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「今は一分一秒を争うんですよ!?」

「魔物が出ただと!? どこの村だ!?」


 近くにいた冒険者の一人が、転がり込んできた男性に駆け寄っていた。

 僕も気になるので一緒になって近づいた。


「ここから西のスミッコ村だ。突然大量の魔物がワラワラと押し寄せて、気が付いた時には入り口が魔物で覆いつくされていた! 頼む、救援に来てくれ!」


 彼は走ってきたんだろう。もう立つ事さえできないほど疲弊して、呼吸すら苦しそうに話していた。


「落ち着け。村はまだ大丈夫なのか!?」

「まだ大丈夫のはずだ。数は少ないがガチャ娘が食い止めてくれている。だけどそれもいつまで持つか分からない。それだけ異常な数で押し寄せてきたんだ!」


 その場はすでに多くの人が集まっていた。

 何事かと駆け付ける街の住人は遠目に。自分の領分だと分かる冒険者は近付いていた。


「ならすぐに向かいましょう。お疲れのところすみませんが、道案内出来ますか?」

「ああ、もちろんだ!」


 僕がそう言って男性と話を進めた時だった。


「いやちょっと待て。これって緊急クエストになるんじゃねぇか?」


 その場にいた一人の冒険者がそう言った。


「……確かに……そうだよな!」

「ああ、これ緊急クエスト案件だよ!」

「ならギルドに、クエストとして発注しないとダメじゃね?」


 僕と一緒に街を出ようとしていた男性を、冒険者が取り囲んでいる……


「あ、あのさ、こういうのって手順を踏んでほしいんだよね。だからまずはギルドへ行こうか」


 そう言って、冒険者の一人が男性の腕を掴んだ。


「ちょ、ちょっと何を言ってるんですか!? 村が襲われているんですよ? そんな悠長な事してないですぐに向かうべきです!」


 僕がそう言っても、その冒険者は掴んだ手を離そうとしない。


「いや、でもさ、ほら、緊急クエストって報酬がおいしいじゃん? それを逃す手は無いっていうか……」

「今は一分一秒を争うんですよ!? 報酬なんか気にしてる場合じゃないでしょう!?」

「いや、でもなぁ……」


 そんな僕を、他の冒険者は冷たい目で見ている。僕に賛同する人なんてここには誰もいなかった……

 そうだ! それなら一ついい事を思いついたぞ!


「ならこうしませんか? 冒険者の皆さんがギルドに行ってもらい、ガチャ娘だけは村に向かうんです。こうすれば両立できますよね?」


 かなり良い提案だと思ったはずが、それでもみんなの反応は冷たかった。


「いや、それはリスクが高すぎる。ダメだな」

「なぜですか!? リスクってなんです!?」

「アンタ知らないのか? ガチャ娘の死因で最も多いのが、主人から離れた時の単独行動なんだぞ!」


 なんだって!?

 僕は確認のためにアリシアとルミルを見た。


「えっと、その辺はよく分からないわ……」

「当然あたしも……」


 二人は知らないようだった。けれど、この世界で調べられている事ならそうなんだろう。


「そんなに急ぎたいならさ、アンタは村に向かえばいいじゃん」


 冒険者の一人がそう言った。


「だよな。緊急クエストを請け負うかどうかは自由なんだからさ、向かいたい奴は勝手に行けばいいんだよ」

「おいおいよせよ。どうせそいつだってヒーローっぽい事を言ってみたかっただけなんだからさ」

「ヒーローは辛いよってか? ぎゃははは!」


 ……なんだよこれ。この人たちは本気で言ってるのか? 本気で村よりも報酬が大事なのか? これじゃあまるで、召喚士様が人間に幻滅したっていう状況とさほど変わらないじゃないか……

 みんなガチャ娘の低レアを使わずに、SRだけをお供にしてその数で張り合ってる。今ここにいる全員だって、SR特有の虹色オーラを隠すこともせず存分に見せつけている。

 そうやって自分の見栄や威厳ばかり気にして、使ってほしいというガチャ娘の声を聴かない。それどころか、同じ人間の悲鳴さえも聞こえないフリをしているじゃないか!


「さ、分かったらギルドに行こうぜ」

「待ってくれ、早く村に行かないと仲間たちが――」

「だ~か~ら~、ギルドでそれを発注してくれないと俺たちは請け負えないんだって。こうしてモタモタしている時間のほうがもったいないぜ?」


 そうして助けを呼びに来た男性は、グイグイと冒険者に引っ張られていく。


「分かりました。では僕が先にその村へ援軍に行きます!」


 連れて行こうとする連中の背中に、僕はそう大声で呼びかける。すると全員が驚いたように振り返っていた。


「なので、せめてその村への道を教えてください。西にあると言っていましたが……」

「あ、ああ! この街の入り口から出て左の道を進むんだ。あとは真っすぐ行けばいい。迷う事はないはずだ!」

「分かりました。すぐに向かいます!!」


 アリシアとルミルに相槌を打ち、すぐに行動しようとした。その時――


「アンタ、ありがとう! 村をよろしく頼む!!」


 その男性は僕に頭を下げていた。僕は手を軽く上げて挨拶をすると、今度こそ街を飛び出した。

 目指すは西のスミッコ村。かなりの駆け足で向かおう!


「マスター急ぐんでしょ? 私が抱えて走るわよ!」


 並走しているアリシアがそう提案してくれた。僕はそれについて少し考える。

 できるだけ効率よく動きたい……


「いえ、まずは僕がかなりのハイペースで距離を稼ぎます。アリシアさんはその間足を休めておいてください」


 そして僕は全力疾走に近いレベルで走り出す。およそ80%の疾走だ。

 人間よりもステータスの高いアリシアはもちろんの事、ルミルもトコトコと平然で着いてきていた。

 心配すべきはアリシアのスタミナだと思う。急いだ結果、村に着いた途端スタミナ切れで戦えなくなっても困る。だから少しでも僕の足で距離を稼ぐんだ!


「ゼェゼェ……アリシアさん、そろそろ抱えてもらっていいですか?」

「オッケー♪ それじゃルミルも一緒に抱えるわね!」


 アリシアが僕たちを荷物のように両脇に抱え、スキルを発動させた。


「スキル、韋駄天!」


 とてつもない速さで前進する。揺れて快適とは言えないけど、この疾走感は驚きだった。

 どれくらいの速さだろうか? 自動車くらい? いや電車くらい? いや、新幹線くらい速い気がする。これ、僕が必死に走って距離を稼ぐ必要あったのかな……?


「そうだ、今のうちにアリシアさんとルミルさんに戦闘指示を出しておきます!」


 気を取り直して、今、考えうる最善の指示を伝えておこう。それが僕の唯一の仕事なのだから。


「アリシアさんは今まで魔物と一対一の戦いばかりだったと思います。しかし今回は群れが相手です。スタミナの管理に気を付けてください。全力は控えて、常に余力を残すようにしてくださいね。これから魔物百匹を斬るくらいの覚悟でお願いします!」


 了解! と返事をすると、走っているスピードが少しだけ緩くなった気がする。もしかしてすでに全力で走っていたので抑えたのかもしれない。


「次にルミルさんは、基本的には僕の護衛です。ですが近くに魔物がいる時はどんどん攻撃してください。初めての戦闘がこんな形ですみませんが、よろしくお願いします!」


 ラジャッ! と八重歯を光らせて元気よく返事をしてくれた。あまり緊張はしていないようだ。


「以前聞いた情報だと、セカドン周辺の敵はそこまで強くありません。ルミルさんでも圧倒できるくらいだと思っています。ですが数が多いのは間違いないので、油断せずに行きましょう!!」


 そうして進むと次第に草木が生い茂る林へと入っていく。セカドンよりも、もしかするとモリモーリに近い村なのかもしれない。


「マスター、魔物よ!」


 前方から魔物の姿がポツポツ見え始める。

 木の陰から現れる中型のネズミのような魔物。大きな岩の上から見下ろす獣のような魔物。


「アリシアさん、殲滅してください!」

「それじゃあ二人を下ろすわね!」


 小脇に抱えていた僕たちを下ろすと、アリシアはこれまで以上の速さで魔物を切り刻む。

 ……スタミナを残すために全力を出すなと言っているんだけど、アレでも全力じゃないんだろうか? 僕にはよくワカラナイ……


「マスターから貰った素早さの魔石、これいいわね。なんかあまり疲れないわ!」


 少しでも役に立っているのなら嬉しい限りだ。

 こうして僕たちは先を急ぐために、さらに奥へと進むのだった。

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