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「マスター、危ない!」

「キミ強いね! どんな育成してるの?」

「そもそもこれで三日目って嘘でしょ? マジ強すぎ~」


 突然エラッソの仲間になっていた二人の冒険者が話しかけてきた。

 よしよし、こうしてノーマルに興味を持ってもらえれば使用率が高くなるかもしれないな。


「お前らダラダラしゃべってんじゃねぇぞ!! すぐに討伐に向かうんだから準備しとけ!!」


 しかしエラッソが怒鳴り散らしたせいで二人とも怯え、それ以上話しかけてこなくなってしまった。う~む余計な事を……

 そんなエラッソは腕輪から薬のようなものを出現させると、ガチャ娘に振りかけている。すると倒れていたエーコはすぐに起き上がりシャンシャンと歩き出した。


「え!? 今何をしたんですか? 回復しましたよね?」

「ああ、回復薬だよ。たまにクエスト報酬で貰えるぜ」


 そうなんだ。確か以前、アリシアは瞬時に回復するアイテムは無いっていってたけど……

 チラッとアリシアを見ると、バツが悪そうにほっぺを搔きながら目を合わせないようにしていた。

 まぁいいけどね。知識にムラはあるけど、そもそも冒険に連れて行ってもらったことがないんだから仕方がない。


「アリシアさん、あの薬ってなんで回復できるのか分かります? 人間にも使えるんですかね?」

「ん~、アレって多分、魔力を補充する薬なんじゃないかしら? だからダメージで削られた魔力を補う事で回復するって原理だと思うわ。人間には効果ないわね」


 そうなんだ。ガチャ娘同士の戦いは死にはしないって言ってたけど、HPゲージがなくなるくらいには痛いだろうしなぁ。これから討伐に向かうためにも回復は必要か。


「そんな事よりマスター。私、勝ったんだけど?」

「え? あ、はい。そうですね」


 突然アリシアが僕に訴えかけてきた。


「頑張ったんだけど? なんか途中から二人を相手にしたんだけど?」


 あ、そうか。頑張ってくれた時にはちゃんと褒めてあげないと今後の士気にも繋がるし、信頼関係にも響いてくるよな。


「そうでしたね。アリシアさんカッコよかったですよ。偉い偉い!」


 なんだか子供っぽさを感じてしまい、ご褒美はナデナデにしてみた。


「にゃふふ~♪」


 どうやら気に入ってもらえたようで、嬉しそうに堪能してくれている。

 すると仲間の回復を終えたエラッソが全員に号令をかけた。


「それでは諸君、これで十分な戦力を集める事ができたという事で、緊急クエストの悪鬼討伐に出ようと思う。準備は言いな!」


 う~ん、準備はいいんだけど、メンバーのステータスが全然分からない。何よりも自己紹介すらされていない。


「あの、皆さんの名前やガチャ娘の紹介くらいはしてもらえませんか?」


 僕がそう言うと、エラッソの仲間の一人が自己紹介を始めた。


「俺はモブール。よろしくな!」


 モブールと名乗った男性は黒髪で短髪。どうにも見た感じでは特徴がなく、街の一般人と言った風貌だ。


「手持ちのガチャ娘は二人。こいつはアイ子。エラッソさんのガチャ娘ほどじゃないけど、前衛の近距離攻撃タイプだ。こっちはウエノ。防御力特化で、基本は俺を守る事を優先させている」


 紹介された二人のガチャ娘がペコリとお辞儀をしてくれた。アイ子と呼ばれた子はダガーを持っており、ウエノと呼ばれた子は巨大な盾を背中で背負っていた。


「俺ははザコラス。この街じゃあ戦力は低い方かもしれないけど、それを理解した上でみんなのサポートや援護で貢献するよ! ガチャ娘は二人。前衛のカーキーと、後衛のクケ子さ」


 ザコラスはアフロヘア―で明るい人柄のようだ。ガチャ娘も前衛が剣、後衛は杖を所持していた。

 ちなみにみんな何も言わないが、これまでのガチャ娘は全員SR特有の虹色オーラが溢れている。育てて討伐に連れていっているガチャ娘はSRで当然らしい。まったく、布教のしがいがあるというものだ。


「僕はジンです。こちらはアリシアで、レアリティはノーマルですが、単騎としての戦力にはそこそこ自信があるのでよろしくお願いします」

「ふん。自己紹介は終わったな。それじゃあ行くぞ!」


 エラッソがそう言って先頭を進んでいく。彼の自己紹介はされていないけど、まぁさっき戦ったので大体は分かっているつもりだ。

 エーコが前衛。ビーナスが弓の後衛。シーナと呼ばれた子の戦い方は見てないが、槍を持っているので中距離攻撃タイプだと思われる。

 僕を含めて四人のこのパーティーは、恐らくだけど総合戦力が30万越え。数字だけなら悪鬼討伐の25万を超えているはずだ。全員で囲んでフルボッコにすればなんとかなるはず……

 脳内でそうイメージしながら、僕たちは悪鬼を討伐するために街を出る。全員で周囲を捜索して、ほどなくしてその魔物を発見することができた。

 ……その悪鬼という魔物が……


「……ちょ、大きくありません?」


 僕たち人間の二倍はあろうかという巨体の持ち主であった。

 どす黒い肌はムキムキの筋肉で盛り上がり、その全身は体毛で覆われている。頭には小さな角を生やしていて、その表情は凶悪そのものだ。

 どんな動物が進化したらこんなヤバそうな生き物になるのかと思ったら、日本で言うところのゴリラかもしれない。ゴリラを巨大化させて角を生やしたらこんな感じだと思えた。


「よ、よし。まずはジン、キミのノーマルが攻撃をして出方を伺え」


 エラッソがそんなとんでもない事を言い始めた。


「はい!? なんで!?」

「キミは単騎としての能力は高いからな。相手の能力を測るには丁度いいんだよ」

「いやいや、もう全員で一気に畳みかけた方がいいでしょう!?」

「い~や、それだともしもの時に一網打尽にされる恐れがある。まずはキミたちがアイツに特殊な攻撃が無いかを確認するんだ。いいかお前たち、ジン以外は攻撃することを禁止する。これはリーダー命令だからな!」


 ま、まさかこいつ、勝負に負けた事を恨んでいるんじゃ!? それで僕と魔物を戦わせて、こっちがボロボロになったところを狙うつもりなんじゃないか!?

 あっさりとパーティーに加えてくれたのもそのためなのかもしれない……


「一人で戦えなんて無謀でしょう!? 漁夫の利を狙っているだけじゃないんですか!?」

「うるさい! 口答えせずに早く行ってこい!!」


 ここにきてまさかのチームワークの乱れ!?

 僕たちがそんな揉めている時だった。


「グゥゥゥ……ウオオオオオーー!!」


 咆哮が聞こえ、悪鬼がその巨体で駆け出してきた。僕たちに向かって渾身の体当たりをするように突進して来る!


「マスター、危ない!」


 アリシアが僕の体を抱え、全力で悪鬼と垂直に飛び退ける。他のガチャ娘たちも自分の主人を守るために同じような行動を取っていた。

 悪鬼の突進を間一髪で避けると、そのまま木に激突する。

 そうだ、モリモーリの街は木々に囲まれていて、ここだって林になっている。下手に突撃をすれば大木へと激突してしまい自滅するんだ。これを利用すればうまくダメージを与えられるかもしれない!

 僕はそう考えたのだが……


 ――メリメリメリメリ……


 なんと激突した木が根本からへし折れた!

 凄まじいパワーに圧倒して思考が止まりそうになる。だが、その間にも悪鬼は動きを止めなかった。なんとへし折れた木を掴み、抱え込んでいた!

 折れてもまだ繋がっている端の部分を強引に引きちぎると、悪鬼は僕たちの方へとノッシノッシと歩み寄ってくる。人間の二倍ほどの体格の魔物が、その自分と同じ太さの大木を引きずってこちらへ向かってくる。大木に指をめり込ませて、まるで長い槍を引きずっているようだった。


「ブンガアアアアアア!」


 構える僕たちに、悪鬼は持っている大木を振るった。アリシアや他のガチャ娘はさらに距離を取ろうとして、主人を抱えたまま後退する。

 だがこんな林で大木を振るったところで周りの木が邪魔になるはずだ。攻撃が僕たちに届く訳がない!

 悪鬼の振るう大木は当然、周りの木に遮られる。しかし、ぶつかり合った瞬間にそびえ立つ木はなぎ倒されていた。

 そのまま悪鬼は大木を振り回す。まるでジャイアントスイングをするように回し始めていた。

 木と木がぶつかり合い激しい音が鳴り響く。そんな無茶に振り回したら自分の体に負荷がかかりすぎるだろう。必ず体を痛めるはずだ!

 だけどそう思ったのは間違いだった。傷むのは悪鬼の体ではなく木々の方で、そびえ立つ木々はどれもへし折れていた。

 悪鬼は大木を回転させながら僕たちへと迫ってくる。アリシアたちは後退するが……


「きゃああっ!」


 ガチャ娘の悲鳴が聞こえる。

 ぶつかり合った木が飛び散り、それがつぶてのように飛んでくるのだ。

 枝が吹き飛び、樹皮が飛散し、樹木が倒れてくる。そんな大災害のような状況に各々が逃げ惑っていた。

 悪鬼の持つ大木がついに砕け散る。周りの木々を薙ぎ倒すたびに傷付いた大木が、中間の辺りでポッキリと無くなっていた。


「ウガアアア!!」


 悪鬼が短くなった大木を放り投げる。まるでハンマー投げのように回転して、遠心力を付けた状態でこちらに向かって投げてきた!


「あぐぅ!」


 女性の、ガチャ娘の悲鳴が耳に届く。


「シーナ!?」


 エラッソの声も聞こえてくる。

 次に後方から、放り投げた木とそびえ立つ木がぶつかり合う激しい音も聞こえる。その方向に目を向けると、またしても折れ曲がった木々の残骸と一緒に、エラッソのガチャ娘であるシーナが倒れて動かなくなっているのが見えた。

 周囲を見る。飛び散った木の散弾を浴びたせいか膝を付く子がいたり、恐怖で茫然としている子もいた。

 前方を見ると、まるで竜巻でもあったかのように根こそぎ倒れて荒れ果てた木々と、その中心でこちらを睨みつけている悪鬼がいるのだった……

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