「なんか凄いクエスト出てるわよ? でもこれクリアできる人いるの?」
「よぉ~し、これでクエストクリア~!」
アリシアが魔物にとどめを刺す。これで四回目の討伐クエストをクリアだ。
「お疲れ様ですアリシアさん。少し休憩しましょうか?」
「ううん。平気よ。むしろ戦いのコツを掴んできたから早く戦いたいわ!」
彼女は本当に強くなったと思う。最初のトロールと戦って以降、動きに迷いやためらいが消え、相手に踏み込む動作にも思い切りが出ている。それでも念のため、彼女と戦う魔物は一対一の状況を選んでいるので少し時間がかかっていた。
「では街に戻って五回目の討伐クエストを請け負いましょう」
「ちゃっちゃと終わらせましょ!」
そうしてギルドに戻った僕たちだったが、討伐クエストを請け負う前に新しいクエストが追加されている事に気が付いた。
【緊急クエスト】
悪鬼の討伐
推奨戦力:25万
それは大きく、大々的に張り出されている。緊急クエストってマニュアルにも書いてあったけど、確か予期せぬ事態で緊急性のある事件が起こった時に出されるクエストのはず。
というか推奨戦力25万って半端じゃないな……
「マスター。なんか凄いクエスト出てるわよ? でもこれクリアできる人いるの?」
「う~ん、とりあえず受付で聞いてみましょうか」
そうして少しでも情報が貰えないかと、僕たちは受付のお姉さんに話しかけた。
「あの、今張り出されている緊急クエストって戦力求めすぎじゃないですか? それだけ魔物が強いってことですよね?」
「はい。悪鬼はこの辺では出没しない強力な魔物なのですが、それが今しがた確認されました。急いで討伐しないとこの街に来る行商人や、周りで討伐を行っている冒険者がたに被害が出る恐れがあります。できれば早急に討伐をお願いしたく、報酬も高い【緊急クエスト】に指定しました」
しかし、そう言ってもこれだけ戦力がかけ離れているのでは討伐しようがない……
「このようなクエストは一人で行うのは危険ですので、他の冒険者の方々とパーティーを組み、協力するという手段もございますね。すでに仲間を集めようと広場に向かった冒険者がいましたよ?」
そうか。仲間を集めて討伐するという手があったか。報酬がどうなるかは分からないけど、仲間がいれば勝率は高くなる!
「ありがとうございます。僕も仲間に入れないか交渉してみるので、このクエスト請け負いますね!」
「どうぞご武運を」
そうして僕はギルドを出て、仲間を集めているという冒険者を探した。
広場にいるという事らしいのでこの街の中心地を目指すと、次第に勧誘するような大きな声が聞こえてきた。
冒険者は二人だ。その二人で幅広く声をかけでいる。三人目の冒険者を探しているのだろうか?
「あの、すみません。緊急クエストの討伐メンバーを勧誘しているんですよね? もし良ければ僕も加えてもらえませんか?」
「おお、それは助かる……って、ガチャ娘一人かぁ……」
僕が声をかけると、勧誘していた男性はアリシアを見て迷っている。
「う~ん、とりあえずうちのリーダーに聞いてみよう。あ、ちょうどこっちに来たよ。おお~いエラッソさ~ん。この人が討伐隊に入りたいって言ってるっス!」
広場にいた二人とは別に、街道からもう一人の冒険者がやってきた。そのエラッソと呼ばれる人物に駆け寄り話しかける男性だが、その人物を見て僕はギョッとしてしまった。なんとその人物は、午前中に僕にいちゃもんを付けてきたあの男性だったからだ。
その金髪はツンツンと逆立っており、後ろには例のSRのガチャ娘が三人並んでいる。自称、この街で一番偉い冒険者らしい。
「なんだよ、入りたいってノーマル君かぁ。戦力に期待できないじゃん……」
いや待てよ? ここでアリシアさんの強さを見てもらえば、ノーマルを使ってくれる人が増えるかもしれない。この世界ではノーマルの子たちは肩身が狭い思いをしている。それを出来る限り改善するのも僕の役割なんじゃないかな? 女神様にも期待されているし。
……それにやっぱり、アリシアさんのように人間からも、SRからもないがしろにされる子を少しでも減らせるのなら、こういう所でアピールするべきなんだ。
「あ、あの、うちのアリシアさんは確かにノーマルですけど、結構戦力になると思いますよ。トロールも討伐できてますし」
すると金髪ツンツン頭……エラッソは深いため息を吐いた。
「キミの事はギルドから聞いたよ。元々セカドンに行こうとしてここに辿り着いちゃったらしいじゃん? 正直、そんなんじゃあ全然戦力が足りないんだよ。トロールを討伐したって言うのも、一匹でいる状況を狙ったんじゃないのか?」
「まぁ、そうですけど……」
「キミは勘違いしているな。確かにここ討伐クエストで推奨戦力が8万となっているが、それはあくまでも最悪のケースを考慮しての数字だ。もしもトロール三匹に囲まれてしまったらどうする? そういう状況を突破するのに『8万』くらいは必要だと言っているんだ。一対一で勝つだけなら3万もあれば十分なんだよ」
ぐぬぬ。そうなのか……。舐められっぱなしだけどこういう情報はありがたいし、それをきちんと教えてくれている。きっとこの人なりの優しさで、僕の事を心配してくれているに違いない。怒っちゃだめだよな……
「つまりノーマルのザコが頑張ってトロール一匹を倒したみたいだけど、そんなんじゃ全然ダメって事! はい残念また来週~」
うわ~ムカつく~!! ベロベロバーみたいな表情して完全にバカにしてるよこの人!
こっちだってノーマルを使ってもらうようにアピールするためじゃなきゃこんな奴のパーティーに加わるのなんて願い下げなんだけどな……
けど、今から僕が討伐隊のメンバーを集めたとしても遅いだろう。このエラッソが先に戦力を集めて悪鬼の討伐を終わらせてしまう可能性が高い。だからここはもう少し粘って仲間にしてもらうしかないかな。
……これもアリシアやノーマルキャラのためだ。
「トロール一匹だけじゃなく、ちゃんと討伐クエスト四回終わらせてますよ。それくらいの戦力にはなるはずですから」
「い~やダメだね! キミはアレだろう? この街最強の俺の討伐隊に寄生して報酬だけ貰おうって魂胆なんだろう? ノーマルはそういうやり方じゃないと強くなれないからな。これ以上醜い姿を晒す前に消えたまえ!」
ぬわ~腹立つ~! 誰だよ僕の事を心配してくれているから怒っちゃだめだとか考えた奴は! ……いや僕か。怒りで自分を見失いそうになったよ……
そう思った時だった。
「それならエラッソさん。コイツのガチャ娘と試合をして実力を確かめるっていうのはどうっスか?」
一人の取り巻きがそうチャンスをくれた。
ナイスだ。ここでアリシアさんの力を示せばそれだけでノーマルの評価が変わるぞ!
「ほ~、それはいい考えだ。もしそれで俺に勝てば討伐隊に加えてやってもいいか」
でもそれって殺し合いになったりしないのだろうか?
マニュアルを読んだときにガチャ娘同士の練習試合のような事は書いてあった。けどあまり詳しくは読んでいないんだよなぁ。
「それって間違えて死んだりしないんですか?」
「……キミは本当に初心者なんだな。ガチャ娘同士の戦いは決して死んだりしない。お互いの魔力で制限をかけるからな」
よく分からないからアリシアさんを見ると、彼女もその通りだと言わんばかりに頷いてくれた。
そしてこう付け加えてくれる。
「そうよ。ガチャ娘は同じ魔力で出来ているからね。簡単に言うと、自分の魔力で相手の魔力を傷つけないようにすれば絶対に死ぬ事がないよの。その代わり痛みはあるけどね」
「そうなんですね。けど武器で攻撃しても大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ。だってギルドで支給される武器も召喚士様が作った武器だもの。同じ魔力で出来てるわ」
そう言って、自分の小太刀も同じだとチラつかせてくる。
そうだったのか。ギルドの報酬で配っている武器もガチャ娘と同じ魔法で生まれた物だったのか。
「そんな事も知らないなんて本当にキミは初心者なんだな。冒険者になって何日目なんだ?」
「えっと、今日で三日目ですけど……」
そう答えると、エラッソだけじゃなく他の取り巻きも笑い始めた。
「おいおい! いくらなんでもそれは場違いだぜ。悪い事は言わない。この試合に負けたらもう少し南に行って戦力を上げた方がいい。ここら辺はまだキミには早すぎる」
笑い者にされてはいるけど、そんな事よりも勝負をするなら彼のガチャ娘の強さが気になるところだ。
「勝負ってどうするんですか? 僕はガチャ娘一人しかいませんが」
「ああ、こちらも一人出そう。そのサシ勝負で決着を付ける。その代わり、うちはエースを出すぜ」
「分かりました。胸を借りるつもりでいきます」
そうするとエラッソは腕輪をいじり始めた。すると僕の腕輪も呼応するように画面が表示される。
【プラクティスモードが設定されました】
プラクティスモード。つまりは格ゲーで言う練習モードか。なるほど、腕輪のコマンドからそういう仕様にする事もできるんだな。
「よしエーコ。お前が行け。遠慮する必要はないから速攻で決めろ」
「了解しました。エラッソ様」
向こうは戦士風の女性が前に出てきた。装備もしっかりとしていて、鉄の鎧に大きな剣を持っている。
「ではアリシアさん。お願いします」
「……ねぇマスター」
突然アリシアが、エーコと呼ばれた戦士風の女性を見つめながら僕に問いかけた。
「あの人ってトロールと同じ?」
「はい?」
「簡単に言えば、トロールと同じ戦い方で倒せる?」
「あ~、まぁそうですね。攻撃タイプのようなので、なるべく相手の攻撃は回避した方がよさそうです。そういった意味では同じでしょうか。あとはスキルに気を付けてください」
「ん。分かったわ」
緊張もせず、どこか軽い様子でアリシアも前に出る。
「この人はトロールと一緒……」
なんだかブツブツと呟きながら、アリシアは小太刀を抜き構えを取るのだった。




