「なんで私らガチャ娘がレベル1で召喚されるか知ってるかい?」
「だから待ってくださいカルル! この件は私に判断させてもらいたいんです」
「むぅ、リキュアがそう言うなら……」
立ち上がっていたカルルが再び座り、月を仰ぐ。意外だったのはリキュアの発言力だった。
昼間に見たリキュアはカルルに引っ張られ、その破天荒な行動に振り回されていた。それがここではカルルを抑え込み、自分が判断する強く言い放った。
二人の雰囲気からして仲がいいのは間違いない。ただ、普段はカルルを自由に動かし、こういった話し合いや交渉の場ではリキュアが判断するという役割になっているんじゃないかな?
なんとなくだけど、私にはそんな風に思えた。
「コホン、結論から言いますが、私達はアリシアさんとは戦いません」
「ええ~!? なんでよ~!?」
二人にはなんのメリットも無いから? やっぱり何かお土産でも持ってくればよかったかな?
「逆に聞きますけど、アリシアさんは強くなりたいんですよね? 私達と戦う事で、どうして強くなれると思ったんですか?」
「え? だってそれは、ほら、私の必殺技が効くかとか、戦術が通じるかとか、参考になるし?」
「では仮に、あなたは自分の必殺技が私達にも通用すると判明したら、その技はもう磨こうとしないのですか?」
あ……。そっか。確かにそう。
この二人に私の無限刃が有効だと分かっても、きっと毎日かかさず技を磨き続けると思う。そうじゃないと色々と鈍っちゃうもの。
「そう。強くなりたいのならば私達に通用しようがしまいが、基本的には毎日技を磨くしかないんです。その積み重ねが技の昇華に繋がるのですから。そして仮にアリシアさんが負けた場合、これも大きなリスクを負う事に繋がります」
リスク? 何かあるのかしら?
「仮ですよ? もし仮に私達に手も足も出ずに負けた場合、あなたにとってその事実は大きなショックとなり、心が折れてしまう可能性があるからです。アリシアさん、あなたは今、どれくらいの戦力なのですか?」
「えっと、今日で30万になったわ」
「そうですか。私達はおおよそ、その倍の戦力があるんです」
ええ~!? 強いとは思ってたけど、そんなに差があったのね……
「あまりにも戦力差がある勝負の時、負けた方は基本的に学べる事は少ないようですよ。なぜなら真似をしたくてもついていけないし、そもそもその域に達するまでどれだけの時間が必要なのかも分からない。そんな圧倒的な実力差が絶望になるんです。もちろんアリシアさんがそうなるとは思いません。ですが、そのくらいリスクのある行為というのも分かってください」
なんにも言えなかった。リキュアはが私のためにそう言ってくれているのが分かったから。
私を窘める訳でもなく、本当に親身になって、終始諭すような優しい口調だった。
普通、『私とあなたじゃ戦力差がありすぎるのよ。それじゃあ何も学べないわ』とか言われたら、『そんなのやってみなくちゃ分からないじゃなーい!』ってなりそうなものだけど、そうならないのはリキュアから慈愛の精神を感じたからかもしれない。
「うぅ~……分かったわ。聖母のようなリキュアの言い分を聞かない訳にはいかないわね。戦ってほしいというお願いは諦めるわ。でもせめて、強くなるためのアドバイスをもらえないかしら?」
しかしリキュアは、そんなお願いにも首を横に振った。
「それも出来れば自分で考えるべきです。例えばあなたの前に強力な魔物が現れてピンチになったとします。その時あなたは、わざわざ私達の所に倒し方を聞きに来るつもりですか? そんな事は基本的にできませんよね? その場で自分で考え、選択し、決断する。その判断力を養うためにも、今のうちから自分で考えておいた方がいいんです」
ガーン! でも私、考えるの超苦手だし……
「うぅ~……そうだわ。カルルなら私の気持ち分かるんじゃないかしら? カルルも私と同じで、考えるのが苦手なタイプって感じだし。ねぇカルル、ちょっとでもいいからアドバイスをちょうだい!」
「なんでリキュアは聖母で私はアホの子扱いなんだよ! まぁ否定はできなかったりするけど……」
カルルは苦笑いを浮かべ、目の前にいるリキュアはクスクスと口元を押さえて失笑していた。
「ふふ。確かにカルルは物事を深く考えない性格ですが、だからこそなんにでも意欲的に取り組むんですよ。周りが匙を投げる事でも、諦めずに色んな方法を試すんです。そんな前向きな性格にどれだけ救われた事か……」
リキュアが私にしか聞こえないくらいの声でそう言った。
おやおや? この二人、色々と訳アリなのかしら? もしかして、どちらがガチャ娘かを当てるクイズと関係あるのかしら?
でも二人の事を良く知らない私には皆目見当もつかなかったりする……
するとここで、意外にもカルルから助け舟が出た。
「でも戦力30万って言うと、確かにこの辺からどうしていいのか分からなくなったりするんだよね。ただ育成素材でレベルを上げるだけじゃ足りないって言うかさ。ちょっとくらいアドバイスしてあげてもいいんじゃね?」
「はぁ~……仕方ないですね。それじゃ本当に少しだけですよ?」
なんとリキュアからの許可が下りた!
やった! ありがとカルル!
「じゃあ私から教えてしんぜよう! 心して聴いちゃったりなんかしてくれたまえ!」
あ、カルルが教えてくれるのね。てっきりリキュアからアドバイスを貰えるものかと……
でもカルルの方が勢い余って色々と教えてくれそうな気もする。
「そうだなぁ~。まずは、自分のステータスとにらめっこするのが良かったりするぞ」
「自分のステータスと? なんで?」
「あの画面には無駄な事なんて何もないからさ。全ての項目に意味があったりするんだ」
全てに意味がある……? そういえばマスターも、ステータス表記のアルファベットも、あれは伸びしろを表しているだけだからランクだけを上げても意味が無い、的な事を言ってた気がする。
「例えばレベル。アリシアはさ、なんで私らガチャ娘がレベル1で召喚されるか知ってるかい? 召喚士様はその気になればレベルマックスで呼べたりするだろ? そうしないのはなぜか!」
ええ~!? 分からないわね。召喚士様は人間に愛想を尽かしているから嫌がらせのため? それか育成素材に課金させて儲けるため?
「答えは、その方が強くなるからさ。最初からレベルマックスで召喚したガチャ娘は、それ以上強くなる事がなかったりするんだって。それがレベル1の状態でマスターが育成を始めると、最初からレベルマックスで召喚されたガチャ娘よりも強くなってるんだってさ。こんな風に、ちょっとした発見でも強くなるヒントが隠されていたりするんだよ」
確かに。レベルを上げたりする段階から努力をする事で、本来のレベルマックスよりも高い性能に引き上げる事ができるって訳ね。つまり簡単に言えば、常に努力あるのみ! シンプルで分かりやすい!
「それじゃあ本題の、今はどうすればもっと強くなれるかのアドバイスだね。アリシアはさ、魔石って持ってたりなんかする?」
「ええ、持っているわ。今は素早さ上昇LV5の魔石よ」
「それってさ、ちゃんと使いこせてたりする?」
「ん? まぁ、あまり意識したことはないわね。マスターからは、スピードの上限を上げるためじゃなく、スタミナ持ちを良くするための物として扱っているわ」
するとカルルは、チッチッチっと指を揺らした。
「魔石のステータス上昇効果はおまけみたいなもんさ。本来の使い方は別にあったりする! 『魔石』って名前なのをよく考えてみたり――」
「カルル! 教えすぎですよ。それも含めて自分で考え、気づき、試行錯誤してこそ柔軟な発想力が養われるんです」
カルルは「ごめんごめん」と身振り手振りで謝ってて、それ以上は教えてくれなかった。
それでも私にとっては衝撃的なヒントだったと言える。魔石なんて装備しっぱなしで気にした事なんてなかったもの。
自分の胸に手を当ててみる。装備する事で体内に宿した魔石を意識すると、そこには確かに脈々とその存在を感じる事ができた。しかし、それ以上の事は何も分からない。
「さぁ、アドバイスはここまでです。本来、強くなる事は焦っても仕方がありません。じっくりと育んでいく事が大切なんです」
「そうそう。私達だってここまで強くなるのにどれだけの時間が掛ったりしたか。……ところでアリシアは、召喚されてからどれくらい経ったんだ? やっぱしばらくの間、戦力が上がらないから焦ってきた感じかい?」
そんな質問に、私は正直に答えてしまった。
……そう、本当に馬鹿正直に答えてしまった。
「どれくらい経ったのかしら? 確かギルドポイントって毎日貯めると十日でガチャが一回引けるのよね? それがまだだから……一週間くらい?」
そう言うと、二人は表情が固まってしまった。
口をポカンと開け、目が真ん丸くなり、理解できないと言わんばかりにカクッと首を横に曲げる。
「え? ちょっと言っている意味が分からないんですが、それは一週間で戦力30万まで上がったという事でしょうか……?」
「ええ。そうだけど?」
リキュアの問いに答えると、今度はカルルが取り乱し始めた。
「はあああ~!? ありえないでしょ! 戦力30万って言ったら普通、数か月は掛かる道のりだよ!! 私達だってここまで強くなるのに一年以上掛かったりしてるんだからね!」
「えぇ!? でもそれはマスターが育成素材を集めるのが上手いからであって、私が凄い訳じゃ無いのよ? それにルミルは私よりも後に加わったのに、もう私の戦力を追い抜いちゃったし……」
すると今度はリキュアが震えた声で話しかける。
右手は頭痛を堪えるように額に当てて、左手ではストップストップと私を止めるようなポーズだった。
「オーケーオーケー分かりました。あなたの主様やそのルミルさんって子が規格外で、あなたがその二人に板挟みにされているという事実は理解しました。なるほど、それは確かに焦るかもしれませんね……」
眩暈を堪えるようなポーズのまま、さらにリキュアは続ける。
「ですが! はっきり言ってそんなのは異常ですから! 例外中の例外ですから! そんなガチャ娘聞いた事すらありませんから!! 戦力って基本的に、もっとじっくり徐々に上げていくものですから!!」
……ずっと聖母のようなリキュアに諭されてきた私だったけど、もしも一矢報いるとするならば、ここまで取り乱した結果を作った事こそが私の成果だと言えるのかもしれない……
いや、別に戦っている訳じゃないけど。私、教えてもらっている立場だけど……
そんなこんなで、二人が落ち着いた頃には大分時間が経っていた。なので、迷惑を掛けないためにもそろそろお開きする事にした。
「それじゃあ今日はここまでにしておくわ。二人共、色々と教えてくれてありがとう!」
「おう! ……なんか最後にぶちかましてくれたような気がしないでもないけど、頑張ってな!」
カルルはそう言って丘から飛び降り、リキュアと肩を並べて手を振ってくれる。
「アリシアさん、今あなたはとてつもないパーティーに身を置いているのかもしれません。もしかしたらこの世界の命運を変えるだけの偉業を成し遂げるような、そんな可能性すら感じます。どうか、自分を見失わないでくださいね」
そうして二人は私に背を向けて帰り始めた。
そんな二人の背中を見て、せっかくなので気になった事を聞いてみた。
「ねぇ、二人はなんのために、どっちがガチャ娘かのクイズをやっているの? それに正解するとどうなるのかしら?」
すると二人は足を止め、横顔から視線だけをこちらに向けて静かに言った。
「別に私達から始めた事ではありません。街の人々が疑問に思い、いつの間にか勝手に盛り上がっていただけですよ」
「そう。結局のところ、私達が本当に望んでいるのはそこじゃなかったりなんかするのさ……」
そう言う二人の横顔は、少し寂しさが滲み出ていたような気がする。それは夜が深まる事で強調された翳りによる気のせいか、それとも本当に心の奥底が反映された真実か……。今の私には、それを判断するなんて事は出来そうもない。
はたして最後にぶちかましてくれたのはどちらなのか。私は最後に見た二人の寂しそうな表情が、どこか脳裏に焼き付いてしまうのだった……




