薬の依頼
一方、もう1つのお城では魔女ミリスが薬を作っていました。
「ふー。今日はどんな薬を作ろうかしら」
「ミリス様は、本当に薬を作るのが好きなんですね」
ミリスがつぼを混ぜていると、猫族のカイが部屋に入ってきました。
カイは、見た目は16歳くらいの猫耳としっぽが生えた青年です。
「あら、カイ。買い出し終わったのね。おかえりなさい」
「ただいま戻りました。それより、においがすごいんですが、今度はどんな薬を作っているんですか?」
「うーん、それがまだ決まっていないのよ。ベースは出来ているんだけど、これといった決め手がないの」
「……普通何を作るか決めてから作りませんか?」
「それだと面白味がないじゃない。何が出来るかわからないから面白いのよ」
「それだと同じ物が作れないじゃないですか」
「一応メモは取ってあるから大丈夫よ。ぬかりないわ」
ミリスは得意気な顔をして、腰に手をやりました。
「そういう所はきっちりしているんですね……」
カイは呆れながら、買ってきた荷物を机に置きます。
「ミリス様、そろそろ休憩されてはいかがですか。おいしいパンケーキを作りますよ?」
「本当! じゃぁお願いしようかしら」
2人が笑いあっていると、遠くから足音が聞こえてきました。
「あら、こんな森の奥に来客かしら。カイ、念のため猫に変身しておきなさい」
「わかりました」
ミリスに言われて、カイはすぐに猫の姿になります。
それと同時に部屋のドアがノックされました。
「どうぞ、入って下さい」
部屋に入ってきたのは、先ほどエリスの所に来た使者でした。
「はじめまして。私はこの森の近くにある、ラメス国の使者でございます」
「ミリスです。ここへはどのようなご用件で?」
「実は王子からの手紙をお届けに参りました」
使者の男はそう言うと、懐から1通の手紙を取り出し、ミリスに渡します。
「まぁ、王子様が私に?」
「それでは、用件が済みましたので、私はこれで失礼します」
「あぁ、わざわざ届けてもらって、ありがとうございます」
ミリスがお礼を言うと、使者はミリスをじっと見つめます。
「あの、何か?」
「」……いえ、あなたは忠告をされないのですね
「忠告?」
「先ほどエリス様の所に行ってきたのです。そして、帰りには気をつけろと言われました」
「あぁ……それは、あなたがエリスの機嫌を損ねたからですね。でも、今のあなたは無事ですからその後にエリスの機嫌はなおったんでしょうね」
「そうなのですか……」
「よかったですね。安心して国へお帰り下さい」
「……ありがとうございます。では、失礼します」
使者は一礼すると、部屋を出ていきました。
「ふー。カイ、もう元の姿に戻っていいわよ」
「はぁー。黙っているのも疲れますね……」
カイは元の姿に戻り、ミリスの持っている手紙に目をやります。
「それで、その手紙には何が書かれているんですか?」
「あ、そうだったわね。早く中身を見ないと!」
ミリスは中に入っている紙を開いて、目を見開きます。
それを見たカイは、首を傾げました。
「どうかされたのですか?」
「手紙には、王子の妻になる女を殺すための毒がほしい、とあるの」
「毒ですか?! そんなの断らないとダメですよ!」
「そうよね……でも、一応期限は2週間後とあるから、それまでには用意出来るかも……」
「やっぱり作るんですか?」
「大丈夫よ。私に考えがあるから」
ミリスは唇に人さし指を当てて微笑みます。
「……わかりました。僕もお手伝いします」
カイはためらいながらも、ミリスを手伝うことにしました。