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「何があっても最後までマスターだけは守って! 絶対に死なせないで!!」

「キキー♪」

「ウッキョー♪」

「キョッキョッキョー♪」


 猿たちが歓声を上げている。スライムとはいえ、自分たちのボスが戻ってきたからだろう。

 しかしこの状況、雰囲気的にも状態的にもかなり辛いものとなっている。

 ルミルもアリシアも魔力はもう底を尽きかけており、アリシアに至ってはダメージが蓄積されてスタミナもほぼ無くなっている。

 こうなる前に撤退を選択するべきだったか? いや、多分逃げるのはかなり難しかったと思う。

 木の上から観戦している猿たち。僕やクナは盾の後ろに隠れているだけだが、それでも猿たちは何も干渉せずにスライムの戦いをただ見守るだけだった。けどそれは僕達が逃げた時にいつでも動けるようにするためじゃないかと思っている。

 僕達に手を出すと自分達にまで攻撃対象にされてしまう。 手を出さない代わりに僕達も猿には手を出さない。というか手を出すほどの余裕が無いというのを分かっているんだ。

 そうやっていざ僕達が逃げようとしたときに全勢力を使ってでも妨害する。そういう役割を決めているんじゃないだろうか。この猿たちはそれくらいの連携は取れそうな気がした。


「みなさん、ただ戦えますか……?」

「マスターがそう指示を出すなら、いくらでも!」

「どうせ逃げられないんでしょ? やるしかないじゃん!」


 そう、もうボス猿からは逃げられない。それだけのスペックを持っているはずだから……


「すみません……逃げるタイミングを失ってしまいました……」

「旦那様のせいではありません。こうなるなんて予想できる訳ないじゃないですか」


 クナがそう言ってくれるけど、予想できない魔物だからこそまずは逃げる事を何より優先すべきだったかもしれない……


「アリシア、あたしも隙を見て攻撃するから地上で戦ってね。木の上とかはナシで!」

「わかったわ。じゃあ行くわよ!」


 アリシアがボス猿スライムに斬りかかる! しかしボス猿は案の定、とても軽い身のこなしでアリシアの攻撃を回避していった。


「こんにゃろー!!」


 ルミルも攻撃に参加をする。そうやってアリシアと息を合わせて二人がかりで攻めるが、その瞬発力と高い機動力で攻撃は全く当たらなかった。


「クナさん、盾を動かしてボス猿の行動を制限してください!」

「で、でも、そんな時に攻めてこられたら旦那様の守りが……」

「このままでは結局全滅します。もうクナさんも戦いに入って何かしらのイレギュラーになる可能性に欠けた方が生存率が上がるほどなんです」


 クナはゴクリと息を呑んでボス猿との戦いに盾を飛ばす。そうやって行く手を塞いだり、盾を突っ込ませたりと場を乱そうとするが、誰の動きも抑制できない。

 ボス猿も、アリシアも、ルミルでさえも流れる動きで決して止まらなかった。

 ――ズバッ!

 ボス猿の反撃でアリシアの肩が切り裂かれる。もうこのボス猿スライムは武器を使っていない。両手から伸びる爪で相手を切り裂くという戦闘スタイルだった。


「くぅ……このぉ!」


 アリシアが熱くなる。いや、焦っているのかもしれない。

 そんな気持ちからか、アリシアの動きが加速した!


「無限刃!!」


 ルミルやクナの盾を置いてけぼりにしてアリシアが突っ走る! これは悪手か、それとももうこれに賭けるしかないのか、それは僕にも分からなかった……


 ――ガガガガガガガガガガッ!!


 アリシアの姿が分裂しているように見える技だが、なんとボス猿まで同じ動きでアリシアと競り合っていた。

 お互いに複数にも見えるスピードのまま、ぶつかり合う音だけが響いてくる。もはや僕の目にはどちらが優位かなんて分からなかった。


「くぅ……!?」


 アリシアの動きが急に鈍る。ボス猿スライムの爪がアリシアの左腕を引き裂いたように見えた。


「痛っ……う……ぁぅ……」


 次第にボス猿の動きに圧倒されていく。そうして爪の攻撃が徐々に命中していくのが見て取れた。


「く……きゃああああーーーー!!」


 ついに防御も回避もできないアリシアが全身を引き裂かれる。さらにあのハイスピードから思い切り蹴りを入れられて、アリシアは地面を転がり僕の近くで倒れてしまった。

 全身を傷だらけにさせたアリシアは立ち上がろうとする。けれどもう立てないほど体がボロボロだ。

 この時、僕は完全な敗北を確信してしまった……

 エースの敗北。それがこんな絶望的な気持ちになるなんて……。いや、それどころか、今はもう死の足音さえ間近に迫っている事さえ理解できる。なぜなら、この状況でボス猿が次のターゲットを僕に決めたとしたら、そのスピードに対抗できる者がいないのだから……

 声が出ない。動く事もできない。もはや、ボス猿の判断で次に狙われる相手が決まる。そんな状況で、ボス猿と僕は目が合ってしまった……

 剥き出しの牙と殺気が僕に向けられる。だめだ……殺される!!


――「ルミル! ボスの相手をして!! 少しでも時間を稼いで!!」


 アリシアが大声でそう指示を出した。

 倒れたままの状態で、必死にルミルに呼びかけていた。


「お……おっしゃー!! 次はあたしの番だ! かかってこいやー!!」


 ルミルが弾けたようにボス猿に飛び掛かる。振り下ろしたハンマーは当然ボス猿には当たらない。それでもルミルはハンマーを振り回し続けた。

 それによってボス猿のターゲットがルミルに切り替わる。アリシアの咄嗟の判断で狙いを僕から逸らしたんだ!


「もう魔力はこれしか残ってないからね! 『魔石解放!!』」


 ルミルが装備している魔石の魔力を解放する。すると全身から大量の魔力が噴き上がった!


「全魔力を防御に回すよ! 魔攻術最大!!」


 そうしてボス猿の攻撃を最小限に抑えるルミル。この少しでも時間を稼いでくれている間に、僕はアリシアに駆け寄った!


「アリシアさん大丈夫ですか!」


 倒れている彼女を抱き起すと、その表情はとても弱々しかった……

 ガチャ娘の体は血の代わりに魔力が流れているらしい。だから出血はほとんどない。ただ、全身に引っかき傷が無数にあって痛々しい状態になっていた……


「マ、マスター……逃げて……」


 そうアリシアは小さく呟いた。


「……ダメです。この状況からは逃げられません。ボス猿からも、上から監視されている猿からも……」

「ハァ……ハァ……それでも逃げて! 私とルミルが……できる限り時間を稼ぐから……」


 それは自分達を犠牲にして僕達だけ逃がすという事か!? そんな事させられる訳ないだろう!


「クナ……マスターを連れて逃げて! 何があっても最後までマスターだけは守って! 絶対に死なせないで!!」

「あ……あ……うぁ……」


 クナも困惑してすぐには反応できていない。だから僕は必死に命令を上書きする!


「クナさん必要ありません。まだ全員で生き残る方法を考えますから!」

「マスター……もう無理だから……ルミル! 震魂と爆懐で周囲を吹き飛ばして! マスターだけは逃がすから!」


 アリシアがボス猿と戦っているルミルにそう大声で伝えた。


「ダメです! その戦法は一度見せているので通じません! ルミルさんはこのままボス猿の相手をしてください!」

「え、えぇ!? どっち!? なんにせよ長くは持たないよ!!」


 そう、早く決断しないと本当に全滅する! どうする!? 爆懐で周囲を吹き飛ばして全員で逃げ切れるか!?

 僕の考えだと、クナと二人で逃げたとしても逃げ切れる確率は半々……全員を回収して逃げるのであればさらに確率は低くなるぞ……

 かと言ってこのまま戦っても勝てる戦術が思い浮かばない……

 どうする……どうする!!


「どうすんの!? 吹き飛ばす!? く……うわああああーー!!」


 ついにルミルの防御が崩れる。アリシアと同様に凄まじいスピードから繰り出される爪に全身を滅多切りにされ始めた。

 早く何かを決断しないと! でもそれは全員で生き残る方法だけだ! 僕達だけで逃げるのは論外だろ!! どうする、どうする!!

 焦れば焦るほど考えがまとまらなくなる。きっと今の僕は自分でも気が付いていないくらいパニックになっていただろう。

 頭の中がグチャグチャで、もうどうするのが最善か分からなくなっていた……

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― 新着の感想 ―
面白かったです!!投稿頑張ってください応援してます( ^ω^ )
2024/11/07 15:38 その辺にいるゴブリンLv1
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