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「ただ売却されたりバカにされるために生まれてきた訳じゃないわ……」

「そこのガチャ娘、手を放しなさい!」


 大声でそう叫んだのは、僕にガチャチケットを渡してくれた受付の女性だった。


「ガチャ娘は主人に呼ばれたらまずは自己紹介が基本でしょう! 無礼にもほどがあります!」

「っ!?」


 セーラー服の彼女はやっと僕から手を放し、お辞儀をしながら挨拶を始めた。


「初めましてマスター。私はアリシアよ。どうかよろしくね……」


 なんだか覇気がない。やはり何か思い詰めているように見えた。


「彼女のレアリティはNノーマルですね。引き直しを選べば交代できますよ」


 受付のお姉さんがそう優しく教えてくれた瞬間だった。またしてもセーラー服の彼女……アリシアが声を荒げる。


「ま、待って! お願いだから話を聞いて! 私を使ってよ!!」


 しかし次の瞬間、受付のお姉さんを含めたギルド内のスタッフであろう女性全員が刃物を抜き、アリシアに突き付けていた。


「いい加減にしなさい。引き直すかどうかは呼び出した主人次第です。あまり聞き訳がないなら記憶を消して強制的に送り返しますよ!」

「う……」


 アリシアは動けずにいた。一歩でも動けば突き付けられている刃物で串刺しにされてもおかしくない。そんな状況だった。

 というか、ギルドのスタッフって武器を装備してるんだな。武器を抜く速さも尋常じゃなかったし、手慣れている感じがする。

 ……そうか。彼女たちもガチャ娘なんだ。冒険者を守るように寄り添うガチャ娘はみな、虹色のオーラが溢れている。ここのスタッフもよく見れば薄く虹色オーラが出ていることに気が付いた。

 誰に仕えているガチャ娘なのかは分からない。けれど、かなり洗練された実力者だという事は初心者の僕でも分かった。


「ま、まぁまぁ皆さん。僕は急いでいないし、少しくらい話を聞いても構わないですよ。だから武器を下げてくれませんか?」


 僕がそう言うと、スタッフのみんなはゆっくりと武器を納刀する。しかし鋭く睨みつける視線はアリシアに向けられたままだった。

 なんにせよ、とりあえず話を聞いてもいいかな。とりあえずは自己紹介をしたいのだけど、僕は女の子が苦手だ。だから、『演技』をする必要がある。

 僕はゲームやアニメが好きで、多くの作品に触れてきた。そしてその声を担当する声優さんにかなり関心を持ったものだ。

 そしていつしか僕もそんな声優に憧れるようになり、その真似をするようになったんだ。だから、少しばかり演技をするのには慣れていたりする。

 今ここでは優しいお兄さんキャラで対応するとしよう。口調は敬語のほうが色々と都合が良い。初対面の女の子にため口はハードルが高いしな……


「僕はジンといいます。それでアリシアさん。何か話したいことがあったんですか?」


 どっかの作品で見たお兄さんキャラになり切って話しかける。そうすることで女の子とも出来る限り普通に話せるようになるって計らいだ。


「えっと……確かに初回ガチャは引き直しが可能なんだけど、わ、私たちノーマルでもレベルを上げたら強くなるから! 役に立って見せるから、どうか私を使ってほしいの!!」


 真剣な眼差しでアリシアはそう言った。


「アリシアと言いましたね。言っておきますが主人が自分を選んでくれるような誘導的な発言は禁止ですよ! ジン様、どうかご自由に選んでいただいて構いませんので」


 受付のお姉さんはあくまでも公平に、僕の立場も考慮して立ち合ってくれているように思える。とは言え、僕もこの世界に来たばかりでどうにも分からない事が多い。もう少し話を聞いてもいいだろう。


「アリシアさん、どうしてそこまで必死なんですか? 何か理由があるんですか?」

「……理由も何も、私たちノーマルの扱いは酷いじゃない。毎日毎日ガチャ控室で笑い者にされているのよ!!」


 なぬ!? ガチャ控室とかあるの!? そう言えばさっき強制的に戻すとか言ってたし、呼ばれるまで待機する場所があるんだね。生々しいなおい……


「初回の引き直しは百歩譲って仕方ないにしても、その後のガチャチケットで呼び出されてもノーマルという理由で即売却! 控室に戻された時には決まってSR連中にバカにされて……」


 ガチャ娘の売却……さっき読んだマニュアルに書いてあった。自分の望まない子が出た場合、その子を売却することが出来るシステムだ。売却をするとガチャポイントが貯まり、それが一定数になるともう一度ガチャが引けるらしい。

 もしも手持ちをSRで埋めたいと思うのなら、それ以外を売却して少しでも多くガチャる機会を得るのは理にかなってはいる。……けど……


「わ、私は……ただ売却されたりバカにされるために生まれてきた訳じゃないわ……」


 アリシアは涙をこぼしていた。悔しそうに歯を食いしばって……

 そう、問題なのはシステムじゃない。ノーマルにも人格があり、意思があり、気持ちがあるという事だ。


「……分かりました。ではこの初回ガチャはアリシアさんで決定しますよ。このボタンを押せばいいんですよね?」


 僕は表示されている決定ボタンを押した。


「ちょっと待ってくださいジン様! 本当によろしいので――」

「いや~もう決定しちゃいましたよ。これからよろしくお願いしますね。アリシアさん」


 受付のお姉さんが確認をしようとしていたが、もう僕は決定を押している。すると本人であるアリシアさんも含めて、その場の全員が目を見開いて唖然としていた。


「……え? 本当に私でいいの……?」

「はい。もちろんですよ。実を言うと話を聞く前からすでにあなたにしようと思っていたんです」

「話を聞く前から……? はっ!? ま、まさか私の体目当て!? 逆らえないのをいい事にエッチなことするつもりなの!?」

「違いますよ!! どんだけひねくれてしまってるんですか!?」


 そんなアホみたいなやりとりをしている時だった。唖然としていた周りが次第に騒めき始め、様々な声が聞こえ始める。


「あいつ、マジでノーマルで決定したのか?」

「バカなんじゃねぇのか? なんであんな最弱ランクを……」

「何考えてるかわからんが、こりゃ冒険者人生終わったな」


 クスクスと笑う者。

 ゴミを見るような目で見る者。

 勝手に惨めだと決めつけて憐れむ者。

 その場は僕を中心に異様な空気が広がっていた。

 ……なるほど。この時ようやく女神様の言っていた意味が少しわかった気がする。この世界は悪い方向へと向かっている、それがこのノーマルが使われずに虐げられている事だとしたら。

 さらに、使っているガチャ娘のランクに応じて格差が生まれているのだとしたら?

 先ほど色々と見た時、ガチャ娘を育てる際にはNも、Rも、SRも同時に育てた方がいいシステムになっていた。それにも関わらず、これまでに見た冒険者は虹色オーラが溢れる高レアしか使っていない。

 つまり、どれだけSRを持っているか。そのキャラをどれだけ進化させ、質を高めているかでお互いの上下関係を明確にしている節があるのだ。

 現に僕がノーマルであるアリシアを加えた瞬間から、周りの態度が一変している。


「あ、あの……マスターごめんなさい。低レアである私が騒いだせいでマスターまで変な目で見られてしまって……」


 アリシアすごく申し訳なさそうな表情でそう言った。


「別に気にしなくていいですよ。要は証明すればいいんでしょう? ノーマルでも強くなれるって事を」


 な~に簡単なことさ。マニュアルとギルドのクエストを見た辺りから、もう僕の育成プランは決まっているのだから。


「では早速始めましょうか。あ、ちなみにアリシアさんはちゃんと覚悟してくださいね。これからも仲間を増やしていくであろうこのパーティーで、僕はあなたを最強のエースにする予定なので!」


 僕のそんな願望を聞いて、アリシアは再び目をパチクリとしているのだった。

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