「トロールと同じ、避けて……反撃!」
「は? あたしがトロールと一緒だって!? あんたナメてるの!?」
エラッソのガチャ娘、エーコもイラっとした表情で武器を構えた。
なんだか冷静なアリシアだけど、あまり相手を怒らせるのは得策じゃない。向こうだってこの街でクエストをこなしているんだ。戦力はそれなりに高いはず……
こっちがトロールを倒せると知っても一対一を挑んできた。恐らくエーコの戦力は4万以上。下手をしたらアリシアと同等かそれ以上かもしれない。
しかしエラッソも悪鬼討伐のために仲間を募集している。つまりSRを三人仲間にしていても戦力25万には届いていなのだから、SR一人当たりの戦力はそう高くない!
「では、始め!」
エラッソが宣言すると同時にエーコが駆け出した。タンッと軽く跳ねると武器を頭上から一気に振り下ろす!
「くたばりな!!」
だがその一撃をアリシアはあっさりと回避する。体を少し横へ移動するだけで、振り下ろしの攻撃をやり過ごしていた。
――斬っ!
そしてエーコの剣が地面に刺さった瞬間、アリシアの太刀がエーコの体に傷をつけた。
正確には、説明された通り傷にはならない。その代わりに斬撃の入った体の部分には一筋の光が残されており、その部分を痛がるようにエーコはよろめいていた。
「なっ!? エーコに一撃を!?」
エラッソは驚愕していて、エーコは怒りで表情を強張らせている。
「くっ! もう容赦しない!!」
エーコが正面から乱れ斬りを放つ。しかしそれさえもアリシアは冷静にヒョイヒョイと避けていた。
感情をむき出しにしているエーコに対して、アリシアの表情は涼しいままだ。
「いいですよアリシアさん。その調子です!」
「トロールと同じ、避けて……反撃!」
斬っ! とエーコの斬撃を掻い潜りまた一撃を与える。そしてよろめいたところにもう一撃!
「ぐっ!? このぉ!!」
薙ぎ払う剣を避けて、アリシアがいったん距離を開けた。
「コイツ……全力で叩き潰す! スキル『攻撃力増加!』」
ドウンッ!
何か脈打つような鼓動が鳴り、エーコの全身からオーラが溢れる。あれがガチャ娘を構成する魔力なのかもしれない。
「アリシアさん、もう一切防御は禁止です。全て避けてください!」
「了解!」
エーコが突進をして、剣を水平に払ってくる。それをアリシアは大きく跳んでエーコの頭上を越える。
ズバッとその際に肩を切りつけながらも綺麗に着地をしていた。
「ぐぅ……このヤロウーー!! スキル『爆裂発破!!』」
これは第二スキル!? レアリティ三段階目からはスキルがもう一つ追加されるらしい。
エーコがアリシアに向かって全力で剣を振り下ろした!
「スキル、韋駄天!」
フッとアリシアの姿が消え、エーコの剣が地面に触れた瞬間、大爆発が巻き起こった!
石畳の地面が粉々に吹き飛び、空中にはその残骸が舞い上がり、爆風が周囲を駆け巡る。そんな凄まじい威力の爆発が離れている僕たちの所にまで迫り吹き飛びそうになった。
「なんちゅう技を街中で使うんですか! それにアリシアさんは!?」
爆発の暴風が治まると、地面には大きなクレーターが出来ていた。しかしそこにアリシアの姿はない。
「ノーマルはどこに行った!?」
「ここよ」
声のする方を見ると、広場の隅にある木の上からエーコを見下ろしていた。
「一瞬であんな所まで退避したのか!? くそっ降りてこい!」
「ええ、今行くわ」
ピョンと木から飛び降りて、アリシアが地面に着地すると同時に……
――ギュン!!
凄まじいスピードでエーコの懐まで入り込んでいた。
そして横を通り過ぎるのと同時に脇を切り裂く。通過してもすぐに踵を返し、エーコを中心に往復しながら何度も斬撃を浴びせ始めた。
「くっ、は、速い!? うわあああっ!!」
滅多切りを喰らいエーコから悲鳴が漏れる。そんな状況でエラッソが僕に詰め寄ってきた。
「なんだこれは!? お前のノーマルはどうなっている!? レベルは!? 戦力はいくつだ!?」
「えっと、レベルは76で、戦力は大体7万くらいですよ」
僕がそう答えるとエラッソは目を見開いて驚き、それから自分の待機しているガチャ娘に向かって大声をあげた。
「おいビーナス! 今からバトルに入れ!!」
「ちょっ!? 一対一のサシ勝負じゃなかったんですか!?」
「うるさい! お前がそれだけの戦力を隠しているのがいけないんだ! 戦力を均等にする事の何が悪い!」
えぇ~……。アリシアの戦力を証明するための練習試合なんだから、均等にする必要はないのでは……?
いや、ただ単に負けるのが嫌だから難癖をつけているだけか。
「だったらそっちも教えてください。エーコさんの戦力はいくつなんですか?」
「っ……」
「そっちばかり質問してルールまで変えようとしているのに答えられないんですか?」
「チッ! 5万ぐらいだよ! 文句あるか!」
相当気が立っているな。けどこの街で一番強いエラッソのエースで5万なら、他二人のガチャ娘は当然それ未満。そう考えるとエラッソの三人合わせての総合戦力は12万前後くらいか。
今エラッソには二人の冒険者が仲間になっているけど、どちらもガチャ娘は二人。総合戦力は良くて8万くらいだと思う。だから現在の三人パーティーでの合計戦力は28万くらいになるのかな? 念のためにあと一人は仲間を加えようとしているってことろだろう。
でもだとすると、たった一人でも戦力約7万のアリシアは確実にアピールできる!
「ビーナス、エーコを援護しろ!」
「アリシアさん、弓使いが狙っていますよ。気を付けてください!」
ビーナスと呼ばれたガチャ娘は弓を引いて放つ。瞬時にアリシアは的にならないように動き出した。
いい判断だ。スキル韋駄天の効果はまだ続いているし、相手の陣形もバラバラだ。普通、後方支援の弓の前に前衛を置いて守りながら戦うのがゲームの基本だけど、今はエーコとビーナスの位置がバラバラだ。これなら各個撃破できるかもしれない!
「誰にも守られていない弓使いを狙ってください!」
僕がそう指示を出すと、アリシアは凄まじいスピードでビーナスに突っ込んでいく。
「なめないでよね! スキル『命中率増加!』」
スキルを使ったビーナスが矢を放つ! 正確に飛んでいくそれをアリシアは武器を使って払い落とした!
凄い! 自分を狙った飛来物を打ち落とすのにはかなりの集中力や技術力がいる。それに恐怖心を抑え込む必要だってある。今まで回避に専念していたアリシアがそういう行動を取ったという事は、かなり集中して戦闘に臨んでいるということ!
スポーツ選手がゾーンに入り、動くものがスローモーションに見えるレベルの集中力だ。
「くっ……うわああああ!?」
一瞬で距離を詰められた弓兵はアリシアの攻撃でHPゲージが一気に減少していく。そうしながらバランスを崩し、地面に転がった。
「エーコ、しがみ付いてでも動きを止めろぉ! ビーナスはエーコごとスキルで吹き飛ばせぇ!」
とんでもなく非道な命令をしているエラッソにゾッとする。するとアリシアに向かって駆け出していたエーコがそのままの勢いで掴みかかろうと飛び掛かった。
……けれどその命令じゃアリシアは止められない。
「アリシアさん、後退しながら迎撃!」
「わかっているわ」
迫りくるエーコに対してバックステップを踏みながら――
ズババババッ!
無数の斬撃を浴びせていた。
確かに掴みかかるという行動は厄介かもしれない。けれどそれはあくまでスピードが同じ場合だ。エーコとアリシアとではもはや速さの次元が違う。
ジェット機にしがみ付こうとしても簡単に逃げられてしまうようなものだ。このエラッソの無謀な作戦によって、エーコのHPゲージが完全に下がり切っていた。
「このぉぉ!! スキル『シューティングスター!!』」
弓矢を構えたビーナスが叫ぶと、矢が流星のように輝き飛来する。音速を超えるような速さで飛んでくるその光をアリシアは小太刀の切っ先で捉えていた。
刃にぶつかった矢は軌道を変え、同時に身を翻すアリシアの横を光の矢が通過していく。
命中率を上げた相手のスキル攻撃をやり過ごした! 今がチャンスだ!
「ひぃ!?」
無防備となったビーナスにアリシアが切り込んでいく。もはや勝敗は明らかだった。
「くそっ! シーナも入れ! 何がなんでも叩き潰せぇ!!」
「いいえ。もう終わったわ」
アリシアが納刀しながらそう言う。すでに大きなダメージを負っていたビーナスは、アリシア二度目の突進でHPゲージが尽きて地面へと突っ伏していた。
見た感じではエーコと比べて装備は貧弱。レベルも戦力も確実にエースよりも下な訳だから当然かもしれない。
「今から加わっても痛い思いをするだけよ。それともこの二人よりも高いステータスを持っているのかしら?」
「うっ……ぐぬぬ……」
エラッソは言い返せずにいる。
僕としてはなんとか勝てたようで一安心だ。
「これで緊急クエストの討伐メンバーに加えてくれますか?」
「チッ! 分かったよ加えてやる!」
面白くなさそうに吐き捨てると、エラッソは倒れている自分のガチャ娘の所へ歩いて行く。
どうやら討伐パーティーには加えてもらえる上に、アリシアが怪我をしなくて済んだ。そんな事に僕はホッと胸をなでおろすのだった。




