私は美しい
むかしむかしある森の奥に、2つの古いお城がありました。
そこには2人の魔女が暮らしており、姉妹でした。
1人は美しく口ごたえする者には容赦がない姉のエリス。
もう1人は、人見知りで薬作りが好きな妹ミリス。
おや? なんだか1つのお城から鼻歌が聞こえてきましたね。
「ふっふっふーん。ふふふっ、今日も見とれてしまうほど美しいねぇ。自分でもうっとりしてしまうよ」
魔女エリスは、全体がうつる鏡を見て微笑んでいました。
すると、鏡が話しだします。
「エリス様、自画自賛がすごいですね」
「おや、本当のことを言って何が悪いんだい?」
「いいえ、エリス様はこの世で1番美しいでございます」
「ふんっ、わかればいいんだよ。それにしても、言い方がなんだか棒読みだった気がするんだが」
「気のせいでございます。私は鏡ですので、感情はございません」
「なら、さっきの言葉も思っていることじゃないんだね」
「……」
「黙るんじゃないよ。ちょっとは今時らしく、私をほめてみな」
「あれエリスちゃん、今日も一段ときれいだね。君の瞳に乾杯」
「なんだかすごく腹が立つねぇ。しかも棒読みなのが余計に腹が立つ」
「一応、エリス様の要望に応えたつもりなのですが……」
「まったく、どこでそんな言葉づかいを覚えたんだろうねぇ」
「ならば、先ほどの私の発言はなかったことにしてもらえませんか」
「なるわけないだろ。あと、私のことをちゃん付けしたこと、忘れていないからね」
そう言われた鏡は内心青ざめました。エリスの顔は笑っていましたが、目は笑っていなかったからです。
エリスたちが話していると、遠くから足音が聞こえてきました。
「おや? こんな森の奥に来客かね。鏡よ、来た者をうつしな」
「はい、エリス様」
鏡は言われた通り、来客をうつしだします。そこには、長身でガタイの良い男が階段を登っていました。
その足音はエリスの部屋の前で止まります。そして、ノックがされました。
「開いているよ、早くお入り」
エリスが促すと、先ほどの男が中に入ってきました。
「こんな森の奥に珍しいねぇ。何か私に用かい?」
エリスの問いかけに、男は懐に手を入れ、そこから1通の手紙を取り出しました。
「はじめまして。私はこの森の近くの国であるラメス国の使者でございます」
「ほぅ。その使者様がなんでこんな所に?」
「実はラメス国の王子からの手紙をお届けに参りました」
「手紙?」
エリスは首を傾げながらも、手紙を受け取ります。
「では、私の仕事は終わりましたのでここで失礼いたします」
男は一礼すると、すぐにドアの方へ歩いていきました。
「ちょっとお待ち。よかったら紅茶でも飲んでいかないかい?」
使者は一度振り返ると、無表情のまま口を開きます。
「私は忙しいですので、失礼ながら帰らせてもらいます」
「そうかい、なら仕方ないねぇ。帰りには気を付けるんだよ」
「……ご忠告感謝いたします」
それだけ言うと使者は出ていきました。エリスはもらった手紙をじっと見つめます。
「エリス様、手紙は読まれないので?」
今まで黙っていた鏡がエリスに問いかけます。
「王子からの手紙だろ。どうせろくなことが書かれていないだろうさ」
エリスは手紙をヒラヒラさせながら笑います。
「ですが、一度目を通されてはいかがですか?」
「鏡がそこまで言うなら、開けてみるかねぇ」
エリスは渋々手紙を開けます。中身を読んだエリスは震えだしました。
「エリス様、どうしたのです。寒いのですか?」
「そんな訳あるかい! これは歓喜の震えだよ!」
「手紙にはなんと書かれていたのですか?」
「私を我が妻にしたいということが書かれていたんだよ。ふふふっ、やっと王子も私の美しさがわかったようだねぇ」
「おめでとうございます、エリス様」
「一応、発表は2週間後の舞踏会の時にすると書いてあるね」
「よかったですね。では、舞踏会に着ていく服を選ばないといけませんね」
「おぉ、そうだねぇ。ふふふっ、2週間後が楽しみだわ!」
エリスはスキップしながら部屋を出ていきました。
「美しいあの方を妻にするとは、どんな王子なのだろう」
鏡は誰もいない部屋で静かに考えました。