「だったら僕が代わりに救いますよ。人間もガチャ娘の低レアも……そのために僕はこの世界に呼ばれたんです!」
「ショウさん、ただいま戻りました」
現在僕達は、例の地下施設へ戻っていた。
そう、この迷宮に入り込んだ魔物に襲われ、僕が毒に侵され、その治療で部屋を勝手に使い、あまつさえ『ここは使えそうだから自分たちの物にしちゃおうよ☆』などという思惑を見事に看破したショウさんが僕達にクエストを依頼してきたからだ。
ノビリン村の近場の森の異変調査。漠然とした依頼内容だったけど、開始してみれば地域一帯の覇権を狙う猿の魔物と、その猿にとにかく成長させてもらっていたスライムの共存で壊滅的な戦力に成長するのを未然に防ぐことができた。
僕達は今回の事件に全力を持って対処した事をショウさんに説明した。
「ほぉ~ん。そりゃあ大変だったなや」
ショウさんは相変わらず、ターバンをまいて顔は布で隠れている。しかし僕の報告をまるで笑い話のように面白がって聞いていた。
「それにしてもや、この依頼は内容が不明確で具体性がまるでなかった。そこまでやらなくてもテキトウな報告で済ます事は出来たはずだべ。なぜそうしなかった?」
ショウさんの顔は隠れているけど、目を細めてニヤニヤしているのは分かった。
「いや、だってショウさんは僕に何かを見つけてほしくてこんな依頼を出したんですよね? 僕達だって罪滅ぼしも兼ねてましたし、少しでも力になれればと思いまして……」
正直、誰かに期待されるのは嫌いじゃない。今までの暮らしで僕に期待する人なんていなかったから。
「それで……今回ここを勝手に使ったのは不問にしていただけるのでしょうか……?」
「ふむぅ。いいぜ、お前は見どころがあるし気に入った。今回の報酬としてここをお前にくれてやんよ」
……え!? くれる!? 貰えるの!?
「えぇ!? この地下施設を僕達に譲ってくれるって意味ですか!?」
「んだ。今回はそれだけ大変な内容だったみてぇだし、そのくらいが妥当だべ。ぶっちゃけ、俺はここ以外にも隠し拠点はいくつもあるから一つくらいやっても問題ねぇんだ」
驚きを通り越して、言葉が出なくなる。これでついに僕達はお金を払って宿屋に泊まる出費が浮くわけだ!
「あ、あの、ありがとうございます! これからも精一杯頑張ります!」
「がっはっは! 若いってのはいいねぇ。期待してるぜ、新人さんよ」
そう言って、ショウさんはここから出て行こうと扉を開ける。そんな彼に僕は最後に言葉を掛けた。
「ショウさん!」
「ん? まだ何かあんのか?」
「ショウさんはまだ、人間の事を見捨てていないんですよね? だからなんだかんだ理由を付けてノビリン村を助けようと依頼した」
「……」
「だったら僕が代わりに救いますよ。人間もガチャ娘の低レアも……そのために僕はこの世界に呼ばれたんです!」
するとショウさんはフッと鼻で笑った。
「いいぜ。期待してっからよぉ、俺の代わりにちゃんとしたヒーローになってみせろや!」
そう言って、ショウさんは連れのガチャ娘と一緒に部屋を出て行った。
「ねぇねぇマスター。あの人の事、なんか分かったの? 随分と意思疎通していたみたいだけど……」
そんなアリシアの疑問に僕の方が面食らってしまう。
「いや……むしろみんなショウさんが何者かまだ分かってないんですか? 最初に合ったときからみんなの事めっちゃ詳しかったじゃないですか……」
「うん。でもそれは彼がガチャ娘マニアだっていってましたから……」
クナも気付いていない。割と頭のいいルミルだけは、何かを察したようにバツが悪そうな顔をしていた。
「いくらガチャ娘マニアだからって今まで一度も冒険に出た事のないアリシアさんやルミルさんの事を知っているのは変でしょう」
「まぁ、それはそうね。私にとって初めてのマスターはマスターだし、噂が広がるほど長い時間旅をしている訳でもないわよね……」
「だとしたら思い当たる人物なんて一人しかいませんよ。俗世と関わりたくなくて、顔を隠して、でもなんだかんだで人間を見捨てる事ができずに陰から依頼をだして助けてくれる人物」
そこまで言ってアリシアとクナはハッとした表情になった。
「おまけにお金に困ってなくて、こんな隠し施設をいくつも持てるガチャ娘を使役できていて、そのガチャ娘もやたら育成マックス感溢れてて、偽名もどこか安直で……」
「分かった! もう分かったから!! ……この世界にガチャ娘を生み出した張本人、召喚士様よね!?」
ほぼ間違いなくそうだと思う。人間に失望してガチャ娘を金で売るようになったって話が数年前らしいから、別に今でもご存命だろうし。
「だから顔も見えないのに会った事あるような懐かしさを感じたんだね……」
誰よりも先に察していたルミルは一人で納得するようにウンウンと頷いていた。
召喚士様は人間に愛想を尽かしたと言われている。けど実際は陰から人間を見守っていて、完全に見捨ててはいなかった。
今回だって、なんだかんだで一つの村を救うために僕を森の調査に向かわせて、魔物の脅威から未然に防ごうとしていたんだ。
僕にこの世界をどうこう出来るかは分からない。けどやれるだけはやってみようと思う。きっとそれが、僕がこの世界に来た理由なのだから。
「じゃあ今日からこの地下施設を使う事が許されました。なので、誰がどのベッドを使うかなどの確認をしていきましょう!」
「「「は~い!」」」
そうして僕達は改めてこの地下施設の部屋を見て回る事にした。
以前アリシアが地図を作ってくれた事があって、改めて地下を探索をする。これから長く使っていく事になる拠点なのでしっかりと把握しておかなくてはならない!
トイレやお風呂の部屋もある訳だが、なんと魔力で水が流れたりお湯を沸かせたりできる仕様になっていた。しかしぶっちゃけ僕には魔力が無いので動かせないのではないだろうか……?
「僕が水を出したい時はいちいちみんなに頼まなくちゃいけないんですかね……?」
「いや、大丈夫みたいよ。魔力を充電しとけば誰でも動かせるみたい!」
なるほど。アリシアの言う通り、触ってみると僕でも各機能が動かせた。
考えてみれば魔物との激戦で魔力が空になって帰って来るかもしれないのだから、充電できる時にしておいた方がいいに決まってる。きっとそれは召喚士様も同じなのだろう。
続いて寝室を決める。
「やっぱり僕が一人部屋で、他の女子組は別の部屋にしましょうか」
「別に宿屋を使う時は同じ部屋にしてるんだから、今更分けなくてもいいんじゃね?」
なんとルミルがそんな事を言った。
宿屋はお金がないから仕方なく部屋を一つにしているだけであってここではマズいでしょうよ。
いや、でももう恋仲という関係になったので構わないのか!? いやそれだと僕が歯止めが利かなくなってしまいそうで怖い……
「ダメです。男性には一人の時間も必要なんです!」
「ふ~ん。まぁいいや。ご主人の部屋に遊びに行けばいいだけだし」
そうして寝室の部屋割りも終わり、僕達は晩御飯を作る事になった。
宿屋ではお食事が出てくるので考えた事がなかったが、拠点を持つと食事を作らなくてはらなんのか……
「あたし作れるよ? ガチャ控え室で料理の本とかもめっちゃ読んでたし」
「ルミル様は勉強家なんですね。私も作れるのでお手伝いしますよ」
そう言えばルミルは自己紹介の時に料理が得意って言ってたような……
そんな訳で食事はルミルとクナが担当する事になった。
「わ、私は……足りない材料を買いに行く係をするわ! 私のスピードなら一瞬で戻って来るもの!」
アリシアも必死に混ざろうとしているが、結局お皿を並べる係となっていた。
そうやってみんなが作ってくれた食事を取った訳だが、こうした自分達だけのホームで落ち着けるのは本当にありがたかった。
ようやく宿屋を探す手間と出費を抑えられる事と、いつでも戻って落ち着ける場所があるというのがありがたい。そんな気持ちで今日は眠りにつく事ができそうだ。
……ちなみに、食事を作る時に僕は何の役にも立たなかったりする……
「さて、ちょっと早いけどもう休もうかな。どうせやる事もないし」
この世界に来てからネットもゲームもないので、寝る時間が規則正しくなったのは言うまでもない。それでも毎日歩き回っている疲れのせいで、娯楽に興じるという欲求はそこまで湧かない。
僕は確実にこの世界に順応している。そんな時だった。
「ご主人! あそぼー!!」
ルミルが元気よく僕の部屋に入り込んできた。
この子にはいつかちゃんと、男性の部屋に入る時はノックをする事を教育しなくてはいけない……
「遊ぶって何をして遊ぶんですか? オモチャとかありませんよ?」
「なんでもいいよ! そりゃあ!!」
大ジャンプをしたルミルは僕の肩に飛び乗ってきた。バランスを崩す僕だが、そんなフラフラする僕の肩から落ちないようにうまくバランスを取って落ちないようにしている。
「マスター、少しお話しない? ……って、ルミルは何をやってるのよ……」
「旦那様、ここならばバカップルにはなりませんよね? もっと親密になりましょう!」
そこへアリシアとクナもやってきた。みんな自分の拠点ができて浮かれているように感じる。
「ご主人、上は見ちゃダメだからね! 絶対だよ! 絶対上は見ないでね!」
組体操のように僕の肩に乗っているルミルがそう言った。
ふっ、はっきり言って僕は下着には興味が無い。それこそ見えそうで見えない絶対領域を堪能する派なのだ。そう、見えてしまう下着に魅力なんてない。見えない事で想像を膨らませ、そのギリギリのラインでドキドキするのが一番興奮できるからだ。
「ルミルさん、僕の住んでいた国には『前振り』というのがあるんですよ……」
「……え?」
しかし僕には『女性に恥をかかせてはいけない』というモットーがある。そして前振りを見逃さないだけの空気を読む能力もあると自負している。
つまりここで上を見ないと、ここまで言ってくれているルミルに恥をかかせてしまう事になってしまうのだ。はぁ~やれやれ仕方ないなぁ……
「では、御開帳ありがとうございます!」
ムギュウ!
上を見た瞬間、僕の両目はルミルの足に踏まれて視界を塞がれてしまった。
靴下なので、ほのかに生暖かい体温を感じて痛くはない……
「見るなっていってんじゃん! バカなの!? 死ぬの!? 駄主人なの!?」
「ふっ、その前振りは僕の住んでた文化で言わせれば見てほしいって意味になるんですよ」
「ここぞとばかりに異文化アピールしないでくれる? なんかあたしの時ばっか変態ムーブ全開じゃない!?」
僕的にはルミルがすっかけてくるからそれなりのコミュニケーションを取っているだけなんだけどなぁ。
そんなルミルは僕から素早く飛び降りて、アリシアの後ろに隠れてしまった。
「そう言えばマスターって異世界から来たってルミルのスキルに書いてなかったかしら? その辺の話を詳しく聞きたいわ!」
「旦那様は異世界から来たのですか!? 私も聞きたいです♪」
そんなこんなで僕の部屋で雑談が始まってしまった。
実は僕は一つだけ迷っていたことがある。それは、人前でイチャ付くのはバカップルのする事だから禁止と言った事で、こういう夜に性的なお誘いを受けたらどうすべきかだ。
女性に恥をかかせてはいけない。ならば、夜に迫られた時はしっかりと相手をするべきなのだろうか? 僕ももう成人している大人の男性だ。女性との付き合いはないにしても知識くらいはある。果たして彼女達の期待に応えるべく正解はなんなのだろうか……
ずっとそれを考えていた。しかしみんな、僕の部屋で楽しそうにおしゃべりをするばかりでエッチな雰囲気には一切ならない。
軽いスキンシップはあるものの、終始楽しそうにしゃべるだけで時間が過ぎると普通に解散となっていった。
僕はベッドに横たわり考える。
ああ、そうか。ガチャ娘というのは人間の代わりに魔物と戦うために生み出された者だ。そこで魔物と戦うのに邪魔な要素を極力省くのは理にかなっている。
ガチャ娘は食事を取らなくても死にはしない。本来なら寝なくても活動できるらしい。食欲、睡眠欲がないのであれば当然、性欲もカットされていてもおかしくはないんだ。
確かにガチャ娘は自分を呼び出したマスターに対して好感度が設定されている。彼女達のステータスを見る時に、戦力の数字がいつのまにか増えている事がある。あれは恐らく、僕に対しての好感度によって多少なりとも戦力が増加していると判断する。
そう、僕達マスターはそんな彼女に対して心を奪われ、時には結婚という形を取るマスターもいるらしい。しかし、ガチャ娘に子供を産む器官はないと前に聞いたことがあった。
彼女たちはあくまでも魔物と戦うための存在だ。そんな彼女たちが子供を孕んで戦闘能力が激減するなんて矛盾もいいところだ。
それでもいいと思う者は結婚まで進めるらしいけど、きっと彼女たちは性的な興味なんてのは一切ないのだろう。あくまでも好感度故の、大切な人を守りたいというゲームのあるある設定が反映されているだけなのだ。
「はぁ~……緊張して損した……」
彼女たちのイチャイチャとは単純に愛を育む事であり、お互いの時間や想いを大切にする事なんだ。……いや、まぁそれも当然間違いなんかではないのだけれど……
「さぁ、明日からは次の街に向けて歩くんだ。もう寝よう」
少し残念なような、それでいてホッとしたような……
なんだか微妙な気持ちを抑え込むように、僕は無理やり目を閉じて眠りにつくのだった。




