「消えろ消えろ消えろ消えろ!!」
「ねぇご主人。あたしも少しは戦ってみたいんだけど」
「ダメです」
現在僕たちはモリモーリを出て、セカドンの街へ行く途中で魔物退治を行っていた。
「ちょっとくらいいいじゃん」
「レベル1なんですから今は大人しくしててください。アリシアさんの戦いを見るのも勉強になりますよ?」
「……アリシアが強いのはもう知ってるよ……」
僕は知っている。朝方に目を覚ましたら二人の姿が見えなくて、窓から外を見渡したらアリシアの朝練をルミルが見学していた事を。
その時は二人の親睦を邪魔しちゃ悪いと思って二度寝をした訳だが、きっとその時にルミルはアリシアの実力を見ているんだろう。
「スキル韋駄天! やー!!」
アリシアの姿が消えて敵が瞬殺されていく。まぁ今現在の戦いからもアリシアの異常な強さは一目瞭然なんだけどね……
「あたしってここで必要なのかな? もうアリシア一人で無双出来るんじゃない?」
割と本気でそう思っているような、虚ろな目でそう聞いてくる。何か色々と察してしまい、自分の無力さを痛感する時の目だ。
「いえ、ルミルさんは必要ですよ。この世界の魔物はそんなに甘くないはずです」
「……知ってる。召喚士様が初期から本気で戦っても互角だった魔物だっているからでしょ?」
そう。以前聞いた召喚士様の話では、今みたいなガチャ娘を育成するというまどろっこしいやり方ではなかったはず。最初から最強格のガチャ娘を召喚して、それでも魔物の勢いに押されて人間達から煽られた。
その結果、人間に愛想を尽かした召喚士様はガチャチケをお金で売って、さらには育成というシステムで最初から強いガチャ娘を生まなくなった。
「人間はよくここまで魔物の勢いを止められましたね。育成するところから始まったのに」
「それこそ最初は、人間の領土の多くを捨てながらの攻防だったみたいね。自分のナワバリが広がったら追いかけてこない魔物もいたらしいし、そこらへんは魔物の習性みたい。本に書いてあったよ」
なるほど。でも召喚士様は本当に人間に愛想を尽かしたのだろうか? 本当に見捨てようと思ったのなら、ガチャチケを売るなんてしないで、自分だけの護衛にガチャ娘を使って遠くへ逃げればよかったんじゃないか? お金で売ったって人間が負ければ価値が無くなる訳だし……
そのへんは前にアリシアさんに聞いてもよく分からないとの事だった。人間に愛想を尽かしたという、ある程度の史実だけはガチャ娘の間でも伝わっているらしいのだが、それ以上の詳しい事情とかは知らないらしい
「まぁとにかく、そんな訳でルミルさんの力は必要ですよ。アリシアさんを助ける時が必ず来るはずです!」
そう言って、暇そうにボ~っと眺めているルミルの頭を撫でてあげる。
そうして少しでも元気を出してほしかったのだが……
「頭なでんな、バカ駄主人……」
手を払いのけられて自分の指で髪をとかし始める。けれどその頬はうっすらと赤みを帯びているように見えた……
そんなこんなで戦闘はアリシアに任せ、僕は倒した魔物の毛皮を剥いだり、お肉を切り分けるやり方をルミルに教わっていた。
そうして着実にその日のデイリーをこなしながら道を進み、ついにセカドンへと到着した!
「セカドンに到~着ぅ~!」
そんなセカドンの街並みは華やかだった。花壇があり、噴水があり、道が綺麗に舗装されている。
やはりこの辺はまだ魔物の被害が少ないのか、街全体が平和な雰囲気で包まれていた。
まずは道中集めていた魔物の素材を売りに行く。売値は全部で1000インになった。
そして次にギルドへ報酬を受け取りに行く。経験値素材のクエストを四つ請け負っていたので、各素材を四つずつ手に入れた。
あとはいつもの通り、SRの素材をノーマルにトレードをする。トレードでの最中、見物していた冒険者がノーマルしか使っていない僕を見てバカにし始めたのはなかなか参った。
それによってルミルがキレかけたのだが、なんとかアリシアが抑えてくれて事なき終えたのだった。
「ふぅ、なんとかトレード完了ですね」
「あたしは怒りが頂点に達するところだったよ。むしろ我慢したせいで突き抜けるほどだった!」
いや沸点低すぎでしょう……。気持ちは分かるけど……。
未だにアリシアがルミルを後ろから抱きしめてヨシヨシとなだめていた。
そんな今回のトレードではSR素材を7個交換して、ノーマル素材が75個集まった。元々3つ持っていたので合わせて78個である。
「とにかく、これでルミルさんの育成が出来ますね。もう全部使っちゃいましょう!」
僕は腕輪を操作して、経験値素材を全てルミルに使用した。
あと残っているのは進化の宝玉だ。これは2個あるわけだけど、どう使っていいものか……
アリシアは現在レアリティ二段階目。これをさらに上げようとすると進化の宝玉は2個必要になる。なので現時点ではどちらか一人しか進化できない事になる。
「う~ん。まぁここはルミルさんに使って即戦力になってもらいましょうか」
「私の三段階目が!?」
「いや、アリシアさん十分に強いじゃないですか……」
ショックを受けるアリシアをなだめながら、進化の宝玉もルミルに使用した。
名前 :ルミル
レアリティ:N+(二段階目)
レベル :79
体力 :T
攻撃力 :S
防御力 :T
素早さ :T
精神力 :T
探知 :S
スキル1 :サーチLV1
装備 :落雷のハンマー(ランク4)
:玄武の鎧(ランク4)
魔石 :攻撃力上昇LV3
推定戦力 :7万3950
「おぉ~! あたし強くなってる!! ねぇねぇ、アリシアのステータスも見せてよ」
ルミルが大はしゃぎでアリシアとおしゃべりを始めた。
う~む、やはり『覚醒』という表記がないからルミルの戦力はアリシアよりも低いか。
一応レベルを上げたり装備をしたりで戦力は上がるけど、なんかそれ以外でもフワッと上がってる時がある気がするんだよなぁ。そういうのが未だによく分からない。
「あ、そう言えばルミルさんのスキルレベル上げ忘れた……」
とはいえ、サーチという敵の戦力を見通すスキルにレベルという段階が必要なのだろうか?
これもよく分からない……
「そうだ。せっかくなのでアリシアさんに使ってみませんか?」
「えぇ~!? 私ぃ!?」
ここまで来る間の魔物で試せばよかったんだけど、ここまで一切思い出さなかったので仕方がない!
「いいけど、あたしのサーチ、ちょっと変だから期待しないでよ?」
「そうなんですか? なら尚更確認しておいたほうがいいですね」
あまり乗り気ではないルミルが、ヤレヤレといった具合に手をかざした。
「スキル、サーチ!!」
ブウン。と、目の前の空間に画面が広がる。僕が腕輪を操作して表示するコマンド画面と同じような感じだった。
名前 :アリシア
レベル :なかなか
体力 :ふつう
攻撃力 :低め
防御力 :まぁまぁ
素早さ :いける
精神力 :低め
探知 :あんまり
推定戦力 :いい感じ
総評 :かなり頑張ってる。強くなるのに前向き。
マスターのことがかなり好き。
「わあああああああああああああああ!?」
突然アリシアが叫びだして画面をわし掴みにして振り回し始めた!
そのまま今度はベアハッグするように懐に抱え込んだまま走り出す!
戦闘時のような残像を残すほどの速さで僕たちから距離を取り、しきりに画面を突っついていた。
「消えろ消えろ消えろ消えろ!!」
まるでインターネットのブラウザ閉じるを押しまくるような指の動きで画面を連打していた……
「ど、どうしたんですか? 僕はまだステータスの辺りしか読めてなかったんですが……」
「プ、プライベート! そう、私のプライベートが書かれてたの! そういうのは恥ずかしいから見ちゃダメなのよ!!」
そういうものなのだろうか? まぁアリシアもお年頃だしな。勝手にプロフィールが形成されたら恥ずかしいのかもしれない。
「それにしてもルミルさん、データが抽象的すぎません? フワッとしすぎですよ」
「うん……なんかね、二人ともごめん……」
ちょっとバツが悪そうに目を逸らそうとするルミルである。けど、これはレベルを上げないとこういう曖昧な表示になってしまうという事なのだろうか? まぁ全く参考にならないという訳でもなさそうだけど。
「こ、今度はマスターをサーチしてみたら? 私だけだとなんかズルい!」
いやズルいって。別に恥の晒し合いじゃないんだから……
「分かった。じゃあサチるよ。え~い!」
「ノリが軽すぎません!?」
結局読み取られて結果が表示される。
名前 :ご主人
レベル :無
体力 :ザコ
攻撃力 :カス
防御力 :ゴミ
素早さ :のろま
精神力 :煩悩
探知 :鈍感
推定戦力 :戦力外
総評 :別の世界から転生してきた異世界人。ニート体質。
排他的なところがある。
「……プッ!」
画面を見た途端に二人が吹き出した。顔を背けて必死に笑いを堪えようとしているけど全く堪えられてない……
「何ですかこれ。物凄く死にたくなったんですけど……」
「ご、ごめんご主人……まさかこんな表記になるなんて……ププーーっ」
謝ろうとして僕の顔を見た瞬間にまた吹き出していた。とんだピエロである……
「ちょっとこの世界の死因ランキングを調べてきますね。そしてその第一位をさらに伸ばしてきますわ」
「ごめんごめん! はやまらないで~!! っていうかこの異世界人て何!?」
アリシアもルミルも笑ったり驚いたりと忙しい。僕はそんな盛り上がっている二人が落ち着くまで黙ることにした。
……それにしても、排他的か。確かにそうかもしれない……
そんな時だった。
「だ、誰か助けてくれーー!!」
街の入り口から大声を出して転がり込んでくる男性がいた。
僕も、街の人たちも、冒険者も、その人物に視線を向ける。
「た、大変なんだ。大量の魔物の群れが押し寄せてきて、俺の村が襲われてる! 誰か救援に来てくれ!!」
その悲痛な叫びは一切の余裕が無い。そんな男性の訴えに、その場は息を呑むような緊張が走るのだった……




