死ななかったんだ」
「あぁ、ミリス様はお優しいですからね」
「やかましい! おのれミリス、私の邪魔をしたこと、許さないからねーっ!」
エリスは怒りに任せて、持っていたハンマーを振り回します。
「エリス様、ハンマーを振り回すのはおやめ下さい。私に当たってしまいます」
「きーっ! ミリス、覚えておきなよ!」
「くしゅんっ」
エリスが城の中で叫んでいる時、ミリスはくしゃみをしていました。
「大丈夫ですか、ミリス様」
「平気よ。ちょっと悪寒がしただけだから」
ミリスはいつも通り液体の入ったつぼを回していました。
外から戻ってきたカイは、カバンから新聞を取り出します。
「あら、それどうしたの?」
「買い出しをしていたら、配っていたのでもらってきたんです」
「ふーん。ちょっと見せてちょうだい」
ミリスは少し興味がわき、カイから新聞をもらい目を通します。
そして、少し笑みを浮かべたミリスを見て、カイは首を傾げました。
「どうかしたのですか?」
「ふふっ。あの2人、結婚したそうよ」
「あぁ、ミリス様の毒で仮死状態になったお2人ですね」
新聞には、アース王子とシャロンの結婚の記事が大きく載っていました。
舞踏会のその後、仮死状態になりお互いが大切なことを気づいた2人は結婚しました。
「あ、ミリス様。ここに小さく依頼人の記事もありますよ」
「あら、本当。ちゃんと罰は受けたみたいね」
そこには、リース王子の国外追放の記事が載っていました。
死ななかったとはいえ、毒を盛った事実によりリース王子は追放されたのです。
それを見たミリスは微笑みます。
「よかったわ、誰1人死なずに済んだんですもの」
「でも、とんだ舞踏会でしたね。まさかエリス様もその場にいたとは……」
「そうね。でもこのことを知ったら、きっと激怒すると思うわよ」
ミリスはいたずらな笑みを浮かべます。
予想通り、エリスが怒り狂ってわめき散らしていることをミリスやカイは知りません。
そして、記事の下には小さくこう書かれていました。
お2人の結婚には、2人の魔女が関わっていた、と。
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