「旦那様は私を心配してくれたんですね。その優しさに胸を打たれてしまいました」
* * *
「ところでここってどこなんですか? 僕達って大穴に落ちましたよね?」
そう、現状はかなり謎だらけだ。
ルミルのハンマーで地面が陥没したのはまぁ分かる。けど問題はその後で、この地下迷宮がなんなのか全くわかっていない。
「とりあえずご主人はゆっくりと休みなよ。まだ具合だって良くないんだし……」
「魔物はいないはずだけど、今晩は私たちが警戒しておくわ。今は体調を戻す事に専念してね」
ルミルもアリシアも、いつも以上に気を使ってくれているみたいだ。
僕もまだまだ本調子ではないせいか、次第に眠くなってきた。
「ホントに心配したのよ? マスターがいなくなったら私達、本気で泣いちゃうからね……」
アリシアが僕の手を握って悲しそうな眼を向けてくる。今回ばかりは本当に心配をかけちゃったなぁ……
「心配をかけて……すみません。お言葉に甘えて……今は休ませてもらいますね……」
そう伝えると急速に意識が遠くなっていく。僕はそのまま深い眠りに落ちていくのだった。
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――冒険開始十一日目。
「むにゃ……おはようございます……」
僕が目を覚ますと、アリシアは地面に座り込んで見張りをしてくれていた。他の二人は並べられているベッドでお休み中だ。
「マスター!? 体は大丈夫なの……?」
「はい。腕の傷はまだ少し痛みますが、体の方はもう大丈夫みたいです」
そう答えると、アリシアは目に涙を浮かべて僕にしがみ付いて来た。
「ふぇ~ん……元気になってくれて本当に良かったわぁ~……」
唐突なハグに、ポヤポヤしていた眠気もぶっ飛んでいく。
とにかく今の僕は、優しいお兄さんキャラを一貫しているのだ!
「僕達が魔物に襲われている時、マッハで駆けつけてくれましたよね? 本当にありがとうございます」
そう言ってアリシアの頭を撫でてあげる。
……内心ではかなりドキドキしているけど。
「ふぇ~ん……いつものヘタレで大人の真似事をしているマスターだぁ~……」
えぇ~!! バレてる!? 今まで優しいお兄さんを演じていた僕の苦労は!?
そんな衝撃を受けていると、ルミルやクナも目を覚まし始めた。
「おお~、ご主人、元気になったんだね。良かった良かった~」
「旦那様、体調が悪くなったらすぐ私に言ってくださいね?」
ルミルも毒の治療をしてくれたらしいので、ちゃんとお礼を言って頭を撫でてあげる。するといつものように顔を赤くして、ちょっとツンツンした態度で手を払いのけるのだった。
「それでねマスター、この地下迷宮の事なんだけど……」
そうだ。ここは不思議一杯、謎一杯のデンジャーゾーン。何が起こるか分からないからこそアリシアも見張りを続けてくれていたんだ。
「何か分かった事があるんですか?」
「マスターを治療している時に、その治療班と魔物討伐班に分かれたのよ。ほら、迷路の地図とかも作っておきたかったし。それでこれがここの地図よ」
渡された地図を見ると、ここの地下迷宮はそれほど大きな広さでは無かった。少し入り組んではいるけど、出口までの道を覚えてしまえばあとは地図を見なくても歩けそうだ。
……ただ、ありえないのが部屋の種類だ。今僕達がいるのが寝室。その隣にも寝室があり、他にもキッチンやトイレ、倉庫にお風呂までそろっている……
「もしかしてここ、誰かが住んでいたって事ですか?」
「多分ね。タオルとか食器とか、そういうのも一通りはそろっていたわ」
えぇ~……。ダンジョンか何かだと思っていたら、誰かが作った地下シェルターだったって事!?
だけど大穴を開けて落ちて来たのに、その穴が一瞬で塞がったりと疑問は多い。
「ん? あれ? この地図を見ると、出口が二つ存在してませんか?」
そう。この地図には迷路を抜けた先に『地上へ出るための出口』がちゃんと書き込まれている。だがその他にも、『出口』と書かれた一つの部屋が存在していた。
「直接見た方がいいわ。マスター歩ける?」
「はい。連れて行ってください」
そうして僕達は全員で歩きだす。
「その出口の部屋はね、その場所から外に出られるのよ……」
「なんですかそれ? エレベーターでも付いてるんですか?」
そんな事を言っても、みんなはエレベーターが何か分かってくれなかったりする……
「この部屋よ」
そこへ入ってみると無駄な物は何もない、ガランとした部屋だった。ただ正面の壁に一つだけ大きな宝石が目に入る。
「これは……魔石ですか? かなり大きいですね」
壁に埋め込まれている巨大な石。アリシアはその石に近付いて行った。
「これに触れるとね、外へ出られるのよ」
そう言って石に触れるとアリシアの体が光が走る。触れた手から全身に迸るように光は広がっていった。
そして全身を駆け巡ると、次の瞬間にアリシアはフッと消えてしまった!
「おわっ! アリシアさんが消えた!?」
「ね? ご主人も触れてみて」
ルミルにそう言われてしまった。
別に二人を信じない訳じゃないけど、なんだかちょっと怖かったりする。それでも同じように石に触れると、僕の体にも光が走った。
痛みはない。なんだか全身をスキャンされているような感じだ。
そうすると目の前が明るくなり、僕は一瞬で外に立っていた。目の前にはアリシアがいる。
「ここは……?」
「クサフカヒの街の近くよ。あ、マスター早くこっちに来て。次の人が転送されてくるから」
転送!? いや確かにそんな感じだ。僕は一瞬で地下から地上へと転送されたんだ!
僕がアリシアの隣に並んで周りを見ると、確かに少し離れた所に街の建物が見える。ここには大きな木が一本そびえ立っていて、その木の枝にあの魔石のような宝石がぶら下がっていた。
正確に言うと、大きな石がはめ込まれた腕輪のような形状になっている。その腕輪が木の枝に引っ掛けられていた。
するとその石が光り、正面からクナが出現した!
「ふわ~!? 本当に外に出ちゃいました!」
クナも僕同様にキョロキョロしている。
「クナ、次にルミルが出るからそこから離れて」
「あ、は、はい! ってわぷ!?」
正面に僕が立っていたせいか、クナは後ろに下がろうとする。しかし真後ろには木がそびえ立っているのでクナは頭をぶつけてその場にうずくまってしまった。
「何やってるのよ。早くどかないとルミルが出てくるわよ?」
ん? あれ? 確かにこの場合どうなるんだ? 出現位置にクナが居て、そこにルミルが後から出ようとしたらヤバいんじゃないか?
最初から居たクナとルミルが重なって、二人共混ざって死んじゃうんじゃ……?
「ク、クナさん! 早く移動してください!」
僕は慌ててクナの手を引いて自分の元へと引き寄せる。するとすぐにルミルがその位置に出現してきた。
「ちょっとクナ! ずっとその場所に突っ立ってたでしょ! あたしが出ようとしてもなかなか反応しなかったんだから!」
ルミルが文句を言う。そっか。出現位置に何かがあると、重ならないように作動しなくなるのか。よかった。そういう安全対策が無かったらマジでグロテスクな事になっていたかもしれない……
「ふぃ~……二人が重なっちゃうんじゃないかと慌てちゃいましたよ」
気が付くと僕は自分の体にクナを引き寄せており、そんなクナは顔を赤くして僕に密着していた。
「旦那様は私を心配してくれたんですね。その優しさに胸を打たれてしまいました」
そのまま僕の体に頬ずりをするクナ。なんだか僕も照れくさくなってしまう。
「マスター、何デレデレしてるの!」
アリシアがジト目で僕を射抜く。
いや仕方ないんだって。僕だってこんな好意をむき出しにされたら流石に嬉しいし……
「コホン! そ、それじゃあもう一度触れてみましょうかね~」
誤魔化すように、枝に引っ掛けてある石に触れてみる。すると同じように景色が変わり、僕は一瞬であの地下の薄暗い部屋の中にいた。
マジでここはなんなんだろう……
天井に空いた穴は勝手に塞がる。
部屋や通路には炎とは別の不思議な明かり。
触れただけで転送する謎の石……
「……ま、とりあえず次の街を目指しますか!」
考えても分からない僕は、特に深く考えない事にするのだった!




