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「なにか、巨大な魔物が近付いてくる!」

「なにか、巨大な魔物が近付いてくる!」


 ズシンズシンと大きな足音は近付いてくる。そして林の陰から現れた姿は異形のモノだった。


「ゴ、ゴーレムだ! もっと北の方にしか出ないはずなのに!」


 ゴーレムと呼ばれたソレは全身が土気色をした巨人だった。三メートルほどの大きさで、見た目は土で出来ているように見える。

 全体的に丸く、ずんぐりむっくりという太ったような体形だ。その頭部すらも丸く、耳や鼻、口すらもない。ただ窪んだ眼が不気味であった。

 巨人というか、頭身の低いロボットというか、それらに泥を被せて固めたような姿だと言える。


「もはや残っている魔物はアイツだけです。アリシアさん決めてください!」

「了~解!」


 アリシアがロケットのように飛び出した。その勢いのまま刀を振るう!

 ――ギィン!

 硬い物がぶつかり合う音が響き、軽く火花が散った。

 アリシアが斬りつけた足の部分は、全く傷がついていないように見える……


「刃物が効かない!?」


 見た目は土のようなのに、実際はとんでもなく硬いらしい。茶色の岩石、下手をすればコンクリートのような硬さかもしれない。


「くっ……それなら、必殺『無限刃!』」


 フッ、とアリシアの姿が消える。そして怒涛に連続で鳴り響く金属音。今、ゴーレムの体からは無数の火花が光り散らしていた。


「グゥゥゥゥン!」


 今度はゴーレムが激しく動き出した!

 それは本人の唸り声か、はたまた体を動かす稼働音か。腕を横に伸ばして体を回し始めた!

 まるで飛んでくる羽虫を追い払うように、グルングルンと寄せ付けないように回りだす!

 これにはアリシアも近寄れないと判断したようで、必殺技を中断して僕の近くに避難してきた。

 ちょこまかと攻撃してくるアリシアが引いた事で、ゴーレムの回転も止まる。そこでアリシアの攻撃がどれだけ効いたのかよく見てみると、その体にはほとんど傷がついていなかった……


「いや硬すぎでしょう! ルミルさん、あいつにサーチを使ってみてください!」

「分かった。スキル、『サーチ!』」


名前   :ゴーレム

レベル  :少し

体力   :ふつう

攻撃力  :まぁまぁ

防御力  :高め

素早さ  :のろい

精神力  :低め

探知   :あんまり

推定戦力 :ちょい低め

総評   :硬いだけが取り柄。斬撃と刺突に強い。

      打撃には弱い。


 そう書かれていた。

 これはアリシアよりもルミルのほうが相性がいいって事だけど、それでも今のルミルの戦力に任せてもいいのだろうか? まだ実戦経験が少ないために無理をさせたくない……


「ゴーレムが妙な動きを始めたぞ! 気を付けろ!!」


 一人の冒険者がそう呼びかけた。見てみるとゴーレムはしゃがみこんで、ロボットのような三本指を地面に当てている。なんだか跪いているようなポーズだ。

 するとゴーレムの手が膨れ上がる。どんどんと巨大化して、地面に当てている手は軽自動車くらいの大きさにもなった。

 代わりに地面は窪んでいる。突然クレーターが出来上がったかのように穴が空いていた。


「これって、地面の土を手に吸収したんですか!?」


 そうとしか思えない。元々土気色をしている体に馴染むように、巨大化した手も地面と同じ色だった。

 ゴーレムはそれを振りかぶると、軽々とこっちへ放り投げてきた! まるでロケットパンチのように、鉄球のように膨らんだ手を飛ばしてきた!


「避けろぉ!!」


 誰かが必死にそう叫ぶ! 狙いは僕たち……と言うよりはアリシアだろう。けれど巨大な鉄球のようなソレは決して速くはなかった。それこそ、アリシアが動くには十分な時間だったようだ。

 アリシアは僕とルミルを抱えるようにして飛び退く。そんな僕のすぐ近くを巨大な塊が通過した。

 土を吸収して作った割には、飛んでくる塊は岩石のような迫力があった。

 ドカンと大きな音がして、背後の石垣が崩れている。村を囲う高い石垣だ。やはりあの塊は岩石のような硬さに仕上がっていたんだ。

 サーチによれば硬いだけが取り柄だなんて書いてあったけどデタラメもいいとこだよ。遠距離攻撃も完備でかなりの脅威じゃないか!


「よくも私たちの村を! このぉー!!」


 村を守るガチャ娘が全員でゴーレムに挑んでいく。先頭に立つのは棍を振り回す若いガチャ娘だ。

 しかし、その渾身の打撃もダメージを与えているようには見えない。大きな岩に子供が棒切れを振るっている程度でしかなかった。


「しまっ……うわあああ!?」


 近づきすぎた棒術を使うガチャ娘がゴーレムに掴まった! 抱きしめるようにして岩の両腕に抱えられている。

 必死にもがいているけど力の差は歴然で、ギリ、ギリ、と確実に締めあげられていた。


「うっ……くぅ……ぁ……」


 抵抗する力も弱々しくなっていく。そんな状況下で一人、ゴーレムに向かって行く者がいた!


「このぉ~~、その子を離せぇ~~!!」


 なんとルミルがダッシュで近づき、手に持つ身の丈ほどのハンマーを振りかぶっていた。


「うっりゃあぁぁ~~!!」


 背中に直撃すると、まるでトラックが激突したような轟音が鳴ってゴーレムがよろめいた。その際に締め上げていたガチャ娘は解放され、すかさずルミルはその子を抱えてゴーレムから離脱する。


「げほっげほっ。……あ、ありがと。たすかったよ……」

「……別に。背中がガラ空きだったし……」


 ルミルが少し照れている。なんだか微笑ましいやり取りだけど、現状はそうのほほんとしてはいられない。なんとかゴーレムを倒さなくては。

 けれどルミルの攻撃であの岩石の巨体を弾き飛ばしたのは意外だった。僕が思っている以上にルミルの攻撃力は高いのかもしれない。


「マスター! ゴーレムが!」


 アリシアがそう叫ぶ。見ると、ゴーレムはまたしても地面に手を付いて土を吸収していた。

 よく見るとルミルが攻撃をした背中にヒビが入っている。それが地面からの吸収で徐々にふさがっているところだった。


「回復中ってわけですか……。ルミルさん、作戦会議です。こっちに来てください!」

「ん? なんかご主人が呼んでる。あたし戻るね!」


 ルミルは丁寧に助けたガチャ娘に一言断ってから僕の所に戻ってきた。


「ゴーレムにはルミルさんの打撃が有効です。なので今から渾身の一撃を与える作戦でいきましょう!」

「どうすればいいの?」


 ルミルの問いに僕は一つずつ答えていく。


「ルミルさんの落雷のハンマーは高い位置から攻撃をすると威力が上がるという特性があります。これを使って高所から一撃に全力を注いでください!」

「でもマスター。どうやって高い所から攻撃するの? 木でも登る?」


 アリシアの質問に僕は首を振った。


「いえ、そんな悠長なことはしていられません。アリシアさん、こう手を組んでください」


 僕はバレーボールでレシーブをするポーズを見せた。


「ここにルミルさんが飛び乗って、アリシアさんが上に放り投げるんです」

「なるほど。簡単に言うと、私はジャンプ台の役目をすればいいのね! ルミルも行けそうかしら?」

「うん。やってみる!」


 二人ともやる気は十分のようだ。さらに周りのみんなにも協力してもらえないか頼んでみよう。


「皆さん、今から渾身の一撃をぶつけてみます。それまでの間、ゴーレムを引き付けてなるべく動き回らないようにしてください!」


 すると周りの冒険者たちは快く了解してくれた。その作戦を自分のガチャ娘に伝えると、それぞれのガチャ娘がゴーレムを囲って攻撃を開始する。

 決してダメージを与えるには至らない攻撃。けれど、そのおかげでゴーレムはその場から動かずに腕を振り回していた。


「今のうちにお願いします!」

「オーケー! ルミル、いつでもいいわよ!」


 アリシアがレシーブの格好で腰を低く落とす。そこへルミルが助走をつけて飛び乗った!

 アリシアは一気に腕を振り上げてルミルを空へと放り投げる。上へ押し上げる力と、ルミルの跳び上がる力が見事に重なり、ルミルは大きなジャンプに成功していた!

 二階建ての家を飛び越えるくらいの大ジャンプは、周りの木の高さと遜色ないほどだ。そこから落下を始めたルミルはハンマーを強く握りしめていた!

 両手でしっかりとハンマーの柄を握り、頭の上で振り下ろすだけの構えを取る。落下地点もベストな位置で、ゴーレムに向かって落ちてくるルミルを見て他のガチャ娘たちは避難をした。

 その時、ゴーレムは上から落ちてくるルミルに気が付いた。咄嗟に岩石のような太い両腕で自分の頭をガードする!


「これでも喰らえぇ~~~!!」


 ルミルの咆哮と同時に振り下ろされたハンマーはゴーレムの腕を粉砕した!

 クロスした右腕を砕き、その下の左腕も砕く。そしてついに届いた頭に激突すると、メリメリと軋む音がこだまする。

 ルミルが力一杯振り切ると、頭部の一部が粉砕して顔面が斜めに半分となった!


「グウウウゥゥッゥン……」


 またしても唸っているのか、体の駆動が弱り、軋んでいるのか。機械のような音が止むと、ゴーレムはズシンと地面へと倒れ込んだ。


「……お、終わったのか?」


 誰かがそう呟く。今までの生物とは違って、まるで岩石に命を吹き込んだような魔物。そんな相手を前に、僕は何も言う事ができなかった。

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