「敵が一人しかいないって状況はね、私達にとってメチャクチャ有利なのよ!」
「さぁ、どこからでもかかってきなよ」
カルルの不敵な笑みに、一歩踏み出す事に恐怖を感じる。それはルミルも同じようで、にらみ合ったまま動けずにいた。
けど、これはマズいわ。こっちから動かないと相手に先制を許しちゃう! まずは私が先陣を切って――
そう決めた時にはすでに遅く、カルルはすでに動いていた。
「かかってこないなら、こっちから行くよ!!」
カルルの姿がフッと消える。とてつもない速さで私でも反応するのが遅れるほどだった。
そのカルルはルミルの側面に滑り込み、錫杖を豪快に振りぬいた!
「うああっ!」
打撃音とルミルの悲鳴が聞こえた時には、あの小さな体は吹き飛ばされていた。
マスターの横をとんでもない勢いで通過して、後方にある丘の断面に激突をする。衝撃音が響き、激突した丘からは砂埃が巻き上がってルミルの姿が見えなくなった。
「あれ? 当たっちゃった。あの子でしょ? アリシアよりも後に入ったのに、戦力を追い抜いていったっていう仲間は。もっと強いと思ってたりしたんだけどな~」
それを聞いて私の頭がカッ熱くなる。
「よくもルミルを!! スキル『韋駄天!!』」
さっきまでの恐怖を怒りが上回りカルルに突撃する。しかし私の振るった刀は涼しい顔で受け止められてしまった。
「さっきの子、アリシアがライバル視してるくらいだからザコじゃないよね。けど私の攻撃には対応できなかったから防御型やスピード型じゃない。多分、武器がハンマーだから攻撃特化のアタッカーかな?」
私は絶え間なく攻撃を仕掛けるが、口を動かしながらも全て防がれてしまう。
「なんにせよ、その尖った能力を発揮する前に殴れて良かったよ」
「このぉ!! 無限刃!!」
出し惜しみも探りを入れる余裕も無い。最初から本気でいかないと切り崩せない! というかルミルをそんな風に言われるのが面白くない。
全速力でカルルを四方八方から無作為に斬りつける。しかし、それでもカルルはその全ての攻撃を完璧に防いでいた。
「おお~速い速い。流石リキュアとの追いかけっこで勝っただけあるね。けどこれだけじゃ私に勝つ事は出来ないよ!」
ガインッと武器と武器がぶつかり合い、衝撃が全身に伝わってくる。私の攻撃を防ぎながらも、押し込んでバランスを崩そうとしている!?
無限刃でもダメージどころか怯ませる事もできないなんて! 悔しいけど、これがカルルの実力でもあり、私の今の実力でもある……
それでも私は次の行動に移る。魔力を刀に流して、正面から一直線に飛び掛かっていった。
「断斬!!」
刀に自分のスピードと重みを加え、一気にカルルに振り下ろす。
ギイイイイン!
今までで一番甲高い金属音が響き、私の攻撃はそれでも止められてしまっていた。
「重いねぇ。私と力比べでもしたかったりするのかな?」
余裕の笑みを浮かべるカルル。だけど笑いたいのはこっちも同じだった。
正面から武器と武器をぶつけ、鍔迫り合いに持ち込んだのは私達の作戦なのだから!
「敵が一人しかいないって状況はね、私達にとってメチャクチャ有利なのよ!」
「……何?」
自分の身に何が起きているのか理解できていないカルルは困惑している。そう、今の私はカルルの動きを止める事に徹しているだけ!
「さっきはよくもやってくれたな……『震魂!』『爆壊!!』」
そう、カルルの背後にはすでにルミルが立っていた。その手に持つハンマーには魔力を注ぎ、はち切れんばかりの輝きを集めている。
それでもカルルは気付いていない。なぜならルミルの存在は完全に感じ取れなくなっているから。
――不可視化。
ルミルが三段階目のレアリティに進化した時のスキルであり、完全に相手の敵視から逃れるスキルだ。故に、ルミルの攻撃に反応出来なくなる。
私は切り結んでいた状態から身を引いて、カルルから距離を取る。それと同時に、ルミルは背後から渾身の力でハンマーを振り下ろした!
「ぶっ潰れろぉぉぉ!」
ルミルの一撃はカルルの後頭部に直撃した!
……が、次の瞬間に信じられない動きを私は見る。なんと後頭部を打たれ、地面に叩きつけられるまでのほんの一瞬でカルルは身体を回転させたのだ。そしてハンマーの方へ体を向き直すと、すぐに腕をハンマーに密着させ、防御の型を取っていた。
ルミルは構わずに全力で地面に叩きつける。すると地面は陥没して、行き場を失った土や岩盤は空中へと噴き上がった。
――ズガアアアアアアアアアアアン!!
爆音が響く。まるで地雷でも爆発したように、あるいは隕石が落下したかのように、その叩きつけた地面には巨大なクレーターが出来上がっていた。
直径20メートルはあろうかという巨大な地面の陥没は、アリジゴクのように綺麗なおわん型になっている。そしてその中心にいるであろうカルルはさらに地面の奥底へと沈んでいるようだった。
これが、お城でさえ一撃で粉砕するルミル渾身の一撃である。
あまりの衝撃でルミル自身が吹き飛ばされたのか、クルクルと宙を舞いながらルミルは落ちて来た。そして私の近くにしっかりと着地を決め、一息吐いてから緊張を解いていた。
「ルミル、やったの?」
「わっかんない。アイツ、不意を衝かれた状態から一瞬で防御を間に合わせたよ。どんな反射神経してんだか……」
私達はクレーターの淵まで行き、窪みの中心を見つめる。もしこれでダメなら、もうカルルを戦闘不能にするだけの火力はない。これで終わってほしい気持ちでいっぱいだった。
けれど……
――ボコッ!
地面の中から手が生えた。その手は地面を押さえつけ、体を持ち上げるようにして這い出てくる。
まるでゾンビのよう再登場したカルルは、不気味に笑っていた……
「いやいや凄いね。隠密持ちにこの火力、さすがアリシアがライバル視する訳だわ。マジで意識飛びかけたりしたよ」
頭にかぶっていたドクロは砕け、ショートヘアが風に揺れている。全身は土まみれでボロボロなのに、それでも倒せなかった焦燥感と緊張感は私の体を駆け巡っていた。
「これは本気出すしかないかなぁ」
そう言ってカルルは、錫杖で地面をトンッと叩いた。
「スキル『ディフェンドアップ』」
薄い光がカルルを包む。
あのスキル、リキュアが話してくれたやつだ……
「スキル『バイタリティアップ』」
さらなる光がカルルに重なる。
カルルはありとあらゆる手段でリアちゃんの病気を治そうとした。その際に生み出されたバフスキル……
「スキル『レジスターアップ』」
リアちゃんのためだけにスキル構築して、リアちゃんのためだけに自分の存在を使い、リアちゃんのためだけに今まで生きてきた。
それがカルルなんだと、改めて思い知る……
「スキル『ナチュラルヒーリング』」
複数のスキルを重ね掛けしたカルルは、何色もの光が混ざったような輝きを帯びていた。
「……最初から手加減しないんじゃなかったの?」
「してないさ。最初はスキルを使わない本気。んで、ここからはスキルを使ったりなんかした本気だ!!」
そう言ってカルルは飛び出してきた! 凄まじい速さで一瞬で距離を詰めてくる。
なんとか動きが見える私はギリギリのところで回避に成功するが、それでもカルルは続けざまに追いかけて来た。
「あわわわ……あたし回避苦手なんだけど……」
私との攻防の中、その場から動けなくなったルミルがそう呟く。カルルはそんなルミルにターゲットを切り替えて襲い掛かった!
マズいわ! カルルも相当なスピードを持っているから追いつけない!? いや、この方法ならあるいは!
「風迷路!!」
「う!? 暴風!?」
一瞬の減速。そんなカルルの横を追い抜いて、私はルミルに抱きつくように突進する。そうして振り下ろされた錫杖からなんとか直撃を免れた。
「うああああアリシアありがとぉー死ぬかと思ったぁ……」
私の胸の中で泣き喚くルミルの頭を撫でながら、目線だけはカルルから逸らさない。一瞬も気を抜けない相手なのだから……
「今のは……魔力の風? なるほど、私には向かい風で減速を。自分は追い風で加速したのか。なかなかやるじゃん!」
「あなたから褒められるなんて光栄ね」
はっきり言ってこうして話している間にもカルルのダメージは回復している。一刻も早くダメージを重ねないといけないのに、そんな余裕も隙もないのが現状だった。
勝てない。勝つための手段が見つからない。そんな絶望感が私の中でドンドンと膨れ上がっていくのだった……




