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「ふっ、決まったわ!」

「マスター、あれがスミッコ村じゃないかしら?」


 前に進むと石垣のような塀が見えてくる。そしてそのそびえ立つ塀の周りにはウジャウジャと魔物がはびこっていた。


「どうするのご主人。挟み撃ちにする形であたしらは村の外で戦う?」


 ルミルの提案に考えを張り巡らせる。それも悪くはないけれど……


「いや、防衛が破られつつあるように見えます。まずは村の中に入って状況を確認しましょう! アリシアさん、僕たちを抱えたまま中へ入れますか?」

「ん~。やってるみわね!」


 再びアリシアが僕たちを両脇に抱えて加速をする。そして村の入り口に詰め寄っている体の大きな魔物を踏み台にして、大きく跳び上がった!

 二人を抱えているのでそこまで高さじゃない。けれどバイクがスピードを出してジャンプ台に乗るように、凄まじい速さで村の中へと突っ込んだ!

 無重力を感じる暇すらないほどの風を浴びて、それでも必死に着地の瞬間は自分の足で踏ん張った!


「ふ~、重かった~」


 そう言いながらも割と楽しそうにアリシアは汗を拭い、一緒に着地を決めたルミルも涼しい顔で立ち上がっていた。


「ありがとねルミル。着地がすごく楽だったわ」

「これくらい普通だし……」


 二人に続いて僕もヨロヨロと立ち上がり、そして周りを見渡してみた。


「なんだ!? 誰かが飛び込んできたぞ!」

「人間……ガチャ娘か!?」

「もしかして救援がきたのか!?」


 村を守っているであろう冒険者がざわついているのが分かる。戦っている村のガチャ娘は三人。本来はもっと多いのかもしれないけど、負傷して下げられたか、もしくはすでにやられてしまったか……

 そのガチャ娘三人が必死に村の入り口を守ろうとしているけど、魔物の勢いに押されている。ジワジワと押されるようにして、少しずつ村に魔物が侵入しているという現状だった。


「今から援護します。前衛交代するので入り口付近のガチャ娘さんは下がってください!」


 よほど疲労していたのか、勝手な僕の呼びかけにも関わらず三人のガチャ娘は前線を離脱する。


「アリシアさん、少し本気を出してもいいので入り口付近の魔物を殲滅してください!」

「オーケー! それじゃあ行くわよ!」


 そうしてアリシアは構えを取った。

 足を少前後に広げ、腰を低く落とす。刀はまだ鞘に納めた状態だがいつでも抜けるよう、柄に手を添えていた。

 ジリッと踏み出す後ろ足に力が込められて、その瞬間、彼女は本気の言葉を口に出す。


「必殺、『無限刃!』」


 フッとアリシアの姿がそこから消えた。次には血を吹き出す前方の魔物たち。それは例外は無く、前にいる全ての魔物だった。

 入り口からすでに入り込んで獲物を探そうとしている魔物。

 後退したガチャ娘を追おうと向かってくる魔物。

 今まさに入り口からなだれ込もうとしている魔物。

 その全ての魔物が切り裂かれ、足の動きがおぼつかなくなっていた。

 そしてザッと地面を鳴らして、彼女は僕の隣でブレーキを掛けている。低い体勢のまま刀を鞘へと納刀して、『チンッ』という音が響くと同時に魔物は崩れ落ちていた。


「な、なんだ!? 何が起きたんだ!?」

「動きが全く見えなかった。なんていう速さだ……」

「すげぇ……これなら勝てるかもしれない!」


 周りからはどよめく声が上がり、そんな中でアリシアはまだ納刀のポーズを取ったままになっていた。


「ふっ、決まったわ!」


 どうやら自分の必殺技を披露できてご満悦らしい……

 とりあえずアリシアは放っておいて、村の状況を詳しく聞こう!


「皆さん、ここで防衛すればいいんですか? 村の中に魔物が入ったりは?」

「それが、すでに何匹が入り込んでるんだ。けど入り口の防衛で精一杯だから対処できていない……」


 マズいな。すでに村の中に魔物が入り込んでいる! 


「アリシアさん! ……いつまでポーズ決めてるんですか! すみませんが、もうひとっ走りしてほしいんですが体力は大丈夫ですか?」

「当然よ。常に余力を残しておくように言ったのはマスターでしょ?」


 良かった。ポーズ決めてるフリして休んでるのかと思った……


「すでに村の中に魔物が入り込んでいるみたいなんです。アリシアさんのスピードで村に入った魔物を全て撃滅してきてくれませんか」

「わかったわ。すぐに行くわね!」


 そうしてアリシアは村を囲っている石垣沿いに走り出した。

 どうやらこの村は、中央に見張りのやぐらが設置してあり、その周りに家を建てている作りらしい。

 アリシアがぐるりと村の中を一周するまで、入り口は死守しなくてはならない!


「ルミルさん、村の入り口から入ろうとする魔物を討伐してください!」

「はいよ~。待ってました!」


 ルミルが身の丈ほどのハンマーを両手で構える。そこに入り口を駆け抜ける狼のような魔物が襲い掛かってきた!

 素早い動きで一直線にルミルに飛び掛かるが、それを彼女は冷静に見極めていた。


「こういうのは……タイミング!」


 一気にハンマーを振り下ろす! 直線的に飛び掛かる魔物と、それを狙って上から振り下ろすハンマー。そのタイミングを制したのはルミルだった。見事に魔物の脳天に直撃して、そのまま地面に叩きつける!

 ドゴオン! と凄まじい音と衝撃が地面に広がり、魔物は押しつぶされて動かなくなっていた。


「やった! タイミングばっちり!」


 彼女にとってはこれが初討伐になるからだろう。無邪気で純粋な笑顔を見せていた。

 ……それにしても、まさか今までで一番いい笑顔を魔物の討伐に持っていかれるとは複雑な気分だったりする……


「ルミルさん、次きますよ!」


 こうしている間にも魔物はとめどなく入り込んでくる。少しでも手や足を止めるとそれだけ敵が増えるのは、さながらゾンビ映画のようだった。


「よし、ならコイツを使って……」


 ルミルが何かをやろうとしている。先ほど叩きつけた狼の魔物に足を滑り込ませていた。

 なんとそれを蹴り上げて空中に浮かび上がらせる。それは例えるなら、地面のサッカーボールを真上に蹴り上げるのと同じだ。


「よっこい……」


 そのままハンマーを振りかぶり――


「しょ!!」


 フルスイングで魔物の死体を打ち飛ばしていた!

 飛んでいく打球は見事入り口に溜まっている魔物にぶつかり、その衝撃で多くの魔物が弾け飛んでいた。

 サッカーをしていると思ったら実は野球で、その実態はボーリングだった。しかもボールは魔物な。的に……


「今が攻め時! どんどん潰していくよ!」


 入り口の魔物は吹き飛んだが、それでも全てが押し戻された訳じゃない。横をすり抜けて来たもの。入り口にしがみ付いていたもの、それらが少しずつ侵入してくる。

 それをルミルは近い敵から順番に叩き潰していった。


「ガチャ娘の皆さん、連携して対処してください! ……あ、でもうちの子は戦闘経験が浅いんで、できれば皆さんが気を使ってくれると助かります……」


 周りのガチャ娘が失笑しながら、ルミルを中心に陣形を組んでいく。

 あくまでもルミルをフリーにして、それ以外の散らばろうとしている魔物を狩っていくスタイルが形成されていた。


「マスターお待たせ。村の中の魔物は全部倒したわ!」


 ズサァ、と滑り込むようにして僕のそばでアリシアがブレーキを掛けていた。


「ずいぶん早いですね! 魔物はいなかったんでか?」

「ううん。五匹ほど見つけたから倒してきたわよ。民家を壊す前に討伐できたから、怪我をした人もいないと思うわ」


 普通に速いだけだった。とにかくこれで不安要素は無くなった訳だ。


「ならアリシアさんも入り口の防衛に加わってください。出来れば押し返しますよ!」


 そうしてアリシアを加えた入り口の守りは鉄壁となった。入ってくる魔物はルミルの攻撃力とアリシアのスピードでしっかりと討伐して、形勢が次第に変わってくる。

 村の中へ侵入してくる魔物を討伐するというスタイルから、村の外で入り口を守るというスタイルまで押し返した!

 村のガチャ娘たちは疲労が激しいだろう。けれど今、自分たちは勝てるかもしれないという高い士気のほうが遥かに上回っているようだった。

 この戦いは本当に勝てるかもしれない。そう思った時だった……


 ――ズウン。ズウン。


 どこからともなく地面を揺らす振動が響いて来た。

 その音に、残った魔物たちは逃げるように散っていく。僕たちは次第に大きくなるその音に、不気味さを感じてしまうのだった。

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