「か、勘違いしないで! 別に駄主人のために習得した訳じゃないから!」
* * *
「では討伐する魔物を探しましょうか」
あたしのご主人様がそう言って、村の外へと向かいだす。当然、あたしもアリシアもその後を着いて行った。
時刻は14時を回ったところで、これから討伐クエストを進めながら新しいスキルを試そうという計らいだ。
「魔物に遭遇するまでウロウロしましょうか」
「あ、ご主人、あっちの方向から魔物の気配がするよ」
あたしがそう言うと、ご主人様もアリシアも驚いた表情をしていた。
「ルミルさん、分かるんですか!?」
「まぁ、なんとなくだけどね。ほら、昨日ご主人が探知のコツを教えてくれたでしょ? アレで少しだけ違和感に気付けるようになったみたい」
あたしの言った方向に向かうと、そこにはテツマジロという魔物がいた。確か背中に硬い甲羅があって、それで身を護る魔物らしい。ギルドの掲示板に書いてあった!
「本当に魔物がいましたよ! ルミルさん凄いじゃないですか!!」
「うぅ……私なんて未だに分からないのに、ルミルに先を越されたわ……」
このパーティーのエースであるアリシアにも出来ない事があたしに出来る! そしてその事でご主人様に褒められた。それはあたしにとって物凄く嬉しい事だ。
「か、勘違いしないで! 別に駄主人のために習得した訳じゃないから! あたしはあたしにしか出来ない事をやるだけだし!」
でも恥ずかしいから口ではそう言って誤魔化しておく。間違っても褒めてほしいなんて言えない……
「でも探知できる人がいるのはほんと助かりますよ。ありがとうございますルミルさん」
そう言ってご主人様が頭を撫でてくれた。ビックリしたのと気持ちいいのが同時に襲ってきて、体がビクッと震えてしまった。
すぐに何でもないフリをして手を払いのけたけど、心臓がバクバクして止まらない。ヤバい、褒められたの凄く嬉しい!!
「ではアリシアさん、スキルを試してみてください」
「オッケー。分かったわ!」
あたしが心の中でアタフタしているうちに、アリシアと魔物の戦闘が始まっていた。
「スキル発動! 状態異常付与!」
アリシアが魔物に攻撃を仕掛ける。しかしテツマジロは体を丸めてその硬い甲羅で全身を覆ってしまった。するとアリシアの刀は甲高い音を立てて弾かれた。
「マスター、敵の防御が硬いわ~……」
「えぇ……、なんとか攻撃が通る部分を探して当ててください」
ふむふむ。相手にダメージを与えないと状態異常は付与出来ないみたい。というか、相手に状態異常を与えるってどんな原理なんだろう?
「このっこの! 丸まってないで出てきなさい! えいっ!」
なんかちょっと微笑ましい攻防が続き、ついにアリシアが攻撃を当てた。すると、テツマジロの動きが明らかにおかしくなる。
フラフラとよろめいたり、敵であるアリシアとは別の方向を向いたりと挙動がおかしい。
「これ混乱というか、幻覚というか、完全に相手を見失ってますね」
そうしてアリシアは魔物にトドメを刺す。
なるほど、なんとなく分かった。アリシアの体内の魔力が敵の傷口から入り込んで、それが相手になんらかの異常を引き起こしているんだ。
あたし達のステータスの一つである『精神』。これは魔力を操る特性上、遠距離攻撃型のガチャ娘にしか関係無いと思ってたけど、スキルに依存するのであればあたし達も意識した方がいいのかも。
――ズシン、ズシン!
すると今度は巨大な魔物が現れた。なんとスミッコ村に出現したゴーレムだ。
恐らく、普段はここら辺が住処なんだろうけど、あの時の個体は迷って一人で南下してきたんじゃないのかな?
「うわゴーレム!? あいつにはどう頑張っても私の刃は通らないのよね……」
「よし、なら次はルミルさんのスキルを試しましょう。アリシアさんはゴーレムの気を引き付けてください」
アリシアがゴーレムを挑発して、気を引いている間にあたしはスキルを使用した。
「スキル発動。不可視化!」
スゥ~っと、どこか自分の体が自然と一体化したような、そんな感覚になる。
「どうご主人。あたしの姿が見える?」
「うっすらと見えますが、まるでステルス迷彩のようになってますよ!」
うん? ステルス迷彩はよく分からないけど、見えにくくなっているのは間違いないみたいね。それにこの感覚、やっぱりあたしの魔力で構成された効果みたい。なんだ、精神ってあたし達にもめっちゃ重要なステータスじゃん。取りあえず、次はこの状態で魔物に気付かれるか試してみなくちゃ。
あたしはアリシアに気を取られているゴーレムの周りをグルグルと回ってみた。しかしゴーレムはアリシアにしか反応を示さない。完全にあたしは見えていないようだった。
凄い! これ、一撃だけなら無抵抗の魔物を攻撃できるって事でしょ!? いやこれ絶対気持ちいいやつだよ!!
あたしの中からゾクゾクと快楽的な感情が沸き上がってくる。無抵抗で、遠慮のいらない敵を全力でぶん殴れるという事実があたしを高揚させた。
その時、あたしの中で何かが変わった。
あれ? これって魔力じゃない? あたしの感情と一緒に、魔力も放出されてるんじゃない?
この時感じたのは、自分自身の攻撃力が高まっているという感覚。興奮状態で気が強くなっているだけかもしれないけど、魔力の放出で強化されているのかもしれない。だとしたら……
「殺す……」
感情の赴くままに、全てを解き放つ! 自分の感情も、使いたい言葉も、全てを解放してそれに乗せるように魔力も解き放つ!
「殺す……コロスコロスコロスコロス!!」
「ルミルさんが何か怖いこと言ってる!?」
ご主人様が困惑しているけど、自分の感情と一緒に魔力が放出されているのを感じる。これを武器に乗せて攻撃すれば!
あたしは振り上げるハンマーに意識を集中させる。全身の魔力を武器に乗せるイメージで、跳び上がってから脳天めがけて一気に振り下ろす!!
「シ、ネ!!」
ズガアアアアアアアアアアアン!!
無抵抗だったゴーレムが粉砕する。振り下ろしたハンマーは頭から一気に押しつぶし、地面にへばりつくまでペシャンコにした。両腕だけが潰れる過程で取り残され、ただのパーツのようにに左右へと転がっていた。
「え……? ええええぇぇぇ~~!? なんですか今の威力は!?」
そっか。みんながみんな同じかは分からないけど、少なくともあたしはこうやって魔力を出せばいいんだ。
そんな事を考えていた時だった。
ゴゴゴゴゴ、と地鳴りが響きだした。あたし達は警戒するけど、丁度あたしとアリシアの間の地面が盛り上がった!
大きな壁のように立ちはだかったソレは、なんとゴーレムだった!
しかもそれだけじゃない。今そびえ立ったゴーレムに連なるようにして、次から次へと地面からゴーレムが這い出した。
それは正に巨大な壁のように、あたしとご主人様。反対のアリシア側へと分断されてしまった。
それでもさらに地面から這い出てくる。あっという間に辺り一面ゴーレムだらけになってしまった。
「マズい、ゴーレムの巣だったのかもしれません! アリシアさん、こちらに合流してください!」
ご主人様がそう呼びかける。
「ダメよマスター、すでに囲まれちゃってるわ!」
見るとアリシアがいた辺りはゴーレムが壁のように並んでいる。こっちに来るには隙間がない。
「でも大丈夫よ。跳び越えていくからね!」
「ちょ、待ってください。ゴーレムの高さを跳び越えるなんてリスクが高いですよ! 足でも掴まれたらそれこそ一巻の終わりです!」
確かにそうだ。ゴーレムの高さは3メートルくらいある。いくらアリシアのスピードでも、それを跳び越えようとすればどこかを掴まれる可能性はゼロじゃない。そしてあんなゴツゴツしたバケモノに掴まれたとしたら、地面に叩きつけられるか、握りつぶされるか。どちらにしても無事じゃすまない……




