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「このオッペェは……アリシアさんですね!?」

「さぁ~て、そろそろ温泉にでも入るかな~……」


 なんだかやたら絡んでくるリリーティアから逃げるため、僕は立ち上がる。するとアリシアとルミルも一緒になってついて来た。そうして僕たちはみんなで温泉へと向かった。


「ケイト、ここはどんな温泉なのかしらね~♪」

「お背中お流ししますよ。リリーティア様」


 そしてなぜか逃げようとしている二人も僕の後ろに着いてきていた……


「ではマスター。もし先に上がっても私達が上がるまでちゃんと待っててよね~」


 アリシアにそう言われながら脱衣所で別れる。とりあえず今日はもう何も考えずに疲れを取る事にしよう……

 そうして僕はスッポンポンになって温泉への扉を開け放った!


「……」

「……」

「……」

「……」


 するとそこにいるのは四人の女性だった。今の僕と同じように、扉を開けて入ってきたかのように横に並んでいた。

 これはもしかして伝説の『混浴』というやつではなかろうか? この宿が安い理由が、一つの部屋での雑魚寝である事。その他に一つの温泉を混浴で使う事なのではなかろうか?

 まぁそれはともかくとして、今鉢合わせとなっている彼女達が誰なのかは分からない。というか頭が働かない。完全に思考停止になっている。

 あれだ。人っていうのは個人を判断するのに、服装やらその色とかで判断する場合がある。だから服装を取り換えると、途端にどっちがどっちだか分からなくなったりする訳だが、今が正にそんな感じなんだと思う。

 四人の女性が全裸で僕と向き合っている。だから僕は彼女達が誰なのか判断出来ずにいるんだ。

 顔をちゃんと見れば分かるのかもしれない。けれど、僕の視線は彼女達のオッペェに集中していた!

 彼女達はうまい事に背の順に並んでいる。一番小さい子は小柄な少女で、それに比例してオッペェも小さかった。貧乳とも言う。


「ご主人……なんでここにんの!?」


 オッペェがしゃべった。どうやらこの貧乳はルミルらしい。

 その隣は僕と同じくらいの身長の子だ。オッペェは普通くらいか!? あくまでも僕の基準での普通なので、そこら辺は議論をするとどのくらいが普通なのか争いが起こる可能性がある。あまり大きすぎず、スレンダーな方が綺麗に思える僕にとっての普通サイズだ。


「マ、マ、マスター……あの……その……」


 ふむ。この声はアリシアだ。つまりこの普通サイズのオッペェはアリシアか……

 その隣は僕よりもすこし背の高い女性だ。彼女は中々大きいオッペェだと思う。これまでの情報から推理すると、このオッペェはリリーティアだと思われる。彼女は完全に固まっていて声も上げなかった。

 その隣はかなり大きなオッペェだ。爆乳と言うのはこういう大きさなのだろう。消去法でいくなら、このオッペェはリリーティアのガチャ娘、ケイトのはずだ!


「……ねぇ、いつまで人の胸ガン見してんの!!」


 ルミルと思われるオッペェがそう言った。マズい、これはかなり怒っている可能性がある。なんとか誤解を解かなくては!


「待ってください! 何か勘違いをしているみたいなのでちゃんと説明をします。僕はどっちかと言えば胸よりも太もも派なんです。信じてください!」


 しかしその小さいオッペェが飛び上がり、僕の目の前で一回転をする。


「いいから早く出てけぇーー!!」


 凄まじく切れのある空中回し蹴りが僕の顔面にヒットする。あんなに小さなオッペェとは思えない威力に僕の体は吹っ飛ばされてしまった。

 更衣室まで飛ばされた僕は股間を隠しながら起き上がる。するとアリシアと思われるオッペェが静かに扉を閉めるところだった。そのオッペェは、なんだかかわいそうな者を見るような哀れみの表情に見えるのだった……

「マスター。女性陣はみんな上がったわよ~」


 アリシアがそう言って僕に近付いて来た。

 結局、他の冒険者はこの温泉が混浴だという事を知っていて、男性と女性が入る時間帯を暗黙の了解で決めていたらしい。

 ……なら僕が入ろうとした時に教えてほしいものだ……


「ところで、ルミルさんの様子はどうでしたか?」

「特に何も。『駄主人はヘンタイだ』って盛り上がってたわ」


 ……なんで初対面のリリーよりも仲間としての親密度が高いはずのルミルが僕の悪口で盛り上がるんだよ。おかしいだろ!

 けど、だったら僕が思っている以上に元気があるみたいだ。


「できればこのままルミルさんを気にかけてやってください。アリシアさんには心を開いているように見えるので」

「……それって、あのゴーレム戦から元気がないから?」


 アリシアが僕の顔を覗き込むように見つめてきたので、そのままはっきりと頷いて見せた。

 するとアリシアはクスクスと笑い始める。


「マスター優しい~♪ ちゃんとルミルの事も考えてるんだ」

「それが僕の役目ですからね。というか、戦闘には参加できない分、こういうメンタルケアくらいしかやる事がないんですよ!」


 僕がそう言いつくろってもアリシアはニヤニヤしたままだ。


「マスターが直接ルミルとおしゃべりしてあげればいいのに。別にルミルはマスターの事を嫌ってる訳じゃないと思うわ。悪口でも何でも、マスターの話題だけは絶対に喰いついてくるんだもの」


 ……それは嫌っていない理由にならないんじゃないか? というか僕の悪口を止めてくれませんかね?


「とにかく、ルミルもマスターの事を慕ってるんだから避けてちゃダメよ?」


 そう言ってアリシアはあの大部屋に戻ろうと立ち上がる。

 別に僕はルミルを避けている訳ではないんだけどね。


「それと、私の相手もするのを忘れない事! 構ってくれないと、その……寂しいんだから」


 そのまま「キャー」とか言いながら逃げるように去っていく。

 やれやれ。僕が口を出した方がいいのか、出さない方がいいのか。その境界線が全然分からん。けど、決して今の関係性は悪いもんじゃないと信じたい。

 そう頭を掻きながら、僕は今度こそ温泉に入るためにのれんをくぐるのだった。

 ――六日目の朝。


「ジン、起きて。いつまで寝ているの!」


 体を揺すられて目が覚める。なんだか凄く良く寝ていた気がした。

 段々と意識が覚醒すると、そこには僕の顔を見下ろす女性が映し出された。


「美女に起こされるなんて僕は桃源郷に迷い込んだのか……?」


 ふとそんな言葉を口にするが、よく見ると昨日出会ったばかりのリリーだった。


「な、何バカな事言ってるのよ! いいからさっさと起きて!」


 どこか照れたように目を合わせない彼女に急かされて、僕はようやく身を起こす。

 時間はすでに八時を過ぎており、僕が爆睡していた事を物語っていた。


「ふぁ~~あ。どうかしたんですか?」

「どうもこうも、外は大変な騒ぎになっているのよ。早く来て!」


 どうもリリーの様子を見ると本当に何かが起こったようだ。僕は『冒険者』としてのスイッチにすばやく切り替えてリリーの後を追う。

 リリーとそのガチャ娘ケイトは大部屋から廊下へ出て、そのまま外を見渡せる庭に出た。


「アレを見なさい」


 僕は一瞬なんて言っていいのか分からなかった。僕の目には大きなお城が映っていたのだから。

 厳密に言えば、この庭から見えるのは遠くにそびえ立つお城の屋根だ。よくゲームで勇者が訪れるお城のように、先端がスピア状になっているトゲトゲしい屋根が四本も伸びている。そんなお城の上部が遠くに見えていた。


「なんですかアレは!? え、昨日からありましたっけ?」

「無かったわね。アレは一夜のうちに現れたのよ。だからここに泊まっていた冒険者は我先にとギルドへ向かい、緊急クエストとしてあの城に向かって行ったわ」


 なるほど。こんな大変な騒ぎの朝に爆睡していたなんて、なんて間が悪いんだろう……

 とりあえず――


「僕達もギルドに向かいましょう。……って、うちのガチャ娘知りませんか?」

「そう言えば中庭で訓練してたから、今頃朝風呂に入ってるんじゃないかしら? 中庭からじゃあのお城は見えないし」


 そうか。なら急いで温泉に向かって二人を回収しなくては! 急ぐぞぉ~!!

 僕は駆け足で温泉に向かう。そして頭の中でシミュレートをする。ここでエッチなマンガなら、勢い余って温泉に突入し、ラッキースケベという不可抗力で女の子の裸を拝んじゃったりする訳ですよ。

 ですが僕はもう二十五歳。ちゃんと冷静に考えてそんな事態は回避しなくてはいけないのです!

 温泉に突入するどころか、その手前の脱衣所にも入っちゃダメ! ちゃんと外から声をかけて早急に出てきてもらわないと!

 そう考えながら温泉への角を曲がろうとした時だった。

 ――ドーーン!


「きゃあー!?」


 角から出てきた女性とぶつかり、僕は彼女に覆いかぶさるように転倒してしまった。

 これはなんというハプニング! 神ですら見通すことが出来ないアクシデントだ!

 起き上がろうとする僕だけど、手に柔らかい感触を感じてついモミモミしてしまった。


「このオッペェは……アリシアさんですね!?」


 間違いない。昨日の混浴で見たばかりなので記憶と合致する。

 それにしても、太もも派の自分としては女性の胸にダイブするというアクシデントよりも太ももに挟まれる方が良かったなぁ。いや、そんな事を考えている場合じゃないか……


「マ、マスター……あの、そのぉ……」


 ふっ、その声。はやりアリシアか。僕の推理は完璧だな。

 それにしても段々着崩れた浴衣から見える肌が赤くなっていく。もしかしたらのぼせているのかもしれない。


「この駄主人は……人の顔じゃなく胸に話しかけんのを止めろぉーー!!」


 ルミルの怒声が聞こえたかと思うと、僕は頭を掴まれてそのまま力任せにぶん投げられた。

 しばしの間空中を飛び、ああ、これは床に叩きつけられ転がるまでの覚悟を決める時間なんだな。と、勝手に理解した僕は、ただただ自分の行いを悔い改めるのだった……

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