「マスター、あの人達まだ着いてくるわよ。どうするの?」
更新が遅くなってすみません。
諸事情で時間が取りにくく、まだしばらくは更新が遅くなると思います。
* * *
「それではクエスト報酬です。お疲れ様でした」
僕達はなんとか今日のデイリーを終え、報酬を受け取る。今回も報酬は全て育成素材だ。
外はもうすぐで日が落ちようとしていた。
「では、このロック村でもトレードをして育成素材を集めますよ。二人は客引きをお願いします」
そうしていつものように行商人の演技を使ってこの村の冒険者とトレードを行った。
最初のSR素材はN素材16個。次のトレードでは15個と一番多く出してくれた人とトレードをして、今日は全部で70個集まった。
ギルドの報酬で5個貰っているので合わせて75個になる。
……ちなみに、R素材は売れたり売れなかったりする訳だが、この村では全然売れなかった。
まぁ、ノーマルより一つ上のレアとはいえ、結局SRしか使わないこの世界だ。R素材を欲している人なんてほんの一握りなんだろうから仕方ないんだけどね。
「では今日稼いだ素材を二人に配りますよ。レベルができるだけ均等になるように使いますね」
そうして僕は、N素材をまずアリシアに使用した。
【レベル100に到達しました。ここからさらに上げるには上限解放の秘薬が必要になります。使用しますか?】
そんなメッセージが表示された。
ふむ。そう言えばその時になるまでずっと溜めてたなぁ。必要な分だけ使うとするか。
確か、レベル100を超えると20上げるごとに一つ上限解放の秘薬が必要になったはず。そうやって最大200レベルを目指すのが育成のセオリーみたいだ。
とりあえずここはメッセージに従ってコマンドを選択する。
名前 :アリシア(覚醒)
レアリティ:HN(三段階目)
レベル :115
体力 :P
攻撃力 :Q
防御力 :P
素早さ :O
精神力 :P
探知 :P
推定戦力 :18万7500
名前 :ルミル
レアリティ:HN(三段階目)
レベル :115
体力 :P
攻撃力 :O
防御力 :P
素早さ :Q
精神力 :Q
探知 :O
推定戦力 :12万2500
上限解放の秘薬 5個 → 3個
おお!? レベル100を超えた辺りから戦力の伸びが大きくなったような気がする。とりあえず今日はここまでにして、もう宿を取ろう。
そう思ってその場を立ち去ろうとした時だった。
「あなた、ノーマルを育成しているの……?」
そこには一人の女性が立っていた。黒のロングヘア―にヘアバンドをして、衣服の上から肩当やら胸当てやらの軽装を付けている。
袖が無かったり、下はホットパンツだったりと露出はあるけれど、関節部分にはしっかりと防具を付けているゲームの中の女性冒険者という風貌だった。
年齢は……アリシアよりも上で、成人したかどうかくらいだと思う。かなり綺麗な顔立ちをしているが、そんな彼女は僕を怪しむような目で見つめている。
そしてその隣にもう一人。同じくらいの背丈で茶髪でボブカットの女性も並んでいた。魔女のような恰好をして杖を所持している彼女は恐らくガチャ娘だろう。
「ええ、そうですけど、それが何か?」
「ノーマルなんて使い物にならないわ。やめておきなさい」
またこの問答か。まぁ、これからも旅を続けていけば言われ続けるんだろうから仕方ないんだけどね。
「……」
ルミルは拳を握ったまま何も言わない。いつもなら文句の一つでも言い返しそうなんだけど、どうもゴーレムの群れと戦った時の自分の行いがまだ後を引いているように思えた。
……トレード中の客引きでも元気がなかったしなぁ。
「ノーマルを使うかどうかは人の勝手ですよ。では、僕達は宿を取るので」
「ちょ、待ちなさい! こっちは親切心で言ってあげてるのよ!!」
そうして僕達は宿に向かう。ロック『村』とはいえ、周りには多くの家屋が並び、その中にはギルドも、道具屋も、お食事処もあったりする。ちょっと広めの田舎のような雰囲気だった。
「つまり、いかにノーマルを使わずにSRを引き当てるかが重要であり、それを貫く事によって自分の誇りを証明できるのよ! さしあたっては――」
ロングヘアーの女性とそのガチャ娘はなぜか着いてくる。そして僕の後ろから一生懸命に演説を繰り返していた。
「マスター、あの人達まだ着いてくるわよ。どうするの?」
アリシアがコソコソと僕に耳打ちをする。
僕は「とりあえず急いで宿に逃げ込みましょう」と言ってその足を急ぐのだった。
そしてようやく、この村に来た時から目を付けていた宿に到着する。
「すみません。三人で泊まりたいんですが」
「はいよ。明日の朝までで3000インね」
そう、この宿は異様に安い。僕のようなお金に困っている冒険者にとっては救いなのだ!
「では、私達もこの宿にしましょ。こっちは二人よ」
ロングヘアーの女性が僕の隣で平然と受付を済ませている……
「ちょっと待て~い! なんでここまで粘着するんですか。おかしいでしょ!!」
「だってあなた、全然私の話を聞いてくれないじゃない。それは私の誇りが許せないわ!」
いやいや、そんな事言われてもどうしようもないでしょうよ……
「話はちゃんと聞いてますよ。けどノーマルを使うなと言われても僕はすでにこの子達を育成してますし、今更手放せる訳ないでしょう……」
「そこで妥協してしまったら誇りを失う事になるわ! 私のようにSR一人でも頑張るのよ!!」
結構ムチャクチャな事言うなぁこの人……
「その誇りってのを大事にする人はそうすればいいけど、僕は気にしないんですよ。それじゃダメなんですか?」
「けどそれだと、他の冒険者から認めてもらえないわ! 強大な敵が現れた時にパーティーを組んでもらえなくなるもの」
「う……まぁそれは確かに困りますが……」
これからもっと敵が強くなるのは分かっている。時には他の冒険者と協力しなくちゃいけない時が来るかもしれないとは思っていた。そんな時にいちいち差別されるのは面倒なんだよなぁ……
「でしょう? どうやらあなたとはまだまだ議論の余地がありそうね。ではまた話し合いましょう!」
そう言って女性はスタッフに連れられて部屋へ向かって行ってしまった。結局まだ名前も聞いていないんだけど……
とりあえず僕達も部屋へと案内されて、そこでゆっくりとする事にした。
……しかし――
「お部屋はここになります。空いているスペースをお使いください」
「……えぇ~……」
そこは大部屋だった。そして中には何人かの冒険者とガチャ娘がすでに陣取っていて、自分達のスペースをすでに確保している。
つまりこれって大部屋で雑魚寝しろって事!? だから他の宿よりも安かったのか!
「な、な、なんなのよこの部屋は!?」
見るとさっきの黒髪ロングヘアーの女性が驚きのあまり立ち尽くしている。
そして僕と目が合うとズンズンと詰め寄ってきた!
「あなた、なんて所に私を泊めたのよ!!」
「いやいやいや、勝手について来たのはそっちでしょう!? 僕だってこんな部屋だなんて知らなかったんですよ! あなただってこんな安い宿なら普通チェックするでしょう!?」
そう言うと彼女はなぜかフッと笑い、肩にかかった髪をなびかせた。
「確かに私はこの村に来て数日を過ごすけれど、最初からこんな宿は眼中になかったわ! 例えば3000インで泊まれる宿と、4000インで泊まれる宿があるのなら、それは間違いなく高い宿の方が良質に決まっているの。あまりにも値段が違いすぎるなら考えるところだけど、大差無いのであれば高い方を選ぶのが冒険者としてストレスを減らすコツよ!」
ドヤッ! とキメ顔をする彼女だが、結局内容をチェックすればいいだけの事だったのでは……?
いやまぁ、僕も値段だけ見て決めたので偉そうなツッコミは入れられないのが辛いところだけど……
「そんな宿を合わせるほど僕にレクチャーしてくれなくていいですよ。なかなかおせっかいな人ですね」
「当然よ! 年下の後輩冒険者にレクチャーするのは当たり前だわ!」
そうか。面倒見のいい人なんだな。
……ただ、何か勘違いしてそうな気がする。
「年下って……失礼ですけど何歳なんですか?」
「女性に年齢を聞くもんじゃないわよ」
いや結構メンドクサイな!!
「そうじゃなくて、僕は背が低いからよく間違われるんですが、これでも二十五ですからね?」
そう言うと女性はアワアワと震えだした。
「え……冗談でしょ……私よりも年上!?」
どうやら僕の予想通り、彼女は二十歳前後みたいだ。そして――
「え、ご主人って二十五だったの!? アリシア知ってた?」
「うん。童顔で可愛いわよね~♪」
なぜかうちの子達の方が盛り上がっていた……
「はぁ……とりあえず、こういう雑魚寝に慣れていない場合は隅っこの方がいいですよ。四方八方を知らない人に囲まれるよりはストレスが減りますから。幸いな事に四隅のうち一つだけまだ取られていないので、そこを使ってください」
すると彼女は申し訳なさそうに答えた。
「あ、あなたはどこを使うのよ……?」
「僕は壁に背を付けられる所を確保しますよ。隅と隅の間ですね」
そう言ってお互いに場所を確保する。
「ここに布団を並べるんでしょ? あたしは真ん中がいいな~」
「それじゃあ私とマスターが両脇になるわね」
そんな風に寛いでいると、黒髪ロングの女性がまた近付いて来た。
「その、ありがとう。気を遣わせたわね……」
「いえいえ。気にしないでください」
「確かに、なんだか年長者っぽい雰囲気があるわよね。紹介が遅れてごめんなさい。私はリリーティア。名前が長いならテキトウに短くしてくれていいわよ。こっちはガチャ娘のケイト。よろしくね」
いかにも魔法使いってコスチュームのガチャ娘が挨拶をしてくれる。どうもクールビューティーという印象だ。
「はい。よろしくお願いしますね」
僕達もそれぞれが自己紹介をして事なき終える。
なんだかんだで気にかけてもらえるというのはありがたい事かもしれない。面倒見も良さそうなので、決して悪い人ではないようだ。
「では、レアリティについて議論を続けましょうか!」
そう、なんだか面倒臭い人であることを除いては……
どうかこの出会いが僕にとって良いものになりますように……




