「これはもう一種の奇跡ですから!」
* * *
「それでマスター。今日はどうするの?」
この世界に来て四日目の朝、僕たちは宿を出てからギルドへ向かっていた。
「今日はこのモリモーリを出て、今度こそセカドンの街へ行こうと思ってます」
「へぇ。どうして?」
「単純に育成素材をトレードする場所を変えるためですよ。先日悪鬼の討伐でノーマルの強さを布教できました。にも関わらず、その後で僕がまたこの街でノーマルの強化素材をかき集めてしまったら意味がありません」
なるほど、と二人は納得してくれる。
一人は毎度おなじみ、最初から冒険を共にしているセーラー服JKで刀を振り回す、うちのエースであるアリシアさん。
「それと昨日のMVPの報酬で貰った魔石ですが、一つ目をアリシアさんに渡しておきます」
魔石。それはガチャ娘のステータスを底上げする装備品のようなものだ。
魔石には一つだけステータスを上昇させる効果を付与する事ができ、レベルが上がれば当然効果も高くなる。僕はLV3の魔石に素早さ上昇の効果を付けた魔石をアリシアに渡した。
「どうやって装備するのかしら?」
キレイな丸い宝石を掲げて困惑しているアリシアだが、その魔石はアリシアの体の中へと吸い込まれていった。
装備 :小太刀(ランク2)
:皮の鎧(ランク2)
魔石 :素早さ上昇LV3 new
推定戦力 :13万5500 → 13万7500
戦力は2000しか増えないか。まぁ、まだレベルが低いからそんなものかもしれない。それに素早さを付与したのは戦力を上げるためだけじゃなかったりする。
「アリシアさんはスピード特化型で、当然それを武器に魔物と戦いますよね。けど必ず起こる問題がスタミナ切れです。それを魔石で補強すれば昨日まで出していた全力疾走を少しでも抑え、スタミナの持続に期待ができますよね。この魔石はあくまでもスピードの上限を上げる事ではなく、スタミナを少しでも持たせるものと考えてください」
「なるほどね。そこまで考えてくれて嬉しいわ。ありがとねマスター♪」
にぱ~っと喜ぶアリシアの笑顔が眩しいと感じつつ、僕は次の話に移った。
「もう一つはルミルさんに渡します。効果は攻撃力上昇にしました」
そして昨日から加入となった新たな仲間ルミル。彼女は和装の民族衣装を身にまとう幼い容姿の少女だ。
僕とアリシアがほぼ同じ身長なのに対して、ルミルは頭一つ分は背が低い。……が、そんなロリっ子で可愛らしい顔ににそぐわないほど口が悪かったりする。
まぁ僕としてはツンデレと割り切ればいいだけの話なので気にしてはいないのだが。
「あたしが攻撃力上昇のアイテム? そういう育成方針で行くの?」
「そういう訳じゃないんですが、戦闘を行う以上、攻撃力は必須。なので一つは攻撃力を上げる装備は持っておいた方がいいかと思ったんです。それとランク4の武具セットもルミルさんに使おうと思ってます。どんな武器がいいか選んでください」
僕は腕輪からアイテム蘭を映し出して武具セットを選ぶ。するとそこには剣、弓、槍など、色んな種類が表示されていた。
「どれがいいかなんて分かんないよ。そもそも戦うこと自体初めてなのに……」
どうやらガチャ娘とはいえ、別に得意武器が最初から決まっている訳ではないらしい。そういう部分も僕の育成次第というところらしい。
「だからご主人が決めていいよ。あたしはそれを使うから」
ルミルは僕の事を『ご主人』と呼ぶことで落ち着いたらしい。
そんな訳で僕が武器を選ぶことになった訳だが……
「僕としては鈍器系を使ってほしいですね。アリシアさんが斬撃なので、そういうのが効かない敵の事を考えると打撃系が欲しいんですよ。でもルミルさんは体が小さいから武器の重さとか大丈夫かな……」
僕が悩んでいると、アリシアが大丈夫と助言してくれた。
「こういう配布系の武器は召喚士様が魔力で作った武器だから、重さはほとんど無いわよ」
そうなの!? そう言えば前に魔力で出来た武器はガチャ娘と同じ構成だから、死なないように設定できるとか言ってたな。まさか重さまで気にしなくていいだなんて……
「分かりました。ではルミルさんはハンマーを使ってください」
僕は画面を操作して、武器にハンマーを選択する。そうして出現した武具をルミルに装備させた。
ちなみに防具は選ぶことはできず勝手に出てきた。
装備 :落雷のハンマー(ランク4)
:玄武の鎧(ランク4)
魔石 :攻撃力上昇LV3
推定戦力 :950 → 2万2950
落雷のハンマー:高い位置から振り下ろせばその分だけ破壊力が上がる。
玄武の鎧:斬撃のダメージを軽減できる。
ほう。ランク4辺りから装備に特殊効果が付いているのか。それはありがたいな。
それにしても……
「お~、ほんとに装備が軽いや。重さをほとんど感じない」
ルミルが装備の感触を確かめている訳だが、やっぱり鎧というのがミスマッチな気がした。なので、鎧の見た目をオフにする。
「ほえ? 鎧が消えちゃった!」
「見た目を消しただけですよ。ちゃんと装備されているので安心してください」
「へ~。そんな事もできるんだ。でも消す必要あんの?」
何も分かっていないルミルが首をかしげる。そうか、ここでもちゃんと説明しなくてはいけないようだ。
「あるに決まってるじゃないですか! ゴツイ鎧なんか表示させるよりもミニ和服の方がいいに決まってます! 可愛さが段違いですよ!!」
「マスター、それ私の時も言ったよね……」
ルミルは少し照れたようにそっぽを向いて、アリシアはムッとしたように僕に詰め寄ってくる。
「アリシアさんには分からないかもしれませんが、僕の故郷にも和服の文化があったんです。だからルミルさんの和装を見ていると嬉しくなるんですよ! さらにこの巨大なハンマー! ルミルさん、ちょっと構えてください!」
こんな感じ? とルミルが餅つきをするような恰好でハンマーを振りかぶった。
「はいロマンの塊~!! 体の小さい子が身の丈ほどのハンマーを振り回すとかもうロマンでしかありませんよ! その見た目からのインパクト。可愛らしいルックスからのギャップ。これはもう一種の奇跡ですから!!」
「なるほど、だが分からん!」
「もしかしてご主人って変人?」
アリシアもルミルも、ドン引きしたように僕から距離を開けていた……
「でも良かったわねルミル。マスターに気に入ってもらえて♪」
「べ、別に持ち上げなくたってちゃんと戦うよ……。あたしだってノーマルを使ってくれているチャンスを無駄にしたくないし……」
そして僕から離れたところで二人がキャピキャピと楽しそうにしていた。
まぁ、仲がいいのはこちらとしてもありがたい。気難しそうなルミルも、アリシアがいればうまくやっていけそうな気がする。
……むしろ二人が仲良しになり過ぎると、今度は僕が肩身の狭い思いをしそうで怖い。そう、元の世界ではそんな感じだった。
グループの人数が少ないとその分だけ会話がこっちにも飛んでくる。しかし人数が多くなると次第に会話に入れなくなり、グループの輪からもはみ出して戻れなくなるという疎外感! 思い出しただけでも恐ろしい!
ガクガクプルブル……
「マスター何してるの? 早く行きましょう~」
ハッと我に返り二人の後を追いかける。そうして僕たちはギルドへと足を運んだ。
ギルドでは経験値素材を貰えるクエストを四つ請け負う。そうしてセカドンの街へと向かいながらクエストをこなし、セカドンに着いたら変わったクエストが無いかを確認する算段だ。
さらに出発する前に武器屋にも寄った。これはさすがに、僕も一つくらい武器を持っておいた方がいいという話になったからだ。
ここで大きめの袋とナイフを一つ購入した。これは武器としてもそうだが、倒した魔物を捌くための用途もある。
「ルミルさんは動物を解体したり、捌いたりできるんですか?」
「できるよ。本を読んでずっと勉強してきたからね」
「なら僕にも教えてください。みんなが魔物と戦って、戦力にならない僕が魔物を解体すれば効率がいいはずです」
そう。解体屋に持っていくと売り上げが減るし、その場で解体できれば素材だけを持ち運び出来て時間短縮にもなる。そうやって少しでもお金が入ってきやすくすれば、後々に響いてくるはずだ。
「ではセカドンに向かいましょう。けど今回の戦いはアリシアさんに任せて、ルミルさんは僕の護衛をお願いします。まだレベルが1なので絶対に無理をしないでください」
「むぅ。仕方ないなぁ……」
こうして僕たちはモリモーリを後にした。
今はまだ、みんなのレベルを上げながらノーマルの布教を続ける事以外に目的が無い。そんなぶらり旅を続けながらも、一日一日を精一杯過ごそうと心に誓うのだった。




