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「クソ野郎クソ野郎クソ野郎クソ野郎!!」

               * * *


「今日も本を読んで過ごそうかな? いつ呼ばれてもいいように」


 あたしはそう考えて図書館へと向かった。

 ガチャ娘は主人にいつ呼ばれるか分からない。だから出来るだけ人間の世界について勉強しておく必要がある。あたしは最近、料理の本を読んでいつでも主人に料理を振舞えるように勉強中なんだ。


 ――そう。ここはガチャ娘たちが控えるガチャ娘の世界。通称ガチャ控え室。


 と言っても、ここで暮らすガチャ娘はすごく多いので、それなりに広いし色んな建物も存在する。あたし達はここで主人に呼ばれるまで待機して、その時が来たら力を発揮しなくてはならない!


「お~い、ルミル~!」


 あたしを呼ぶ声が聞こえた。見ると、いつも一緒に行動を共にしてくれる友達のトモカが駆け寄っていた。


「ルミル、今からどこ行くの?」

「図書館で本でも読もうかと思ってた。トモカは?」

「特に考えてないよ。だからルミルと一緒に行こうかな~」


 あたし達は並んで図書館へと向かう事にした。だけどそんな時、突然トモカの体が光り始める!


「あっ!? これってガチャ召喚の光!?」

「トモカやったじゃん! 頑張ってね!」

「う、うん! 行ってくるね!」


 フッとトモカの姿が消えて、その場にはあたしだけが残っていた。

 どうかトモカを受け入れてくれますように。お願いします。どうかトモカをパーティーに加えてくれますように!

 あたしは両手を重ねて、繰り返しながらそう祈っていた。トモカの冒険がうまく行く事を心から願っていた。……なのに――

 時間にして僅か一分ほど。光の粒子が集まり、さっき消えた場所にトモカは戻って来ていた……


「トモカ……」

「あはは……。やっぱり売却されちゃった。ノーマルは使わないんだって……」


 早すぎるよ。たった一分で戻ってきたんだよ? それって出現した瞬間にもう使わない事を決めて売却したってことじゃん……

 ステータスもスキルも見ずに、ただレアリティだけを聞いて即売却する。そんなの、ノーマルという存在そのものを否定してるって事じゃん……


「運が悪かったね。また次の機会を待と?」

「……うん……」


 必死に慰めようとするけど、トモカの表情は暗かった。あたしだって辛い。だっていつもそうだから。

 いつもノーマルは使われない。使ってくれたという話すら聞いたことが無い。なら、あたし達はなんのために生まれてきたのだろう……


「おーっほっほっほ!」


 いけ好かない笑い声が聞こえてきた。その声の主はあたしが想像した通り、今最も会いたくない人物だった。


「シャルロッテ……」

「こちらからガチャ召喚の光が見えたと思いましたら、あなた方でしたのねぇ。ですがその様子だと、すぐに売却されて戻ってきた、と?」

「……」


 こいつはいつもそうだ。自分がSRだから、自分よりもレアリティの低いあたしらを常にバカにする!

 ノーマルの間じゃかなり嫌われている人物だ。


「これで何回目ですの? もしかしたら売却記録を塗り替えようとしているのではなくて?」

「嫌味を言ってくれてるけれど、アンタだって十分暇してるんじゃない? ここにいるって時点で『使われていない』んだからさ!」


 睨みつけてそう言い返してやった。


「そうは言いましても、わたくしほど高貴な存在だと使用率は100%ですわ。おーっほっほっほ!」

「へぇ。100%のくせにここにいるのはなんでかしら? 話がおかしいんじゃない?」


 必死に言い返そうとする。そうやって、少しでもコイツをギャフンと言わせたかった。


「残念な事に、この前わたくしを使ってくれた主様は魔物に殺されてしまったのですわ。ですからここへ戻されただけで、ただ売却されるだけのあなた達とは違いますの♪」


 何を言ってるの? 自分の主人が死んだのに、なんでそんなヘラヘラしていられるのかが理解できない。


「主人も守れないようなアンタに偉そうな事を言われたくないんだけど?」

「誤解しないでくださる? わたくしの戦闘は完璧でしたわ。主様が死んだのは本人の不注意。勝手に前に出すぎた結果でしてよ?」


 本当に意味が分からない。それも含めてアンタらの責任なんじゃないの? こんな無責任な奴と戦いに出たから死んだんじゃないの?


「……ルミル、もういいよ。行こ……?」

「う、うん……」


 あたしはトモカに手を引かれて図書館へと歩き出した。けれどシャルロッテは後ろから着いてくる……


「どこへ行くつもりですの? まだ話は終わってなくてよ? もしもーし、聞こえますかー?」


 しつこくあたし達の後を付いてくる。けどあたし達も完全に無視をしていた。


「あら? この方角は……もしかして図書館に行くつもりですの?」


 ギクリとした。しかもシャルロッテの声が笑いをこらえるような感じで不快感がハンパない……


「図書館は主に人間に関する知識を深める場所ですわよ? 人間に使ってもらう事が無いあなた達には無縁でしょう?」


 ピシッと、あたしの中でヒビが割れた。ヒビの入った感情からは怒りがとめどなく溢れてくる。


「今まで売却されない事がありまして? いつその知識を役立てるつもりですの?」


 血が沸き上がり頭が熱くなる。怒りで自分を見失いそうになる。

 目の前のトモカも俯いたまま震えていた。


「……うるさい……」

「なんの価値も無いノーマルが無駄な努力をして、滑稽こっけいですわ! おーっほっほっほ」


 トモカの目から涙が零れた。そうだよ、一番悔しいのはトモカのはずだ!

 今しがた召喚されたのに売却されて、そんな子を目の前にして、なんでそんな酷い事が言えるの!

 許せない……。絶対に許せない!!

 その瞬間、あたしの中で全てがキレた!!


五月蠅うるさいんだよこのクソ野郎!!」

「なっ!?」

「勝手な事ばっか言いやがって! 目ざわりなんだよさっさと消えろ!!」


 ぶちまける。とにかく言いたい事をぶちまける。それ以外に何も考えられなかった。


「お前みたいなクズはさっさと死ね! クズ野郎クズ野郎クズ野郎!」

「まぁ、なんてお下品な――」

「黙れクズ! 誰がしゃべっていいって言ったよ! お前なんか地獄に落ちてしまえ!! 死ね死ね死ね死ねさっさとくたばれ!!」


 ただただ暴言を吐いた。目の前にいる限りこの口を止めなかった。そうでなければこの身が怒りで破裂してしまいそうだったから……


「ちょ……少し落ち着いたら――」

「消えろよ! あたし達の前からさっさと消えろ!! このクソ野郎クソ野郎クソ野郎クソ野郎クソ野郎クソ野郎!!」

「……」


 どれだけぶちまけただろうか。シャルロッテは呆れた表情で去っていった。

 後に残ったのは茫然とするトモカと、怒りと悔しさと理不尽さで胸が締め付けられているあたしだけ……


「トモカ、あたし分かっちゃった……」

「え? 何が?」


 そう。物凄く嫌な気分なのに、一つだけ得たものがあった。

 それは――


「あんな風に嫌味を言ってくるSR連中には暴言をぶちまけばいいんだよ。そうすれば何も言ってこなくなる!」

「う、うん……」

「そうだよ、簡単な事だったんだ! 語彙力ごいりょくなんて無くてもいい。目の前からいなくなるまで喚き散らすのが最善だったんだ! 相手にしゃべる隙を与えずに、勢いで押し切るように何度も何度も暴言をぶつければいい! そうすればあいつらも去っていく。こうやって身を守ればいいんだよ!!」


 あたしは気が付いた。これが今の現状で最もストレスを感じずに過ごす方法なんだって。

 だからあたしは口が悪くなった。もはやそんな自分は作り物なのか、それとも素なのかは分からない。ただ言えるのはこれを続けないと誰も守れなかったという事。

 友達も悲しむし、あたしもすごく悔しかったんだ。だから口が悪くなったのも仕方ないし、間違ったとも思ってない。SRから白い目で見られるけど、それが何だと言うのか。

 あたしがみんなを守るんだ! 周りから下品だとか危ない子だと言われても、あたし一人がそう言われるだけでSRの連中を黙らせることが出来るのならそれでいい!

 今はそう頑張って耐えて、あたしらノーマルを使ってくれる主人が現れるのを待つしかない。大丈夫。きっとすぐに現れるってあたしは信じてる。

 信じて信じて信じて……折れそうになる事もあるけど、まだまだ大丈夫だから!


「トモカ、図書館に行こう。あたし達だけのご主人様が現れた時のために!」


 そうやって、あたしは必死に心を強く保とうとするのだった……

「あたし達だけの……ご主人様……」


 目を開くと、そこは薄暗い部屋だった。どうやら眠っていて夢を見ていたらしい。

 悔しかった時の夢。だけど、必死に諦めなかった時の夢……

 まだボーっとする頭のまま横を見ると、一人の男性が眠っている。この人は誰だっけ? なんで一緒の部屋で寝てるんだっけ?

 まだうまく頭が働かない。


「ご主人……様……?」


 ただ何となく、あたしは自然とそんな言葉をこぼしてしるのだった。

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