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「アリシアさん、前衛交代です!」

「ルミルさん、さっきみたいな破壊力でゴーレムの一角を崩せませんか!?」

「……やってみるよ!」


 だけど、まずはご主人様の周りを片づけないと。幸いなことに、アリシアを取り囲んでいるゴーレムは動きが鈍くてさっぱりアリシアに近づけていない。

 そう、ブロックで輪っかを作って、その円を小さくしようとしても互いのブロックが邪魔で小さくできないような感じ。ゴーレム同士がぶつかり合って中心に近づけないんだ!

 今のうちに、感情から魔力を絞り出すイメージで……

 一度冷静になって、自分自身の気持ちと向き合ってみる。すると丁度良く、あたしの感情に『イラつき』という気持ちが小さく沸いているのが分かった。

 ご主人様に褒められた。自分にしか出来ない事を見つけた。なのに、こいつらはそんなあたしの成果を台無しにしようとしている!

 それにアリシアは優しくて、いつもあたしを気にかけてくれていた。そんなアリシアを今、攻撃しようとしている!

 こいつらはあたし達の全てを奪おうとしている。まだまだこれからだっている時に、成果も発見も、大切な人さえも奪おうとしている!

 許せない……許せない許せない許せない許せない!!

 

「ルミルさんの体から……オーラのようなものが……これが魔力!?」


 そう、感情と一緒に魔力を放出して、それを身体に纏って強化する! これがあたしの新しい戦い方!!


「あたし達の……邪魔をするなぁーー!!」


 叫んで一番近いゴーレムに飛び掛かる。そして全力でハンマーを振るうと、そのゴーレムは粉砕した!


「まだまだぁーー!!」


 もう一発、ハンマーを横薙ぎに振るう。それがゴーレムの腰の辺りにぶつかると、積み木が崩れるように弾け飛んだ!

 周りのゴーレムがあたしに標的を移した。明らかにあたしに敵意を抱いている。だけどそれでいい。ご主人様に向かわれるよりはあたしに集まってくれた方が都合がいいから。

 一体のゴーレムがあたしに拳を振るってきた。それを向かい打つように、あたしもハンマーで迎撃する。

 あたしのハンマーとゴーレムの拳がぶつかると、拳の方が粉砕してゴーレムの片腕が消滅した。

 その勢いを残したまま、背後から迫ってくるもう一体のゴーレムをフルスイングで殴りつける。とにかく近付いてくる奴を全てぶん殴った!


「何が起きてるの~? そろそろゴーレムに掴まりそうよ。跳び越えていい?」


 アリシアの声が聞こえる。もうご主人様の周囲のゴーレムはやっつけた。だからアリシアの周囲で円になっているゴーレムに突撃した!


「ぶっ飛べええーー!!」


 一体を粉砕すると、その破片が飛び散って隣のゴーレムがドミノ倒しのように倒れ始めた。


「敵の包囲網が崩れました。アリシアさん脱出してください!」

「わ、分かったわ!」


 空いた所からアリシアが飛び出してくる。これでもう心配事はないはず。このまま全てのゴーレムを殲滅させる!!


「アリシアさん、前衛交代です! 敵はルミルさんに任せてアリシアさんは僕の護衛と周囲の確認をお願いします!」

「了解よ!」


 ご主人様が何かを言っているけどもうよく聞こえない。あたしは残りのゴーレムを殲滅する事だけを考えればいい。そう、敵を全て排除すればそれで終わるんだから!

 そうしてまた一体のゴーレムを破壊する。いける、もう敵は数えるくらいしかいない。このまま全滅させる!!

 一体、また一体と破壊して、ついにあたしは全てのゴーレムを倒すことができた。

 やった! これだけの敵を一人で壊滅できた! これは大きな戦果のはず!

 そう思ってご主人様の方を見たあたしは、背筋が凍り付くような衝撃を受けた。なんとご主人様のすぐ後ろに、ゴーレムがそびえ立っていたのだから!

 倒しきれていなかったのが復活したのか、あるいは未だ地面に潜んでいた個体がこのタイミングで出現したのか……

 そいつは拳を振り上げて、眼前のご主人様を狙っていた。


「危な――」


 あたしが叫ぶ前に、そのゴーレムは拳を振り下ろす!


「マスター!!」


 ドスン! と岩石のような拳が地面を抉る。ご主人様は、間一髪でアリシアが突き飛ばしていた。

 本当に一切の余裕が無く、飛び掛かるようにしてしがみ付いたアリシアはご主人様と一緒に地面に転がる。それを見て、あたしは自分の役割が何なのかを思い知らされていた。

 確かあたしは、ご主人様を守るという役目じゃなかったっけ? いつもそばにいて、どんな魔物が近付こうとも絶対に手出しをさせないという立ち位置じゃなかったっけ?

 それなのに、今あたしは何をしている? 敵を全滅させるんだと勝手に判断をして、ご主人様のそばを離れて敵への攻撃に夢中になっていた。そしてその結果、ずっと望んでいた自分を使ってくれるご主人様を死なせてしまうところだった……


「う……うわあああああああああああ!!」


 地面に突き刺さった拳を抜くよりも早く、あたしはそのゴーレムに飛び掛かる。一撃でそいつを仕留めると、今度こそ完全に敵の気配は無くなった。

 そしてあたしは振り切ったハンマーをそのまま地面へ投げ出すと、その場に崩れ落ちていた。


『残念な事に、この前わたくしを使ってくれた主様は魔物に殺されてしまったのですわ。ですからここへ戻されただけで、ただ売却されるだけのあなた達とは違いますの♪』


 誰だっけ。この世界に呼ばれる前、ムカつくSRとそんな会話をした事があった。それでその時、あたしはなんて答えた?


『主人も守れないようなアンタに偉そうな事を言われたくないんだけど?』


 そう言った。本気でそう思った。けど、今のあたしがそんな事を言える立場だろうか。


「ルミルさん、どうしました!? 大丈夫ですか!?」


 すぐそばでご主人様がそう声をかけてくれている。

 ……そうだ。あたしはたった一つのミスで、大事な人を失うところだったんだ……


「……ごめんなさい……」


 自然と、そんな風に謝っていた。


「そばにいなくてごめんなさい。護るって役目を忘れててごめんなさい……」


 そしてポロポロと涙が零れていた。顔を上げる事もできずに、ただただ謝る事しかできなかった。


「せっかく使ってくれたのに……こんなんじゃあたし、ご主人のそばにいる資格ないよぉ……」


 呆れられるかもしれないと思った。使えない奴だと捨てられるかもしれないと思った。

 でも、それだけ勝手な事をしてしまったと思った……


「ルミルさん、そんな気にする事ありませんよ」


 けれど、自分の頭上から聞こえてきた声は優しかった。


「今回の場合、ルミルさんしかゴーレムを倒す手段を持っていませんでした。だとしたら、ルミルさんが敵を倒し、アリシアさんを戻して護らせるのが一番でしょう。それを判断し、指示するのは僕の役目です」


 ご主人様の声は近付いて、あたしのすぐそばで聞こえるようになった。きっとしゃがみ込んで声をかけてくれているんだ。


「そうやってみんなで協力すればいいんですよ。みんな自分に出来る事を頑張ればいいんです。むしろ僕はそれしかやる事がないので、二人の動きを見て状況を判断しています。ルミルさんの行動は間違っていませんでしたよ」


 そう言ってくれて頭を撫でられた。優しく何度も撫でてくれた。

 そこでやってあたしは顔を上げてみる。するとご主人様もアリシアも、全然怖い顔なんてしていなかった。


「むしろルミルは凄いわ! なんかこう、破壊力が増していたじゃない。アレって必殺技なんじゃないの? 名前を付けたらいいんじゃないかしら?」

「そうですね。アリシアさんの時もステータスに反映されましたし、認識しておくのは大事ですね。ルミルさん、名前は決まっているんですか?」


 ああ、捨てられる訳じゃないんだ。あたしはまだ、ここで使ってもらえるんだ。

 いや、それ以前にちゃんとあたしの事も考えてくれている事がとっても嬉しい……


「名前とかよく分かんないよ……」

「じゃあマスターに決めてもらったらいいわ。私の技もね、マスターに決めてもらったのよ。ね、マスター!」

「そうですね。では攻撃力重視の技ですから……爆発的な一撃。『爆壊ばっかい』なんてどうでしょうか」


 そう言ってステータス画面を飛ばしてくる。そこには確かに、あたしの技が新しく追加されていた。


「うん、それでいいよ。……それとね」


 恥ずかしくて頭が熱くなる。けど、ここはちゃんと言わないと!


「だ、だからその……、あたしの事、ちゃんと見ていてくれてありがと……」


 多分、今のあたしは顔が真っ赤になっていると思う。だからそれを隠すにはすぐに立ち上がって、誰にも見られないように背中を向ける事くらいしか思いつかなかった。

 あたしはまだここで戦っていいんだ。ちゃんと見てくれて、指示を出してくれるんだ!

 もっともっと役に立てるように頑張ろう! そんな風に思った討伐クエストだった。


名前   :ルミル

スキル1 :サーチLV1

スキル2  :不可視化LV1

必殺技  :爆壊 new


推定戦力 :9万5950 → 11万0950

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