「あたしの残りの魔力、全てを注ぎ込む!」
「う~~~りゃりゃりゃりゃりゃ!!」
アリシアが一気に三階まで駆け上がっていく。そして勢いのあまり、ルミルの頭上を越えて大きく跳び上がっていた。
丁度そこへ鳥の魔物が降下してきて、アリシアは流れるようにその魔物を切り伏せる。そしてそのままクルリと空中で一回転して、綺麗にルミルのそばに着地を決めていた。
「ルミル、私が鳥の魔物をなんとかするから、あなたは心置きなくキングゴーレムを叩きなさい!」
「うん。でもアリシア一人で大丈夫? 相手は飛んでるんだよ?」
「まっかせなさ~い!」
アリシアはなぜか方向を変えて、城の右側へと走っていった。
この城には四本もの長い塔がそびえ立ってる。左右に二本ずつ、手前と奥に高く伸びていた。
アリシアはその右側の塔へと駆け上がっていく。そして塔の見晴台のようなスペースに手をかけ体を固定すると、反対側の塔へ目を向けた。
「行っくわよ~!」
ギュン! とアリシアが塔を蹴り宙を滑った。逆側の塔へと跳んだのだ!
ズバッ! その際に翼を広げて滑空していた魔物を一匹両断する。そんなアリシアは何事も無かったかのように左側手前の塔に到達して悠々と風を浴びていた。
「うん、連続で行けそうね。必殺、無限刃空中バージョン!!」
再びアリシアの姿が消えた。いや、そこからはもう姿が見えるという次元ではなかった。
銃弾のように発射されたアリシアは一筋の線になり、また反対側の塔へと飛び移る。それを何度も繰り返し往復を始めたのだ。
その光景はさながら銃撃戦のようだった。そびえ立つ四本の塔にそれぞれスナイパーがいて、反対側の相手に狙撃しようと銃弾を走らせる。そんな攻防が繰り広げられているのではないかと錯覚するほど、四本の塔からは弾道のような線が描かれていた。
――ズババババババッ!!
塔の間を飛び回っている鳥の魔物がみるみるうちに切り刻まれていく。アリシアが塔を往復する際に魔物を切りつけているのだ。そのスピードはまさに弾丸だ。
左手前の塔から右手前の塔へ。
右手前の塔から左奥の塔へ。
左奥の塔から右奥の塔へ。
右奥の塔から左手前の塔へ。
自由自在に空中から四本の塔を往復するアリシアは、時に高さを調整しながら魔物に襲い掛かる。そんな次々と落下していく魔物には哀れみを、そしてアリシアには畏敬の念すら僕は感じていた。
そんな往復行動によって一分もしないうちに鳥の魔物は激減し、残った数匹は混乱したように彼方へと逃げていく。そんな様子を僕の隣にいるリリー先輩は青ざめながら見つめていた。
「な、なんなのスピードは……。本当に同じガチャ娘!?」
リリー先輩は唖然として、ケイトもまた目を見開いて驚愕していた。
「あは♪、流石アリシア!」
ルミルにとっては正に好機。アリシアの勢いに乗っかるよに、その足を踏み出した!
タン、タン、タンとステップを踏むように外壁を蹴りさらに上へ登っていく。ルミルの体はまるで重力が半減したかのように身軽だった。
震魂。それは魔力を自身に纏わせ能力を強化するルミルの特技。それによって脚力も向上して跳躍力も上がっていた。
ルミルはついに城全体における中央の建物に辿り着く。それはさながらキングゴーレムの顔面と言える部位だった。
その建物を踏みつけ、ルミルは大きく跳び上がる。先ほどまでアリシアが飛び交っていた高さまで到達すると、手に持つハンマーを振り上げた!
「あたしの残りの魔力、全てを注ぎ込む! 『爆壊!!』」
ドクン!
掲げるハンマーから脈打つような鼓動を感じた。その影響か、振り上げたハンマーは魔力を帯び、一回りも二回りも大きく見える!
高さに応じて攻撃力を上げる落雷のハンマーに、全身強化の震魂。そこへ爆発的な破壊力を生む爆壊。
これがどれだけの規模を吹き飛ばすのか、想像に難くない。
「リリー先輩伏せてください! 巻き込まれます!!」
「私がお二人をお守りします!!」
僕とリリー先輩はその場に伏せ、ケイトは僕達の前で魔力で作った結界のようなものを張り巡らせてくれた。
「全身全霊、全力全開! ぶっ潰れろおおおお!!」
ついにルミル渾身の一撃が中央の建物に振り下ろされた!
その瞬間、耳に届くのは爆弾が爆発したかのような重低音。続いてバキバキという石が弾ける炸裂音。
身を伏せた位置からでも見えるのは、巨大な城が歪な形にひしゃげ曲がる異様な光景である。陥没し、折れ曲がり、倒壊する。そんな解体作業の一部始終のような光景であった。
そう、例えるなら粘土を使って自分の顔くらいのお城を作ったとしよう。その粘土のお城に本気でゲンコツを振り下ろしたらどうなるだろうか?
中央はベッコリと窪み、両サイドの塔は窪んだ中央に向かって折れ曲がるだろう。今のキングゴーレムはまさにそんな状態だった。
中央部分はまさに全壊して、両サイドにそびえる四本の塔はバランスを失い中心に向かって傾いていく。そしてその重さに耐えきれずに少しずつ崩壊して、倒れながらバラバラになっていく。
「ルミル!」
塔の窪みに手と足を引っかけてぶら下がっていたアリシアが、崩壊して足場を無くしたルミルを空中で抱きしめていた。
崩れ落ちる瓦礫を足場にして、なんとか飛び移りながらも落下していく……
地表は崩れ落ちた衝撃により粉塵が舞い上がり、一寸先も見えない状態にまで視界が悪い。それでもケイトが貼ってくれている結界のおかげで息苦しさは感じなかった。
ただただ瓦礫が落下して地面に突き刺さる音や、崩れた岩と岩がぶつかり合う衝撃音が生々しく聞こえてくる。
ズウゥン、ズウゥンと落石のような音が、途中からガラガラ、ガラガラという小さい音へと変化して、最終的にはパラパラ、コツンコツンという小粒が転がる音にまで治まった。
風によって視界が晴れていくと、そこにはルミルを庇うようにして倒れ込むアリシアの姿があった。
「ゲホ、ゲッホ! うぅ~ケムいわぁ~……。ルミルは大丈夫?」
「うん。なんともないよ。助けてくれてありがとね」
どうやら二人は無事のようだ。そんな二人の元へ僕は駆け寄った。
「二人ともお疲れ様です。痛い所はありませんか?」
「うぅ~……、ご主人オンブしてぇ。怪我は無いけど魔力がすっからかんになってもう動けない……」
もう完全にへばっているルミルを微笑ましく思いながら、言われた通りにオンブをしてあげた。
お姫様抱っこは腰が痛くなりそうだから無理だけど、オンブくらいなら力のない僕にもできそうだ。ルミルはちっさいしね。
――ゴトゴト、ガタン!
不意にキングゴーレムの瓦礫が動き、崩れた破片が吹き飛んだ!
まだ生きているのかと、僕もリリー先輩にも緊張が走る。しかし――
「た、助かったぁ~。主様しっかりしてください。出られましたよ!」
そこから顔を出したのは複数の男女だった。あれは、僕達よりも先にここへ来た冒険者のパーティーか!?
いち早く理解したリリー先輩は手を貸そうと瓦礫を駆け上がっていく。僕はルミルを負ぶっているのでそんな事はできず、僕の護衛のためにアリシアもその場で待機となっていた。
どうやら彼らは僕達よりも先にここの探索を始め、そして案の定入り口が塞がった事で出れなくなり、迫りくる壁に取り込まれてしまったとの事だ。
けれどガチャ娘は必死になって主を庇い、なんとか今まで取り込まれないように踏ん張っていたらしい。僕達がすぐに来た事が幸いして、なんとか全員生きて帰る事が出来そうだ。
それぞれのガチャ娘が自分の主を支え、僕達は列になってロック村へと戻っていく。そんな中で、ルミルは僕に話しかけてきた。
「ご主人、あたし頑張ったよね……」
なんだか眠くてウトウトしているような声だった。
まぁ魔力を使い果たしたらしいので無理もないんだろうけど。
「ん? そうですね。今日のルミルさんは大活躍でしたよ」
「それじゃあさ、たくさん褒めてほしいな……」
いつになく甘えるような口調でそう言ってくる。どうやら眠くて思考回路がガバガバになっているらしい。そんな普段は絶対に言わないような発言に一瞬耳を疑ってしまった……
「ルミルさんは偉いですよ。僕の自慢であり誇りです! これからも頼りにしてますよ」
「えへへ~♪」
完全に緩みきった頭なので、警戒心も無く素直に嬉しそうに声を上げている。いつもツンツンしたりツッコミを入れてくる彼女とは正反対なので、なかなかに可愛らしい。
「ご主人様にだけだから……。あたしの力は、全部ご主人様のためだけに使うからね……。ムニャ……」
そう言うとルミルは完全に寝息を立てて眠ってしまった。なんと言うか、遊び疲れて眠ってしまった娘を背負う父親というのはこういう気持ちなのだろうか?
「ほらね? 言ったでしょう。ルミルはマスターの事慕ってるって」
アリシアがニヤニヤしながらそう言ってくる。
けどこれって、起きた時に今の発言で弄ったら殴られるやつじゃ……?
「とりあえずアリシアさん、疲れたんで背負うの変わってくれません?」
「いやいやいや! なんでよ!? ここはしっかりと村までオンブして好感度稼ぐとこでしょ!? どんだけ体力無いのよ!?」
いや分かってるよ? 僕だってマスターとしてこれくらいはやり遂げたいさ。けど今日はずっと歩きっぱなしで足がもう悲鳴を上げてる。なんなら引きこもり生活のせいで足が筋肉痛にもなってきてる!
「前にアリシアさんをオンブした時は街まで運べたんだけどなぁ……」
「はっ!? それってオンブするなら私の方が気合が入るって事!? も~マスターったら~♪」
あ、そうか。アリシアの時は街が近かったけど、今日は遠い上に道がゴツゴツしてるから足にくるんだ。納得納得!
「むにゃむにゃ……私の……ご主人様……」
仕方ない。ここは耳元で聞こえてくるルミルの寝言を馬力に変えて頑張るとするか。
そうして僕達は村を目指して歩みを進める。今回はルミルの成長と共に確かな絆を感じる事が出来たような気がした。
元の世界では仲間としてここまで密接な関係を築いた相手なんていなかった。この世界では魔物という恐ろしい存在がいて、決して平和と呼べる日常ではないけれど、それでも今この時だけは敵がいるからこその仲間を温かく感じられるのだった。




