「これってデートのお誘いなのかな?」
「あの、擁護してくれてありがとうございます。おかげでもめ事になりませんでした」
セカドンから来た冒険者勢に詰め寄られた僕が助かったのは、この村の人たちのおかげだと言っていい。どうにも緊急クエストの報酬を貰う事に執着していたように思えたから……
村のみんなは「気にするなよ」と言ってくれて、僕を歓迎してくれた。
「ところで皆さんはガチャ娘を一人しか育成していないんですか?」
僕が何気にそう聞くと、この村を守っているメンバーは顔を見合わせていた。
「いや~、仲間が多いに越したことはないんだが、なんせSRが出なくてねぇ……」
それを聞いた僕は唖然とした。
「いや、SRが出なくてもノーマルとかレアが出れば人数に加えられるじゃないですか」
「けどねぇ……SR以外は弱くて使い物にならないって言うし……」
……やっぱりだ。この世界では、もはやSR以外はお供にしないほうがいいという暗黙の了解がある。そのせいでアリシアたちは居場所が無かった……
「そんな事はありませんよ。僕が連れているアリシアさんやルミルさんのレアリティはノーマルですから」
「ええ!? その子たちはSRじゃないのか!?」
だから僕が少しずつ伝えていく。時間がかかっても、確実に広めていくんだ!
「ノーマルでもしっかりと育成すれば十分強いですよ。むしろSRばかり多くても素材が被って育成が進みませんから」
「ん~……けどなぁ……」
それでも全員が難しい顔で唸っている。
「低レアを使っているとバカにされるんだよなぁ……」
「そうそう。白い目で見られたり、鼻で笑われたりもするよな」
「低レアで妥協するのは負けたような気分になるし……」
「……僕は遠くの地から来たので、皆さんとは価値観が違うのかもしれません。ですが一つだけ言わせてください。皆さんが守らなくてはいけないものは体裁でしょうか? 確かに周りからバカにされるのは辛いと思います。けどそんな連中には結果を出して黙らせればいいんです! 陰から何を言われようと、自分の本当に守りたいものを見失わないでください。少なくともあなた達が真剣に命じれば、低レアもあなたたちの家族や仲間を守ってくれますよ!」
皆が黙る。考えるように俯いている。そうして少しの間沈黙が続いたけど、意を決したように声を上げる者が出た。
「よぉし、俺もノーマルを育てるぜ! この村を救ってくれた恩人の言葉だ。間違っている訳がねぇ!」
「な、なら俺もそうしようかな。低レア素材も余ってるし……」
「そうだよな。本当に守りたいものはこの村の仲間だ。そんな事にも気付けなかったなんてどうかしてたぜ!」
ワァワァと盛り上がり、みんなが決意を固めてくれた。そんな時、隣にいたルミルが僕に耳打ちをした。
「ご主人、あたしも言いたいことがあるんだけどいい?」
僕は頷いて、ルミルを前に立たせてあげた。
「あたしはノーマルだけど、今はこうしてご主人に使ってもらっている。けどそうなる前はSRに散々バカにされていたんだよね。もしかしたらこの中にもノーマルをイジメていた奴がいるかもしれない」
そう言ってルミルは全員を一瞥する。その中にはキョトンとしている子もいれば、何か後ろめたい事があるのか目を合わせないようにする子もいた。
「それに関して、ここでつべこべ言うつもりはないよ。ただね、こうしてノーマルを使って戦力を強化しようって盛り上がっているのに、それを快く思わずに協力出来そうもないとか考えている奴がいるのなら、その気持ちを改めてほしい。自分のご主人が世間の体裁を捨ててまで村を守ろうとする意志を固めたんだ。それを個人的なエゴで台無しにするなんて許されない!」
そうして次に、ルミルは冒険者たちに目を移していく。
「だからさ、ご主人であるみんなは自分のガチャ娘の関係を常に気にしてほしんだ。自分のガチャ娘は大丈夫って思うかもしれないけど、みんなが思っている以上に高レアと低レアの溝は深いから……。あたしからはそれだけだよ」
そう言い残してルミルは下がっていく。当然、思いもしなかった関係に一同は騒然となっていた。
ガヤガヤと騒がしくなる冒険者たちを他所に、ルミルは僕の近くにチョコンと座り込む。そんな昔を愁うような表情で呆然とするルミルの頭を撫でてあげた。
「ありがとうございます。ルミルさんの言った事はとても大切で、重要な呼びかけだったと思います。偉かったですよ」
手を払いのけられるかと思いきや、今回はそんな事もなく、ルミルはただただ顔を背けながらも大人しく撫でられていた。
そうしてやるべき事や伝える事が全て終わった僕たちだが、村を出ようとすると村人に止められた。どうやらおもてなしをしたいので、今晩は泊まっていってほしいらしい。
緊急クエストのMVP報酬はまだ受け取っていないものの、今日のデイリーは終わっているのでのんびり過ごしてもいいかなと思う。そんな気持ちもあって、僕たちは今日この村に泊めてもらう事にした。
……正直、宿代もバカにならないのでありがたい。
「という訳で、まだお昼を過ぎたあたりなんですけど時間に余裕ができました!」
現在、僕たちは村を救ってくれたお礼にお昼の食事をご馳走になり、時間を持て余していた。
村の中では女性たちが魔物の死体を片づけたり、食料用に解体したりと総出で作業をしている。それを手伝おうとしても、『救世主様はゆっくりしていてください』と断られてしまった。
アリシアは修行でもしようかと悩み、ルミルは探検に行こうかとキョロキョロしている。そんな二人に僕は思い切って提案をしてみた。
「あの、もし二人が良ければなんですが、その……僕に付き合ってもらえませんか?」
そう言った瞬間、アリシアは目を見開き驚いたような表情になった。
「わ、私はいいわよ。マスターが私と一緒にいたいって言うのなら付き合うわ!」
「良かったです。実はちゃんと二人の事を知りたいと思っていたんです」
するとルミルもソワソワし始めた。
「あ、あたしも付き合うよ。どうせ暇だし……」
二人が了承してくれたので、僕たちはまず村の外へ出た。
「ね、ねぇアリシア、これってデートのお誘いなのかな?」
「ななな何を言っているのよ!? まだそうと決まった訳じゃ……」
二人がコソコソと話し合っているけど、とりあえずはこの辺でいいかな。
「では二人とも、まずはお互いに抱き合うようにくっ付いてください」
二人は状況が分からないといった顔をしながらも、僕の言うとおりアリシアとルミルは抱き合ってくれた。
ウホッ! これはこれで美しい!
「ゴホン! それでは二人とも腰を落として~……はい! 全力で押し合ってください! のこったのこった!!」
しかし二人はキョトンとした顔で僕を見るだけだった。
「えっと……え、何? 何が始まってるのかしら?」
「だから、力比べですよ。はいのこったのこった! のこったのこったのこった」
「いや駄主人、落ち着けって!」
僕が必死に掛け声を出すが、ルミルにあっさりと仕切り直しを喰らってしまった。
「なんであたしたちが力比べをしなくちゃいかんのよ?」
「それはですね。このステータス表記が曖昧で分かりにくいからですよ。今現在、ルミルさんの攻撃力は『S』。アリシアさんの攻撃力は『U』になってます。これだとちょっと分かりにくいので実際に力比べをしてその差を確認しようかと思ったんです。はいのこったのこったのこったのこった!!」
「いや取りあえずその煽り止めろ! あたしたちの不信感だけが残ったわ!」
相変わらずルミルはここぞという時にツッコミを入れてくれる。
……まぁ今はボケたつもりはなかったんだけどね……
「はぁ~……デートかと思ったのに……」
「仕方ないよ。だって駄主人だもん。とにかく力比べやろっか」
二人がなんかブツブツ言いながら、やっとのこったのこったしてくれた。
その結果、ルミルの圧勝だった。これはまぁ妥当かなと思う。ルミルの方が表記上二段階も上だし、攻撃力の魔石も装備してるからね。
「じゃあ次は素早さの確認です。よーいドンで走ってください」
大体50メートル走をやらせるつもりで、それくらいの距離を走らせてみた。
結果アリシアの圧勝。これもまぁ当然なんだけど、一つ気になる事があった。
表記上ではアリシアの素早さは『S』で、ルミルが『T』だ。これはアリシアの方が一段階上な訳だが、実際に走らせてみるとアリシアはレーシングカーのようなスピードが出ているにも関わらず、ルミルは走り切るのに十秒くらいかかったのだ。
この差はなんだ? アリシアが素早さの魔石を装備している事を考慮しても差がありすぎじゃないか?
……まぁルミルのやる気が無さそうに見えるのは目を瞑るとして……
そうして僕たちはこの昼下がり、運動会とも言えなくもない競技を継続するのだった。




