「ところで昼間に言っていた『召喚士様』って誰なんです?」
「それじゃ、早速アイテムを使ってアリシアさんを育成していきますよ」
「う、うん。お願いするわね」
緊張した面持ちのアリシアに、僕は手持ちの素材を全て使用する。そうしてレベル6から30に。スキルレベルは1から6へと上がった。
「さらに進化の宝玉も使ってレアリティを上げますね」
「待ってました。どんと来なさい!」
僕がアイテム画面から宝玉を使おうとした。すると――
【進化させるには1000イン必要となります。よろしいですか?】
そう表示されていた……
うん。お金が必要なのは知っていた。マニュアルに書いてあったから。昼間の討伐で魔物を売ってお金は5000インあるし、これくらいなら問題はないな。
了承をすると、アリシアが持っている宝玉が光、彼女の体の中へと吸い込まれていく。
【アリシアのレアリティが『R』に上がった!】
「やった。私、ついにNを卒業してRになったのね! この調子でいけばSRに上がれる日も近いはずよ!」
そう感動するアリシアなんだけど、ここで僕は一つ思うところがあったりした。
「えっと、そのことでアリシアさんに一つだけお願いがあるんですが……」
「何? どうかしたのマスター」
「レアリティが上がったのはいいんですが、『レア』という言葉を使うのは止めてほしいんですよ」
「ええ~~、なんでよ!? せっかくRに昇格したのに!」
気持ちは分かる。けど、これがまたやっかいな仕様となっているためややこしくなってしまうのだ。
「アリシアさん、確かに現状であなたの表示は『R』になっています。ですが、使う素材は何かご存じですか?」
「そりゃあRになったんだから、レベルを上げたいならR経験値素材を使うんじゃないの?」
「いいえ、違います」
そう、これがこのシステムの勘違いを起こしやすいところだ。
「元々Nだったガチャ娘は、進化を繰り返しても最後までN素材を使うんですよ。まぁ、そうじゃないと色々バランスが悪くなっちゃいますからね」
「そうなの? だから私がレアって言うと、使う素材を勘違いしやすくなっちゃうのね。でもそれなら、私はこれから自分のレアリティをなんて呼べばいいのかしら?」
う~ん、僕がこれまでゲームをやってきて、ノーマルの次のレアリティと言えば……
「そうですね。N+ってとこじゃないでしょうか」
「なにそれ!? 全然強そうじゃないんだけど!?」
「いや、二段階目なんで実際強くはないでしょう……」
「それになんか可愛くない! 特別感もないわ!!」
「さぁ、そろそろ日が落ちるんで宿屋に向かいましょう。今日はもう疲れましたよ。あ、それとN+になってからエフェクトでキラキラが付けられるようになったようですが鬱陶しいので外しますね」
「酷い! なんか私の扱い酷くない!? ねぇマスター聞いてるの! ねぇってば~」
そんな喚くアリシアの相手を適当にしながら、僕は宿屋に向かうのだった。
名前 :アリシア
レアリティ:N+(二段階目)
レベル :30
体力 :W
攻撃力 :W
防御力 :W
素早さ :U
精神力 :W
探知 :W
スキル1 :韋駄天LV6
推定戦力 :4万0030
「すみません。二人で泊まりたいんですけど」
時刻はもうすぐで20時。外はもう暗くなっていた。
「うちは食事が一回500イン。部屋を二時間借りるごとに200イン追加になっていますよ。今ですと、夜と明日の朝の朝食を付けて10時間の利用で2000インとかどうですか?」
時間経過で料金が変わるのか。今の手持ちが4000インだから、お金が足りないという事態だけは避けられたな。それにしても今から10時間だと早朝6時にここを出なくちゃいけない。
「う~ん、どうしようかな」
「ちなみに、お二人様で部屋を分けると料金は二倍になりますのでお気お付けください」
ふぁっ!? そうか、部屋で料金が取られるなら二人で4000イン。ギリギリ足りるけどまた無一文になってしまう! マジでどうしようか……
「マスター、お金足りるの?」
「ぐぬぬ、まぁギリギリ足りるけど……」
「私、マスターと同じ部屋でもいいわよ」
「分かってますよ。やっぱり同じ部屋だとマズい……」
って、なんだってとぅえーーー!?
同じ部屋でもいい!? セーラー服美少女JKと同じ部屋とか色々問題ありそうなんだがー!?
「聞いた話だと、ガチャ娘ってマスターにつき従う者だから宿でも同じ部屋にする人は多いみたいよ?」
そ、そういうものなのか。だとしたら、あとは僕の理性の問題か。
いいだろう。そのクエスト、チャレンジしてやろう!!
「ではそのプランを一つの部屋で。あ、ベッドは二つの所をお願いしますよ?」
「了解しました」
こうしてようやく僕たちは今日の疲れを癒すための、おくつろぎタイムに入るのだった。
・
・
・
「マスターマスター! 私のステータス画面、もう一回見せて~」
「またですか? はい」
僕は画面を開き、それをアリシアの方へと指で弾く。すると画面はアリシアの方へと流れていった。
「えへへ~♪ 私の戦力、たった一日で4万越え~♪」
アリシアは部屋でごはんを食べながら送ったステータス画面を見てニコニコしている。まるで学生の昼休みにスマホを見ながら昼食を取る女学生のようだ。
「私をバカにしていた初期のSRよりも高い~♪ ふっふ~ん♪」
「アリシアさん、明日は6時にここを出ますからね? 寝坊しないでくださいよ?」
「わかってるって。同じ部屋なんだから、私がマスターを起こしてあげるわよ♪」
そうとう機嫌がいい。やはり呼び出されても使ってくれないフラストレーションはかなりのものだったと思えた。
「マスター。私を使ってくれて本当にありがとう。マスターに会えて本当に良かったわ。明日からも頑張るわね」
そう、凄まじい笑顔でそう言われた。
うむ、可愛い。それにこれはゲームじゃない。ガチャ娘は生きていて、そういうやる気が良い方向へと向かう可能性もある。だとしたら僕としても彼女を選んで正解だったのだ。
「気にしなくていいですよ。僕としましてもマニュアルを見た時からノーマルの育成はありだって思ってましたから。それにアリシアさんは可愛いので見た目で決めたところもありますし」
「ふえ!? わ、私が可愛い!?」
彼女の顔が一瞬で真っ赤になった。
「ええ。僕好きなんですよ。セーラー服」
「って、ただの制服マニアじゃない!」
「失礼な! 僕はワイシャツやブラウスといった制服よりも、セーラー服の方が好きなだけです!」
「……何その突然なカミングアウト。ちょっと怖いんだけど!?」
そんなジト目になってしまったアリシアに、僕はずっと聞きたかったことを質問してみる。
「ところで昼間に言っていた『召喚士様』って誰なんです? よかったら聞かせてくれませんか?」
「召喚士様を知らないなんて、マスターってば本当にどこから来たのよ?」
「あはは……ちょっと辺ぴな所から旅をしてきたのでね……」
とりあえずそういう事にしておく。
「この世界って、生物の頂点が人間って感じじゃない? 狩りをしてお肉を食べるのも人間が一番で、人間には天敵がいないって感じよね?」
「まぁそうですね」
「けど、きっと他の動物たちはそれを覆そうとしていたみたいでね、人間が気づいた時には進化を得て強大で獰猛な生物が多数生まれていたの。それが今でいう魔物ね。人間は剣と盾を持って抵抗をしたんだけど、それらの生物は人間の戦闘能力を超えるほどだったわ。気づいた時には数もかなり増えていてね、人間は日に日に魔物の餌食となっていったわ」
ふむ。この世界ではまだ銃や兵器というものが開発されていない文明みたいだな。精々飛び道具は弓矢ってレベルか。
その割に建築なんかはしっかりしていたりするようだけど。
「このままでは本当に人間は魔物に滅ぼされてしまう! そんな追い込まれた時だったわ。一人の魔法使いが現れて、召喚術で一騎当千の力を持つ戦士を召喚したの。それが私たちガチャ娘の生みの親である『召喚士様』よ。正確には召喚ではなく、自分の魔力を人型にして生命を宿した魔法なんだけど、当時の人たちからは召喚に見えたようね。だから今でも召喚士様って呼ばれてるわ」
魔法とはいえ生命を宿せるなんて凄いな。神様レベルじゃないか。
「召喚士様の魔力が溜まるごとに一人ずつ戦士を生み出していってね、人類は魔物に対抗できる力を手に入れたわ。けど魔物もこっちの戦力を把握して的確に進化していく。決して人間側が優勢だなんて言えない状況が続いたの。そんな状況で人々は焦り、ついに召喚士様を責めて、煽るようになったらしいわ。もっと早く戦士を生み出せ。今魔物に攻められたらひとたまりもないぞ。街が滅んだらどうしてくれるんだ。そうなったらお前の責任だぞってね」
守ってもらって随分な言い草だなぁ。けどそれだけ当時の状況は余裕がなかったという事か。
「人々の酷い態度に、ついに召喚士様は嫌気がさしたの。そして、『もうお前たちなんか知ら~ん』って召喚を使わなくなったわ。焦った人々はさらに召喚士様を非難して、早く魔物を倒せる力を要求した。そうしたらね、召喚士様はガチャチケットを作って、それをお金で売り始めたのよ。自分の魔力をチケットに移し、それを使った人が戦士を呼び出せるようにしたのね。それがガチャチケット販売の始まりであり、ガチャ娘育成システムの開始だったそうね」
そりゃあ無償で守っていたのに文句言われたら腹も立つし当然だよなぁ。
「人々は騒ぎ立てたらしいわ。人間を守る力を金で売るなんて最低だ、とか、魔物が発生したのは自分の力で儲けるための自作自演だったんじゃないかってね。そんな人間の態度に召喚士様は慈悲を与えず、お金を出さない人にはチケットを売らなかったわ。脅威となる魔物がすぐそこまで迫っている状況で、ついに人々は手のひらを反すように召喚士様を崇め始めた。失礼な口を利いてしまってすみません。どうか私たちを助けてくださいってね。でもそんなのはすでに遅く、すでに召喚士様は人間に愛想を尽かしていた訳ね。背に腹は代えられない人たちは自分の命を守るため、チケットを必死に買い求めたのよ」
なるほどね。
あれ? だとしたら……
「もしかして今のギルドを経営しているのって……」
「そう。召喚士様よ。だからギルドのスタッフは全員召喚士様が使役するガチャ娘で、私に刃物を突き付けたあの人たちもレベルマックスの最高レアリティよ。ガクガクブルブル……」
だからギルドのガチャで課金をしたり、育成にお金を使うとその収益は召喚士に入るという訳か。非常なようで力の正しい使い方でもあるよな。無償で力を使った結果が人間を調子づかせたわけだし。
「今でも召喚士様は人々のために戦う事はしないわ。今後も自分たちの身は自分たちで守れって事でしょうね」
となると、この街はまだ魔物が弱い領域であり、他の地域では強力な魔物と戦っている冒険者がいるってことか……
「分かりました。ではこれからアリシアさんの戦力に応じて戦う魔物を選んでいきましょう。とりあえず今日はもう休んで、明日の6時には宿を出ますからね」
「分かってるいわよ~」
そうして、僕が異世界に転生した初日が終わっていく。
明日からも、しばらくの間はアリシアを強化していく事がメインとなるだろう。そう考えながら、僕たちの夜は過ぎていくのだった。