「ダーウィン賞はあなたに決まったらしいわよ」
僕の人生はクソゲーだった。
どこでどう間違えたのか、人とコミュニケーションを取ることが苦手となり、友達も出来ずに今は完全な引きこもり。何度か仕事に就くも長続きせずに現在は無職の25歳。
少しのたくわえで毎日ゲームをしているだけの日々だった。
「あ、やべ、まだ三つのゲーム、デイリー消化してなかったな……」
急いでPC画面から三つのゲームを同時に起動させて進行させていく。
「あと三十分か……ギリギリ間に合うかな?」
なんだか酷く疲れてとても眠い。そう感じながらも全てのデイリーを消化しきった。
その瞬間だった。目の前が霞んで一気に眠りへと引きずり込まれていく。
そう言えばもう何日間寝ずにゲームをしていただろうか? それしかやる事がなくて、それ以外に生きがいがなくて……
でも少し眠ろう。そうだよ、もう貯金もなくなる。次に起きたらちゃんとまた仕事を探して、今度こそ充実した日々を送るんだ。大丈夫、次は本当に頑張るから……
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目が覚めると僕はモヤのかかった広い空間に立っていた。まるで雲の上にいるかのような場所だ。
「人生お疲れ様。天霧陣さん」
声がしたので振り返ると、そこには神々しいローブを纏った女性が立っていた。まるで漫画でよくいる神様のようだ。
「え……っと、どちら様ですか?」
「私は転生を司る女神イリーナ。陣さん、あなたは残念ながら死んでしまって、ここへは転生をしにきたのよ」
へ? 僕が死んだ? ええええええええ!?
「ほ、本当ですか!? え、なんで!?」
「過労みたいね。ゲームのやり過ぎによる過労! あなた、何日も寝ないでゲームやってたんでしょ?」
いやまぁ確かにそうだけど! 確かに最後に記憶しているのは倒れるような眠気だったけど!
けれど、よくよく考えたらそれも良い気がする。どうせロクな人生じゃなかったし、死んだと言われたらそれはそれで肩の荷が下りたような感覚だ。
「ちなみに、そんな死に方をした事でその年のダーウィン賞はあなたに決まったらしいわよ」
「ええええええ!? それは嫌だぁぁぁ!!」
ダーウィン賞。それはアホな死に方をした人に贈られる不名誉な賞だ。
生物とは生きていく中で進化していくものであり、人間も例外ではない。その過程で効率良く進化をするにはアホな遺伝子は残らない方がいいらしく、『人間のよりよい進化に貢献してくれてありがとう!』というブラックユーモア的な賞なのだ。
「僕がダーウィン賞……ショックすぎるぅ……」
目の前の綺麗なお姉さんと会話するという非常に緊張するシチュエーションから一転して、不名誉な賞に愕然とする。さすがの僕だってそんな称号は恥ずかしい……
「あらら落ち込んじゃった。けどね、そんなあなたに神の奇跡が与えられることになったわ! なんと、あなたをとある異世界に転生させてあげるわよ~♪」
「へ……? な、な、な、なんだってぇ~~~!?」
さっきから話が急すぎてもう頭がおかしくなりそうだ……
「もう色々とパニックになってるから、とりあえず説明するわね。あなたを異世界に転生すると言っても、それはあくまでも神の都合でしかないの。あなたをその世界に転生させるれば、その世界はより良い方向へと向かうのではないかと判断よ」
僕が……?
「どうして僕なんですか……? そこってどんな世界なんですか……?」
「その世界はね、ガチャが存在する世界なの。あなたはそういうの得意でしょ?」
ええ!? ガチャが存在する世界!? なんだそれ、全然イメージが沸かないな。
「その世界はね、少し歪んでしまっていて今はどんどん悪い方向へと傾きつつあるわ。もしかしたらあなたならそれを正すことができるのではないか。そんな期待があるのよ。だからね……陣さん、あなたには頑張ってそ世界を導いてほしいの!」
明るくて美人の女神様だけど、その時の表情は真剣で、とても悲しそうだった。
どうにかしてあげたいけど歪んだ世界? 悪い方向? 僕にそんな盛大な任務が務まるのだろうか。
「……っていうのは神々の都合よ。あなたは第二の人生を楽しく過ごしてくれればいいわ。地球での人生は大変だったものね」
女神様はもうニッコリとした笑顔だった。でもさっきの言葉は真実で、ちゃんと包み隠さずに話してくれたんじゃないだろうか?
「……分かりました」
「え?」
「僕に何ができるのか分かりません。けど、出来る限りのことはやってみたいと思います!」
そう、僕だって好きでダラダラとゲームをしていた訳じゃない。好んでダーウィン賞なんて取った訳じゃない!
僕だって誰かの役に立ち、手を差し伸べられるような存在になりたかった!
あの時の僕は、目を覚ましたら本気を出すと考えて眠ったのだから!
だから……
「教えてください。僕はその世界で何をすればいいんですか!?」
「あ、それは向こうで考えてちょうだい。そろそろ時間だから、もう送るわね~」
そう言って女神様はパタパタと僕に手を振った。
って、さっきから唐突すぎないか? 僕、いつになく真面目に宣言したのに……
「では、あなたが良き生涯を送れますように……」
そう言われると、僕の意識は急激に落ちていくのだった……
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「はっ!」
目を覚ますと、真っ青な空と大きな樹木が目に映る。どうやら木の根本で寝ていたようだ。
体を起こすと、そこは広い草原だった。
「グルルルル……」
爽やかな風、広がる草の絨毯。そして僕を取り囲む無数の野犬……
「……え?」
「ガウガウガウ!」
「どっひゃあああああ!!」
残念、僕は取り囲まれていた野犬に襲い掛かられ死んでしまった。
完!!
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「うわあああああ! ……死ぬかと思った!」
「いや、実際死んだのよ?」
振り返ると、そこには例の女神様が呆れた表情で見つめていた。
「『僕に何ができるのか分かりません。けど、出来る限りのことはやってみたいと思います!』とかカッコよく旅立った割に死ぬの早かったわね……」
「いやいやいや、なんですかアレ! なんであんな所に放り出すんですか!? こっちは冒険を開始したらモンスターハウスでしたって感じに無理ゲーでしたよ!!」
すると女神様はバツが悪そうに眼を泳がせる。
「いや、まぁ、確かに魔物がいるかどうかの確認はしなかったけど……」
「ほらー! 女神様のせいじゃないですか!! テイク2を希望します!」
「も~分かったわよ。それじゃ特別にもう一回転生させてあげるから」
「しかも転生とか言ってるけどそのままの状態でしたからね! これって転移じゃないんですか?」
「地球での体は死んでるから転生よ。面倒くさいから同じ体を作っただけで」
雑ぅ……! この人綺麗な顔してかなり雑だよ!
「はい、次は簡単に死なないでね。あなたが良き生涯を送れますように~」
いや考える暇も与えてくれないんかい!
そう思っている間にも、僕の意識は落ちていくのだった……
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「はっ!」
目を覚ますと、真っ青な空と大きな樹木が目に映る。どうやら木の根本で寝ていたようだ。
ってのんびりしている場合じゃない! 今度こそ安全を確保しないと!!
転生して一分で死亡して、一分でまた同じ世界に送られるとかどんなコントだよ! 次は絶対にこの世界を堪能してやる!!
「周囲の確認! 前方に街を確認! 魔物なし、ヨシ!!」
指さし確認までやってから、僕は前方に見える街まで走り出す。そう、女神様は言っていた。『魔物』という言葉を。
この世界には魔物が存在して、ガチャも存在する。恐らくだけど、ガチャを引いて戦力を整え、あの魔物と戦うような世界なのではないだろうか?
「だとしたら、やっぱりあの街に入って安全の確保だ~!!」
僕は走る。まだ何もこの世界のこともわからないまま、希望と不安を抱いて街を目指す。
せっかく神がくれた異世界転生なんだ。全力でプレイしてやるぞ~!!




