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「ちょ、まるで私が状況を理解していないみたいじゃない」

「ところでリリーさんとケイトさんは、どうして他の冒険者と一緒にギルドへ向かわなかったんですか?」


 僕達が一緒になってギルドへ向かう途中で、そう聞いてみた。

 普通だったら緊急クエストを請け負うために、できるだけ早くギルドへ向かうはずだ。なにのこの人は僕を起こすことを優先してくれた。

 人数にしてもそうだ。あの宿には僕達以外に三組の冒険者が泊まっていた。その人達に着いて行けば四人パーティーが組めたはずなのに……


「だって私達まで出て行ったら、ジンはあの大部屋で一人ポツンと目が覚める事になるでしょう? なんだか可哀そうだったから……」


 優しいなこの人! なんだよお姉ちゃんタイプか!?


「それにあの部屋に泊まっていた人達とは別に親しい仲でもなかったしね。寄せ集めの集団に加わっていざって時に裏切られるのはごめんだわ……」

「なるほど。では僕とだったら一緒に組んでもらってもいいと?」

「なんの面識もない連中よりかはマシね。でもまずはギルドで詳細を聞いてから決めた方がいいと思うわ」


 ごもっとも。さすがに先輩風を吹かせるだけあってかなり冷静に判断しているようだ。少なくてもSRの数でマウントを取りながら威張り散らすような連中より好感が持てる。

 ……それでも、もしこの人が運よくSRを何度も引き当てていたらどうなっていたんだろうか。

 そんな事を考えながらギルドに到着した。


「すみません。あの遠くに見えるお城について何か情報を教えてください」


 さっそくギルドの受付のお姉さんに聞いてみた。


「今のところは何もわかっていませんね。こんな出来事は前例もありません。なので現在は緊急クエストとして取り扱っており、すでに何人かの方々が調査に向かわれています。どんな魔物が関与しているのかも分からないので推奨戦力もあてになりません」


 う~む、これはどうすべきか……。何もかもが未知数でかなり不気味だな……

 どうしようかとリリーに視線を向けると、彼女もまた迷っている様だった。


「とりあえずクエストを請け負って城の入り口まで様子を見に行かない? ほら、出入り口の確保で魔物と戦っていれば、参加報酬くらい貰えるかもしれないし……」


 セコッ! リリー先輩セコッ!! それが先輩風吹かせてた人の提案か!


「そうですね。何もかもが不明な状況です。出来る範囲で無理なく行きましょう!」


 そして僕も意外にセコかった……。だって仕方ないじゃないか。まだこの周辺の魔物には慣れてないし、敵も強くなってきたのに緊急クエストとか何が起こるか分からないし!


「そうよね。安全第一でいきましょう。死んじゃったら意味ないし!」

「出入口の確保も立派な仕事ですよね。まずはこうした経験の積み重ねが大事なんですよ」


 僕達がビビッて消極的な案を提示している間、ガチャ娘達は黙ってジト目を向けてくるのだった……

「ところでリリーさん。少し質問したい事があるんですがいいですか?」


 あの巨大なお城に向かう道中、僕は歩きながらそう持ち掛けた。


「あら、なにかしら?」

「もしも強者が弱者をバカにしていたとしたら、リリーさんはその者を助けたいと思いますか?」

「はぁ? そんなの当然じゃない。私は弱き者を助けるために冒険者になったんだもの!」


 うんうん。すれは素晴らしい! やっぱりこの人なら期待できる!


「ではその周りから虐げられている者に、『自分を使ってください』とお願いされたらどうしますか?」

「そうね……」


 リリーは少し考えてからこう答えてくれた。


「使ってあげるわ。そもそも弱者とか能力が低いとか、そんなのは教育や使い方次第でしょう。私ならその者に適した役割を与えてあげられるわ!」


 やっぱりこの人は損得よりも人情を優先するタイプだと思う。しかも上に立つ者としての心構えがしっかりとしている。

 これ説得すれば絶対ノーマル使ってくれる人柄でしょ!


「いやはや、リリーさんはとても優しい方なんですね」

「よしなさい。このくらい人として普通よ。ところでなぜそんな事を聞いたのよ」


 僕はスっと頭を下げ、手のひらを差し出し、状況を受け取ってもらうような意味合いで続けた。


「リリーさんにはぜひガチャ娘のノーマルを使っていただきたいですね。ノーマルの現状が今言った状態なので」

「……」


 僕が顔を上げるとリリーはキョトンとした表情で言葉が出ないという感じだった。


「しかもSRにバカにされる理由が人間に使ってもらえないという理由らしいんです。すぐに売却されるから笑い者にされるらしいですよ?」

「……」


 リリーはクルリと後ろを振り向き、アリシアとルミルの顔を伺う。それに対して二人はコクコクと何度も頷いていた。


「いや~リリーさんが理解ある人で助かりましたよ。次にガチャを引くときはぜひノーマルの加入を検討して――」

「ちょ、ちょっと待って! いやホント待って……」


 頭痛を堪えるように自分の指を額に当てて、すごく項垂れている彼女。けれどすぐにその顔を上げた。

 ……その青ざめた顔色は、初めての飲み会に参加して二日酔いを経験した新入社員のようだった。


「……仮に今の話が本当だとして、全てのノーマルがそうとは限らないわよね? ガチャ娘なんて今じゃ控え室に何万人も待機しているらしいじゃない。どれだけの規模が今の悩みを抱えているかは分からないでしょ?」

「まぁ、そうですね」

「次に、実力的に厳しい事もネックになってくるわ。私達だって遊びで魔物と戦っている訳じゃない。上を目指す限りは強力なガチャ娘を厳選する事になる」


 言っている事はそれっぽいが、こっちとしても簡単に引き下がる訳にはいかない。


「ですがさっき言ったじゃないですか。どんなキャラでも育成と使い方次第でどうにでもなるって」

「まさかガチャ娘の話だとは思わなかったからよ! こっちだって命掛けてる以上は強力なガチャ娘で構成したいんだってば」


 なかなか首を縦に振ってくれない。ならば僕も手段を択ばないぞ!


「そっかぁ。リリーさんは苦しんでいるならガチャ娘にさえ手を差し伸べる優しい人だと思っていたんですが、そこまで自分の誇りやプライドに固執する人だったんですね……」

「い、いや違うのよ? あくまでも激しくなる戦いに着いてこれるかどうかが心配なだけで……」

「そうですよね。いきなり失礼な事を言ってすみません。これからも自分のスタイルを守って頑張ってください」


 そう言って僕は出来るだけ寂しそうな表情を作りながら笑って見せた。そしてアリシアとルミルの所に寄っていき、肩を落としながらこう続ける。


「二人ともすみません。また認めてもらえませんでした。ですが僕は絶対に諦めません。二人のような虐げられるガチャ娘を一人でも減らすため、これからも説得をつづけていくつもりです。だからどうかこれからも力を貸してください。きっと分かってくれる人がいるはずです!」

「マスター……」

「ご主人……」


 二人も一緒になって寂しそうな演技で僕に合わせてくれる。


「リリーさん気にしないでくださいね。僕達は大丈夫ですから。いつかきっと、この事態の深刻さに気付いてくれる人が現れるまで呼びかけ続けるだけですので」

「ちょ、まるで私が状況を理解していないみたいじゃない……」

「二人とも頑張りましょう。僕だけは売却され続けた二人の気持ちを分かっていますから。みんなのために頑張ればいつかきっと認めてもらえるはずです。その時が来るまで正しい行いで訴えかけるのです!」

「あ~~~もう~~~分かった。分かったわよ! 私もノーマルを使ってあげる!!」


 ついにリリーが折れてくれた。いや~話の分かる人で助かったなぁ。


「だけど条件があるわ。一つは次にガチャでノーマルを引いた時、ちゃんと話を聞いて本人からその事実が明らかとなった時。二つ目はノーマルの実力が最低限の戦力になりうる事が証明された時よ! そしてその戦力の証明はジン。あなたのガチャ娘を見て判断するわ」


 なるほど。ここで僕の育成したアリシアとルミルがちゃんと戦力になる事を見せれば一つの条件はクリアになると。


「分かりました。戦闘になった時、ちゃんとうちの子をアピールしますよ」


 そう約束をして、僕達はようやくお城の近くまでたどり着いた。

 そのお城は、まさにゲームに登場する大きな建造物に見える。入り口に巨人でも入れそうな大きな門があり、中はどれだけ広いのか見当もつかない。

 レンガで作られたような色合いになっており、全体的に茶色の割合が多かった。


「……近くに魔物はいませんね」

「戦うような物音も聞こえないわね。先に到着したメンバーはもう中へ入ったのかしら?」


 その可能性が高いだろうな。もしかすると、その最初のパーティーが魔物を倒しながら進んだからここまで魔物と遭遇しないのかもしれない。


「どうしましょうか? 静かすぎてホントに不気味なんですけど……」

「そうね。ちょ、ちょっとだけここで様子を見ない?」


 僕達は割と本気でビビっている。

 なので、心の準備も兼ねて、ここで少し様子を見る事にするのだった。

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