「なんせ俺、SR三人いるから!」
「あの、アリシアさん、ここモリモーリって街らしいですよ」
「へぇ~そうなのね。さ、宿を取りに行きましょう?」
平然か!? なんかよく分からん街に流れ着いたのに平然か!?
「いや、まずはギルドに行ってクエストクリアの報酬を貰いましょう……」
ツッコむのは諦めて、僕たちはまずギルドへ向かった。
今日のデイリーで手に入れた報酬は、各レアリティ分の経験値素材が四つ。レベル上限解放の秘薬が一つだ。
レベルは100になると上がらなくなり、この上限解放の秘薬を使うと20追加で上げられるようになる。そうして最終的に200レベルを目指すことになるのだ。
今はまだ100レベルにも到達していないけど、この上限解放の秘薬やレアリティを一つ上げる宝玉は入手が難しいので、手に入れられるクエストがあるなら確保しておいたほうがいいというのが僕の判断だ。
「さてっと、せっかくこの街に来たんだから、どんなクエストがありますかねぇ」
明日の参考にするために貼り付けてあるクエスト一覧を覗き込んでみた。すると、討伐クエストで一番推奨戦力が低いものでさえ8万となっていた。
ちょっと冷や汗を流しながら僕は受付カウンターまで移動する。
「……あの、僕たちセカドンって街に行きたかったんですけど、この街はセカドンからどの位置になりますかね?」
そうギルド受付のお姉さん、もとい召喚士のガチャ娘に聞いてみた。
「あらまぁ! ここはセカドンよりもちょっとだけ北にある街ですよ。通り過ぎちゃったみたいですね~」
お姉さんはそう笑って答えてくれたので、僕は真顔でアリシアを見つめる。
「わぁ~、この窓から見る景色は凄いわね~」
あからさまに僕と目が合わないように窓の方へ移動するアリシア。窓を開けて夜風を浴びるという風流さを演出しているけど、明らかに話題を逸らそうとしているのがバレバレだ。
あと窓から見る景色も普通だからな!
「とにかく、ここは思ってる以上に高い戦力が要求されます。真っ暗になる前にトレードを開始して少しでもレベルを上げておきましょう!」
「あ、ここでも交換するのね」
本当は明日のデイリーをこなしてまとめてトレードする予定だったけど、手持ちで出来る限り上げないと戦力差が怖い。その反面、それだけここにいる冒険者は育成が進んでいるという事になるので、N経験値素材も多く持て余しているのではないだろうか?
だとすると、セカドンよりもこの街に着いた方がトレードの効率は良いことになる。
「よし、ではトレード開始です!」
そうして僕は、また商人を演じてのトレードを行うべく街の広場に赴くのだった。
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「ふ~。思ったよりも多く交換してもらえましたね」
全てのトレードを終え、僕は手持ちの確認に入る。今トレードしたのはSR経験値素材四枚。これをN素材と交換した際に、なんと最初の一枚目がN素材15枚と交換してもらい、SR三枚でN42枚。元々N素材も四枚持っていたので、計46枚にもなっていた。
残りのSR一枚はスキル上げの書六つと交換してもらい、これらで彼女を育成する。
「早速アリシアさんに使いますね」
「わ~い! ワクワク、ワクワク♪」
全ての素材を彼女に使用すると戦力が増加する。それを僕はステータス画面を開いて確認をしていた。
名前 :アリシア
レアリティ:N+(二段階目)
レベル :76
体力 :T
攻撃力 :U
防御力 :T
素早さ :S
精神力 :T
探知 :T
スキル1 :韋駄天LV10
装備 :小太刀(ランク2)
:皮の鎧(ランク2)
推定戦力 :6万9900
「マスター私にも見せてちょうだい」
「うわっ!?」
アリシアが後ろから僕に抱き着くようにして画面を覗き込んできた。ほっぺがくっつきそうなほど顔が近くてドキッとする。
落ち着け~! 今の僕は大人のお兄さんだ~!!
「では、今日はもう遅いので宿屋に泊まりましょうか」
「は~い!」
そしてこの日もお金2000インを使って宿に泊まる。朝食だけで夜まで飲まず食わずだったので、僕はまず大量の水をがぶ飲みしたという事実だけは述べておこう。そしてこの宿泊で残金が無くなってしまったという事も……
ちなみにガチャ娘は人間ほど食事が必要ではないらしく、割とケロっとしていた。
同じ部屋で寝泊まりをするという嬉し恥ずかしという状況だが、特にこれと言って変わった事もなく日付が変わっていく。そうして僕たちはついに二日目の夜にお休みを告げ、三日目の朝におはようと投げかける、それからギルドに赴き討伐クエストに挑もうとしていた。
「ん~……やっぱこれかなぁ? 魔物五体の討伐。推奨戦力8万」
「マスター……本当にやるの? 今からでもセカドンに行って、その周辺の魔物で稼いだ方がいいんじゃないかしら……?」
昨日の元気はどこへやら。いつになくシオシオで元気のないアリシアがそう聞いてくる。
確かにそれも一つの選択肢ではあるけど……
「けど、僕は今のアリシアさんならここの魔物でも十分やれると思うんですよ」
「うぅ……大丈夫かしら……」
……これはマズいかもしれない。本人の士気がかなり低い。
とはいえ、こんな世界だ。いつかは自分たちよりも戦力の高い敵と戦わなくてはならない時がくるだろう。だとしたら、今はある意味で絶好の機会だと思う。『戦力』という数字がどれほど当てになるのか試せるし、ここだってまだ序盤の方だろうから逃げられないような敵も少ないはずだ。
だから、確かめるなら今がいい。
「戦力なんて飾りですよ。なるべくアリシアさんと相性のいい敵を選びますので」
「ふみゅ……わかったわよぉ……」
まだオドオドしている彼女を連れてギルドを出ようとした時だった。一人の青年が入り口からに入ってきて僕と鉢合わせとなった。
僕は端に避けて通路を譲ったが……
「おや? キミは確か、昨日トレードをしていた新入り冒険者の……」
金髪で髪がツンツンと逆立っている彼はそう言って、僕をジロジロと眺め始めた。その後ろには三人のガチャ娘と思われる女性が付いていて、みんな虹色オーラを放っていた。
「あ、昨日この街に着きました、ジンと言います。どうぞよろしく」
「……」
僕が軽く会釈をするが彼は自己紹介もせず、ただ眉をひそめていた。
「俺さ、昨日から気になっていたんだけど、そのガチャ娘ってもしかしてノーマル?」
「ええ、そうですよ。それが何か?」
そう答えると、ツンツン頭の彼は態度が豹変した。
「お前、なんで味方がノーマル一人なんだよ。引き直しでSR取ってねぇの?」
「まぁ色々ありまして」
「ダッセーなぁ。そんな戦力じゃあここ魔物とは戦えないぜ? しかもあんな物乞いみたいなトレードをして恥ずかしくないのかよ」
……なんだかすごく変な奴に絡まれたという事だけは理解した。あまり相手をしたくないなぁ……
「別にトレードは物乞いとは言わないと思いますけどね。相手も欲しているわけだし」
「必死に足掻いてる感が惨めって言ってんだよ。俺ならちゃんと正々堂々育成するね」
いや、育成に正々堂々も何も無いと思うんだけど……
「それに見ろよ。俺はすでにSRを三人も持っている!!」
別に聞いていないのに、金髪ツンツン頭はドヤ顔で自分のガチャ娘を僕に見せつけようとしていた。
「つまりこの街では俺がトップって事! だからさ、あまりこの街で惨めな真似されるのは見過ごせないんだわ。なんせ俺、SR三人いるから!」
いや意味わからんけど!? 何? SRの数でマウント取ってくるのなんなの!?
「あ、そうですか。では僕はもう行きますんで」
「あ、おい! まだ話は終わって――」
なんかもう面倒くさいのでスルーしてギルドを出た。幸いあの人は追いかけてくることはなかったけど、やっぱりこの世界はSRが偉くて、必然的にノーマルは虐げられているという現状が見えた気がした。
そんなこんなで僕たちは街を出て林を進む。迷子にならないように遠くには行かず、ギルドで聞いたこの街周辺の魔物を探した。
すると林を抜けた先に開けた場所があり、そこを一体の大きな魔物が行動していた。
「トロール! 今回討伐対象の魔物で、一体だけだし絶好のシチュエーションですよ」
人間サイズの巨体で、お相撲さんが太い木の枝を持っている感じの風貌だ。ただその顔は豚のようで凶悪そのもの。睨まれたとしたらかなりの恐怖を抱くかもしれない。
「き、緊張するわね……」
思った以上にガチガチになりながらアリシアがトロールに向かっていく。こうして僕らの討伐クエストが始まったのだった。